デッドライン
「着いた……ここが【アインシュベルン皇国】の国境ね……」
「せんぱぁい……やっぱりやめましょうよ、こんなこと……」
「ここまで来て、何言ってんの!」
――舞台変わって、ここはガイアエレヴ南東に位置する大陸【ピーリカ】。
大陸の南西部分に位置する国境近くで、二人組の男女が何やら騒いでいるようだ。
「だって皇国ですよ、皇国! 血も涙もない、人食いの蛮族がいるんですよ!! そんな場所に入っていったら、命がいくつあったって足りないじゃないですか!」
「命が惜しくてジャーナリストなんてやってらんないでしょうが! 不穏な噂に塗れた皇国の真実を解き明かせば、会社だって私達の価値を認識してくれるわ!」
「噂が真実だったら、俺達食肉にされちゃいますよ! 命あっての物種なんだから帰りましょうよ、先輩〜……」
「燻っていたら、明日の飯の種にも困るっての! さっさと行くよジュリウス!!」
「あ、せんぱ〜い!? 待ってくださいよ〜」
――二人組の男女は国境を越えて、鬱蒼とした森林地帯へと脚を進めていく。
高い湿度によって発汗を促進させられ、歩行のペースが落ちてきた二人組は水分の補給のために立ち止まった。
「ふ〜……暑すぎますよぉ……というか先輩、しっかり道をわかっていて進んでいるんです?」
「知らないわよ?」
「はぁ!? マジでありえないですって……迷って遭難したらどうするんですか……!」
「帰り道は覚えているから大丈夫よ、頭の出来が違うっての」
「本当っすかァ〜……?」
「本当だっての。現地の国民さえ見つけちゃえば、そのまま案内してもらえるって計画なんだから、どんどん脚を使って行くわよ」
「それってただの無計画な探索じゃないっすかぁ〜……俺達はジャーナリストであって、冒険家じゃないっすよ!」
「うるさいわね、そうやって文句ばっかり言っているからいつまでも昇進できないのよ」
「先輩だってそうやって無計画に物事を進めるから、上の人に嫌われて窓際に追いやられるんっすよ……」
「なんですって!?」
――二人組の騒ぎがエスカレートした次の瞬間、二人の足元に5本もの鉄矢が同時に突き刺さった。
「うわぁ!?」
「きゃあァァッ!!? なになに!?」
「動かないで」
――声が聞こえた方角へと二人組が目をやると、樹木の太枝に弓を構えて佇む、褐色肌の少年の姿を視認した。
二人は両手を上げながら、小声で会話を交わす。
「何あの子……もしかして現地民!?」
「あ、あいつが矢を撃ったんすよ! やっぱりヤバい国だったじゃないっすか先輩!」
「まだそうと決まったわけじゃないでしょ! 見慣れない人間を警戒することは当然なんだから……幸い言語は私達と一緒だから、話せばわかって貰えるかも……」
「やめましょうよ〜……刺激したら何されるかわからないっすよ……」
「ねぇ貴方! 私達は危害を加えるつもりは無いの!!」
「ちょ……先輩!?」
「道に迷っちゃったから、保護して欲しいなーなんて……」
「…………」
「ちょっとー、聞いてるー?」
「がはッ……!?」
「え……?」
「アハ」
――苦悶の声を聞いて振り返った女性は、ジュリウスが地に伏している現場を目撃し、その傍らには褐色肌の小柄な女の子が、身長以上のメイスを構えて笑顔で佇んでいた。
「ちょっと……ジュリウス……!?」
「アハハ」
「何したのよ……いったい……!」
「動かないでって言ったよね」
「……!?」
――目を離した一瞬の隙に、いつの間にか木の上にいた少年が女性の背後に立ち、首にナイフの刃を押し付けていた。
「ねェヴェルー、これコロしていい?」
「ひっ……!?」
「待ってアルマ、多分この人達は帝国の手先じゃない」
「そうなのー?」
「とはいえただで帰すわけにはいかない。
アルマはこの人が妙な行動を起こさないように監視していて。
僕はこの男の人を抱えて行く」
「みょーなこうどうしたらどうするー?」
「殺さない程度に痛みを与えて」
「わかったー」
「さぁ、ついてきてよお姉さん」
「どこへ……?」
「保護されたいんでしょ、望み通りにしてあげるよ。一生帰れないかもしれないけどね」
「…………!」
「逃げたりしないでよ……その子、力加減が下手だから最悪死んじゃうからね」
――ジャーナリストの女性は、メイスで空振りを行う女の子を背にしながら、ジュリウスを肩で担ぐ少年の後へと続いて行った。




