オニユリ開花(レグナ視点)
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「ん……」
「おはようレグナ」
「ああ……おはようシグマ」
「随分な夢心地だったみたいね、幸せそうな寝顔していたわよ」
「そうか……ブリット君との思い出を夢で見ていたからかもしれないな」
「ほんと入れ込んでいるわよねぇ。
本人よりも師である貴方が、明日という日を一番楽しみにしていたんじゃないかしら?」
「かもしれないな……」
エイジア大陸のプロレス団体へ出向き、約半年の興行参加を終えた私達は、団体所有の船で獣人島への帰路についている最中だ。
「あの子が島に流れ着いた日から、もう1年半くらい経つのねぇ。
もう少し早くデビュー戦をさせてあげても良かったんじゃない? 半年前にはもう、身体も技術も十分仕上がっていたのに」
「スーパースターにすると約束した手前、妥協を残した出来でデビューさせるつもりは無かった」
「厳しいわねぇ……まぁあの子の相手を努めるベッカが1年間の遠征に行ってたから、しょうがない面もあるけど」
「ベッカも1年間の他団体参戦を経験して成長していることだろう。
私の技術を叩き込んだブリット君と、どんな戦いを見せてくれるか、今から楽しみだ」
「そうねぇ……」
―――――――――
長い航路を辿り、獣人島へと辿り着いた私達は、島民達の歓迎を受けながら上陸した。
「おかえりレグナー!」
「ああ、ただいま」
「お疲れ様シグマ!」
「みんな久しぶり〜♡」
プロレスを愛する、複数の子ども達に囲まれながら、ゆっくりとTIWの寮へと向かう。
「明日プロレスやるんでしょ! みんなで協力してもう会場は作っておいたよ!!」
「それはありがたいな」
「ねぇねぇレグナ、ブリット姉ちゃんが試合に出るって本当!?」
「ああ、本当さ。 ベッカとのシングルマッチでメインイベントだぞ」
「楽しみー! 姉ちゃん毎日すっごい頑張っていたからさ、どんなプロレスを見せてくれるか楽しみだよ!!」
「そうだな……私も楽しみだよ」
「それじゃあ、また明日ねー! 試合、頑張ってね二人とも!!」
「ありがとう〜♡」
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TIW寮内のダイニングにて、事前に巡業から戻っていたジェフリーとセインに再会する。
「ようお二人さん!」
「半年間の巡業、お疲れ様です」
「久しぶり二人とも♡」
「あの三人はいないのか?」
「シルフィさんは、トレーニング室でベッカとブリットさんのスパーリングに立ち会っていますよ。
そろそろ戻ってくると思いますが……」
「噂をすればだぜ……」
「お、レグナとシグマじゃん。おひさ〜」
「あらぁベッカ、随分垢抜けたじゃない! 流行りの都会っ子って感じよ♡」
「へへへ、わかる?」
エイジア大陸のヤシマ革新領に遠征していたベッカは、現地のファッションに身を染めていた。
「あんまり褒めないでシグマ……すっかり不良みたいな風貌に染まっちゃって、これ以上エスカレートされたら困るわ」
「良いじゃねぇか母ちゃん、わけぇ内はおしゃれしたいもんだろ!」
「そうそう、親父の言う通り。
見た目はレスラーに重要な要素なんだから、許しておくれよおふくろ〜」
「もう……」
「大きくなったなベッカ、1年前とは見違えるようだよ」
「へへへ……でもブリットはもっと凄いよ。
昔はむちむちだった身体がめちゃくちゃ引き締まっててさ、技も動きもキレッキレなの。
スパーリングなのに、熱くなっちゃったよ」
「そうか……ブリット君はどこに?」
「まだシャワー浴びてるよ、そろそろ来るんじゃないかな」
「お待たせしましたわっ!!」
「お、きたきた」
廊下を走ってくる音を響かせながら、ブリット君がダイニングの扉を勢い良く開いた。
「おかえりなさいませ師匠ッ!! シグマさん!!」
「ただいま〜ブリットちゃん♡ 髪伸ばしちゃって、可愛らしいじゃないの!」
「ありがとうございますですわ!」
「久しぶりだなブリット君……」
「師匠……!」
「素晴らしい肉体だ……半年前とは見違えるほどに……しっかりと鍛え込んで来たのだな」
「はい! ちゃんこを食べまくって、鍛えまくりましたわ!!」
ブリット君の身体は、ジャージの上からでも確認できるほどの見事な厚みを有していた。
「どこに出しても恥ずかしくない肉体だ。
後は培ってきたものをどれだけリングの上で発揮できるかだな」
「師匠や皆さんから教わってきた全てを明日のデビュー戦で出し切って見せますわ!!」
「良い心意気だ……明日のメインイベントはブリット君とベッカのシングルマッチになる。
二人とも、気負わずに臨んでいけよ」
「はい!」
「おっす〜」
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「ぬあぁぁぁ!!」
「オホホホ! このままギブアップしちゃいなさーい♡」
「セイーン! 頑張れー!」
第一試合は私とセイン、ジェフリーとシグマによるタッグ戦で、15分経過した試合模様はセインがシグマに捕まり、あわやギブアップ寸前という状況に追い込まれていた。
「ふん!」
「ぬあぁ!?」
場外でジェフリーに捕まっていた私は、ジェフリーにバックエルボーを叩きこんで拘束から抜け出し、エプロンからトップロープへと飛び乗って腕ひしぎを仕掛けるシグマの肩口へ拳を叩き落とした。
「ぎゃん!?」
「出たぁ! レグナのフィストドロップ!」
「起きろセイン! 連携だ!」
「OK……!」
私はシグマをライガーボムの体勢に持ち上げ、トップロープに登ったセインが持ち上げられたシグマへとダイビングニーアタックで攻撃する。
それを確認した私は、膝を当てられ身体を仰け反らせたシグマをライガーボムでマットへと叩き伏せた。
「がふぅ……!?」
「フォールだセイン! 私はジェフリーを抑える!」
「了解!!」
「くっそお、跳ね起きろシグマァ!!」
「ワン! ツー! スリー!!」
「決まったァ!!」
私とセインのツープラトン技によって勝利を手繰り寄せることに成功する。
勝ち名乗りを受けた私達は、次のメインイベントの邪魔にならないよう、マットを降りて控え室である小屋へと脚を進めた。
戻った私達は、控え室で既にコスチュームに着替えていた、ブリット君と会話を交わす。
「師匠! セインさん! 素晴らしい連携技でしたわ!!」
「ありがとうございます……ブリットさん、何ですかそのマスクは?」
「シルフィさんが作ってくれましたの!!」
「ブリット君は覆面レスラーとしてデビューさせる。
他大陸でプロレスをやっていく以上、実家の母君に生存がバレては、活動に支障が出る可能性があるからな……」
「なるほど……ということは名前も別名義ですか?」
「そうだ……そろそろ試合が始まるから、私達は着替えてセコンドに着くことにしようセイン」
「了解です、頑張ってくださいブリットさん」
「はい!!」
アナウンサーによるメインイベントの煽りが終了し、青コーナーへとベッカが先に入場して行く。
「青コーナー! 160cm、132ポンド……ベッカァァ・ネルソォン!!」
「イエーイ」
「ベッカァ!! レグナの弟子に負けんじゃねぇぞォ!!」
「ぼくのが2年先輩だから、負けらんないよ」
父親であるジェフリーをセコンドにつけ、悪役的な意匠の黒を貴重としたコスチュームに身を包んだベッカが入場を終える。
「いよいよですねレグナさん……」
「ああ……」
ヤシマの作曲家に作って貰った、ブリット君のイメージに合う快活な入場曲が会場に鳴り響く。
控え室の小屋から出てきたブリット君は、緑と青のツートンカラーが特徴的な、ツインテールに束ねた髪を風にたなびかせ、満面の笑顔でリングへと全力でダッシュし、トップロープを飛び越えてリングインし、コーナーのセカンドロープへと両脚を乗せた。
「赤コーナー! 185cm、178ポンド……。
"タイガー・リリー"!!」
「いよっしゃあ!! ですわ!!」
名乗りと共に片腕を上げて観客にアピールした瞬間、新星への期待に満ちた大歓声が観客席から上がった。
「夢の始まり……ですわ!」
いずれ世界の救済へと至る、ブリット・クルグロフ改め、覆面プロレスラー"タイガーリリー"の伝説が、この瞬間より始まった。
次回、土生金の章
趣味色の強い章であるため長くなりました。
こんなテンションで進む章ですが、しっかりと物語に絡んでくる章ですので、応援頂けると幸いです。




