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五芒星の魔女  作者: 南無三
水生木の章〜始動
23/51

腹が減っては何とやらですわ!(ブリット視点)

「はわぁ……」


 試合が終了しても、冷め止まない興奮が胸の鼓動となって止まりませんわ……。

 特に最後のレグナ様が放った空中半回転の飛び技が、目に焼き付いて離れませんの。


「随分幸せそうだねぇ、楽しかったかい?」

「ええ、それはもう! 鍛え抜かれた身体と技をぶつけ合って、どれだけ追い詰められても立ち上がる! とてもヒロイックで、ファンタジックな格闘技で、感動いたしましたわ……」

「ふふふ、嬉しい感想だねぇ」


「ベッカさんもプロレスラーなんですの?」

「そうだよ、まだチャリティプロレスに二試合出た程度だけど」

「まだお若いのに凄いですわ……」

「ふふんっ」


 ベッカさんと楽しく会話を交わしていると、わたくしのお腹の虫が空腹を告げる音を響かせましたわ……お恥ずかしい。


「そういえばブリット、朝から何も食べてないよね」

「そうでしたわ……」

「良かったらTIW(うち)で夕飯食べていきなよ」

「良ろしいんですの? ご迷惑では……」

「飯は大量にあるから気にしなくて良いよ、最初に保護した責任もあるしね」

「では……お言葉に甘えさせていただきますわ」


――――――――


 日も落ちて来た時間帯に、団体さん所有の広い寮内の台所で、ベッカさんは大量のお野菜とお肉の下ごしらえを手際よく終え、煮沸したお鍋の中に投入しましたわ。


「凄い量の食材ですわね……これ全部食べますの?」

「今日はうちのレスラー勢揃いだからね。

 ぼくも身体大きくしなきゃいけないし、ブリットは無理しなくて良いからね」

「あのレスラーの方達と一緒に食事できますのね……何だか楽しみですわ……!」

「食いっぷりに圧倒されちゃうかもよ……これ運ぶの手伝って欲しいな」

「畏まりましたわ!!」

「熱いし、重いから気を付けてね」


 ベッカさんから、既に食材を煮ていたもう一つの大鍋を託されたわたくしは、これから食事を取るダイニングの扉を開きましたわ。


「あら貴女……」

「あっ……! 貴方達は一試合目の……」

「試合を観に来てくれたのネェ、嬉しいわ! ……というか身体の方はもう大丈夫なの?」

「身体のダルさはすっかり吹き飛びましたわ!!」

「強い子ねぇ……」


 わたくしは食材が入った大鍋を長机に置き、先にダイニングに着席していたお二方が居並ぶ席の正面に座りましたわ。


「そういえば名前聞いてなかったわね……アタシは【シグマ・ワーグライア】よ。

 よ・ろ・し・く・ね♡」

「【セイン・リード】です……よろしく」

「ブリット・クルグロフと申します。

 アイスノルド大陸のサンディマニ公国領・マートマの統治を行うクルグロフ家の跡取りですわ!」


「アイスノルド大陸って貴族制が根付いた大陸よね……一領地の統治をする家の跡取りなんて、結構良いとこのお嬢様じゃない!」

「あはは……そこまで凄い家ではありませんわ」

「謙遜しちゃって〜でもそうなると、昼に話していた内容に陰謀じみたものを感じるわねェ」

「何の話で?」


「この子、狼藉者に眠らされて、起きたら海に放置されていたそうよ。

 家に恨みを持った人間が娘を暗殺しようとしたのか……それか身代金目的で誘拐しようとしたのかも!! きゃーサスペンス!!」

「考えすぎな気が……」


「ふぃ〜、すっかりちゃんこ腹だぜェ」

「ひゃあっ!?」


 ダイニングの扉が勢い良く開かれて、ベッカさんのお父様が部屋に入って来ましたわ!


「あらジェフ、レグナは?」

「運動して更に腹減らして来るとよ……。

 ん? 今朝ベッカが見つけたネーちゃんじゃねぇか」

「ど、どうも……お世話になっておりますわ……」

「おうよろしく!! 俺はジェフリーだ!!」


 ベッカさんのお父様は、恰幅の良い体格が邪魔にならないよう、長机の奥の方に着席しましたわ。


「ベッカと一緒に試合を観てくれていたよな! 俺の場外乱闘に巻き込まれて怪我したりしなかったかい?」

「大丈夫ですわ、ベッカさんが退避させてくれましたので」


「そうか! いやぁ、俺は試合中は我を忘れて暴れちまうからよぉ、何も無かったのなら良かった! 試合は楽しかったかい?」

「ええ、とても! ロープの上から宙返りした時は肝が抜かれましたわ!!」

「ぶわっはっは!! この身体で跳べるのが俺の長所だからな!!」

(試合中の恐ろしさとは、打って変わって気さくなお方ですわね……)


「親父〜、セクハラしてんじゃねぇぞ〜」

「してねぇよ!?」


 ベッカさんが先程食材を投入していた、目を見張るほどの大鍋を持って来ましたわ。

 

「まだレグナは来てないの?」

「腹空かして来るとよ、冷めない内に先に食っちまおうぜ」

「そうだね」


 ベッカさんがわたくしの隣に着席し、食事前の挨拶を行いました。


「「「「 いただきます! 」」」」

「木の聖女がもたらせし実りに、大いなる感謝を!!」

「……変わった挨拶だね」


 ベッカさんが作ったお鍋料理の具材を、各々が席に配膳された大皿に盛り付けて行きましたわ。


「……! 美味しいですわ!」

「そりゃ良かった、舌に合わなかったらどうしようかと」

「アイスノルドの鍋料理ってどんな感じなのかしら?」

「わたくしの故郷ではトマトを煮込むのが主流でしたわ」

「へ〜美味しそうねぇ、今度作ってみてよベッカ!」

「はは……努力してみるよ……」


 談笑しながら食事を楽しんでいると、再びダイニングの扉が開かれましたわ。


「すまない、遅くなった」

「おうレグナ、おせぇから先に食っちまってるぜ」

「構わんさ……おや、君は……」

「…………!?」

「確か漂着してきたという子だったな……会場で見かけた時は、身体は平気なのかと驚いたものだ。

 私は【レグナ・ヒュドール】、君の名は?」

「…………」

「……?」


 憧れのレグナ様が、逞しい上半身をこれでもかと主張してわたくしの目の前にいる事実に、思わず呆けてしまいましたわ……。


「あーレグナ、この子の名前はブリット。アイスノルド大陸出身の貴族なんだってさ」

「そうか……」

「ピュアな子だからさ、上半身裸のままじゃ刺激が強いだろうし、服着て来なよ」

「む……わかった。すまなかったなブリット君」


「…………」

「おーいブリットー」

「……はっ!?」

「裸に見とれてたなぁ、助平め」

「ち、違いますわよ! ただその……あのお方を目の前にすると緊張しちゃって……」

「すっかり虜だねぇ……まぁレグナに魅入られてプロレスラーを目指す人は多いから、気持ちはわかるよ。ぼくもそうだったし」


「セインもその口よねぇ、エイジア生まれなのにこんな島まで来ちゃって」

「若いレスラーなら誰でも憧れますよ」

「おいおい、俺に憧れてくれるやつぁいねぇのかぁ!? 一応レグナとは同期だぜぇ?」

「尊敬されたいなら、まずその腹どうにかしろよ親父」

「う、うるせぇ! この身体で跳べるのがウリだろうがよ!」


「ははは、盛り上がっているな」

「ああ、誰かさんのおかげでな!」

「……!!」

「おーい、また固まってるぞー」


 レグナ様がジェフリーさんの正面に着席し、大鍋から大量の食材を大皿に移して行きましたわ。


「おいレグナ、久々に俺と大食いで張り合わねぇか? 試合じゃ負けたが、こっちじゃ負けねぇぞ!」

「良いだろう、受けて立つ……!」

「ちょっと! あんたらが張り合ったら、アタシの分が無くなっちゃうじゃないのよ! そうはさせないわ!」

「あ、人参にはあんまり手つけないでくださいね」


「始まったよ、男どもの大食い大会が……」

「あはは……凄い食べっぷりですわね……」

「ぼく達は大人しく食べよっか……」


 凄まじい勢いで、男性陣の大鍋に入った食材がみるみると減っていきますわ……。

 かくいうわたくしもその熱に当てられ、空腹も手伝ってベッカさんとほぼ同量の食材を平らげましたわ!


「ぼくとほぼイーブンの食事量とは……やるねぇ」

「伊達に身体が大きいわけではありませんわ!」

「ははは、良い食いっぷりじゃないかブリット君」


(褒められましたわ……!)

「ん? 顔が赤いぞ……やはりまだ身体の調子が悪いのではないか?」

「おめーのせいだよ、この人たらしィ」

「?」


「はー食った食った! んじゃ片付けは頼んだぜベッカ!」

「え〜……」

「雑用は見習いの仕事だろうが、嫌そうにすんじゃねぇ!!」

「わーったよ……」


 ベッカさんは平らげられた大鍋を二ついっぺんに持ち去って行きましたわ。


「さて……ブリット君はアイスノルドの出身と言っていたな」

「はい、サンディマニ公国領のマートマの出ですわ」

「アイスノルド大陸なら、TIW(うち)が所有している船で十分辿り着ける距離だ。

 明日にでも送り届けることができる。」

「それは……非常に助かりますわ、母上様や領地の方々が今頃心配しているでしょうし……」


「だが……一つ聞きたいことがある」

「聞きたいこと……?」

「うむ……君は何者かによって眠らされて海に放置されていたらしいが、何故そのような目にあったのか心当たりは無いか?」

「……特にありませんわ。

 実家は貴族といってもそこまで裕福なわけではありませんし、わたくしも人に恨まれるような行いはしていないはず……」


「身内に嫌われていたり……とかは?」

「ちょっとレグナ……!」

「……強いて言うならば母上様とは良好な仲とは言えませんわ。考え方の違いで普段から衝突してばかりですし、聖女になれなかった時はカンカンに怒られましたし……」


「聖女ぉ? 何だそりゃ」

「アイスノルド大陸は【聖女信仰】が根強い大陸と聞いたことがありますね……聖女の力を持つ人は大国の王になれる程とか」

「それは凄い話ねぇ……聖女が何なのかはわからないけど」


「魔女っているじゃないっすか、魔術を魔具が無くても使えるっていう……その魔女を救世主のように崇める思想が聖女信仰で、聖女は魔女を呼び換えただけの言葉ですね」

「へー」


「…………」

「どうしたのよレグナ? 考え込んじゃって」

「……ブリット君」

「はい……?」


「君は、大陸には戻らない方が良いかもしれない……」

「……え?」


 レグナ様のお言葉に、わたくしを含めた全員が驚きの表情を浮かべましたわ……。

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