TIWチャリティ興行・メインイベント1
「ぐわっははははっ!!」
――恰幅の良い猫顔黒毛の獣人、ジェフリーが豪快な笑い声を上げながら入場する。
ブリットは、先程の二人のプロレスラーとは規格が違う体格を誇るジェフリーの姿に驚愕していた。
「何て大きさですの……! 身体の厚みがまるで違いますわ……」
「ちなみにあれ、ぼくの親父ね」
「えぇっ!? 全然似てませんわ……」
「青コーナー! 188cm、309ポンド……ジェフリー・ネルソォン!!」
「うらあぁぁぁ!!」
「今日は勝てよー親父ー、レグナには12連敗中だからなー」
「うるせぇぞベッカ!? 恥ずかしい指摘すんじゃねぇ!」
――父娘のコミカルなやり取りに、観客達は笑いの渦に巻き込まれる。
「あんな見るからに強そうなお方が12回も負けるなんて想像つきませんわ……」
「まぁ親父は見た目通り強いよ、それ以上にレグナが圧倒的に強いだけさ」
「そんなに強いとは……どんなお姿と試合を見せてくれるか、楽しみですわ!」
「ふふふ、虜だねぇ……さぁ、お待ちかねのヒーローが入場してくるよ」
――壮大かつ、勇猛な入場曲がかかると同時に観客席の子供達が沸き立つ。
曲の伴奏がサビに入った瞬間に小さな離れ小屋からレグナが登場し、会場のボルテージは最高潮に達する。
(あのお方が……! 何て雄大で力強い姿なのかしら……!)
――ブリットは誰よりも大きく、厳しくも優しさを秘めた眼をした獅子顔のレグナの風貌に、目と心を奪われる。
入場用のマントをたおやかに靡かせながら、ゆっくりかつ堂々とリングへと歩を進めるその姿は、正にカリスマそのものであった。
レグナはリングのトップロープを跨いで入場し、コーナーのセカンドロープに登ってその存在感を存分に客席へと誇示する。
「赤コーナー! 196cm、276ポンド……レグナ・ヒュドールゥゥ!!」
「オラァァァッ!!」
「……ッ!?」
「ああっ!?」
――コールされるや否や、ゴングが鳴る前にジェフリーはレグナへと襲撃し、セカンドロープに登っていたレグナを場外へ叩き落として自らも場外へと出向いて行く。
「試合が始まる前に攻撃しましたわ! あんなこと許されますの!?」
「駄目だけど、良いんだよ」
「矛盾していますわ!?」
「ルールというよりモラルの問題だから……悪役レスラーは悪い事してなんぼだしね。
そんなことよりほらほら、場外戦が始まるよ」
「場外戦……!?」
「会場の皆様、お気をつけください! お気をつけください!!」
「オラオラオラオラ!! どきやがれェ!!」
「きゃあっ!? こっちに来ましたわ!?」
「席立とうか、巻き込まれちゃうから」
「死にやがれレグナァァッ!!」
――レグナの首に手をかけて拘束するジェフリーは、近くの観客席から観客が立ち上がって避難したことを確認し、レグナの身体を思い切りパイプ椅子が並ぶ観客席へとぶん投げた。
「きゃあぁぁッ!?」
「いきなり仕掛けにいくじゃん、親父のやつ」
「ぐっはっは!! 絞め付けてやるぜェ!!」
「ぐぅおォォ……!!」
――レグナが着用するマントを利用して首を絞め上げる。
「無茶苦茶ですわ……! ルールも何も機能していないじゃありませんの!」
「親父ー、もっと派手にいこうぜ。ほいこれ」
「ベッカさん!?」
「おっしゃあ!! くたばりやがれェェッ!!」
「ぐああぁぁッ!!」
「ひやあぁぁぁ!?」
――ジェフリーはベッカから手渡されたパイプ椅子で、跪いたレグナの背中を思い切り打ちつけた。
「こ……こんな横暴、許されませんわ! 真面目に闘いなさーい!!」
「そうだそうだー卑怯だぞー」
「貴女も加担していたじゃありませんの!!」
「てへっ」
「あーん? 聴こえねぇなぁ! こいつが潰されるところ、良く見とけ馬鹿共が!!」
――観客のブーイングが飛び交うことを気にすることもなく、ジェフリーはふてぶてしくレグナの身体を引きずって行き、リングを支える鉄柱にレグナの身体をもたれかけさせる。
「ぶっ潰してやるぜェ!!」
「あんなに離れて……まさか……!」
「どらあァァァッ!!」
「ぐはあァァァ!!」
――十分に距離を取ったジェフリーはレグナへと疾走し、その勢いのまま自らの身体をレグナの身体へと押し付けて鉄柱と挟み込む。
140kgの大男の身体と鉄で、身体をサンドイッチされる衝撃的な光景に観客達は悲鳴を上げた。
「あんなの骨と内臓が破壊されてしまいますわ……!」
「よー受けるわレグナも。ぼくだったらかわして逆に鉄柱にぶつけてやるのに」
「美学は理解できますが……それが原因で追い込まれていては本末転倒ですわ……」
「どれだけ追い込まれても跳ね返していくのがプロレスラーさ。
レスラーの本領は追い込まれてから発揮される……しっかり観てなよ、プロレスの真髄を」
「ジェフリー! さっさと戻れ!!」
「今戻ろうとしたところだっての! おら、入れェ!!」
――致命的なダメージを受けて倒れたレグナを無理矢理リングに入れ、続けてリングインしたジェフリーはレグナの片脚を持ち上げてフォールする。
「ワン! ツー!」
「ぬん!」
「チッ!! オラァッ!!」
「ぐおぉぉ……!!」
「"キャメルクラッチ"……腰に乗っかった状態で両腕を膝で拘束し、腕を使って顎を持ち上げて反り上げる……腰と首を効果的に痛めつけられる拷問技さ」
「あんな巨漢に乗っかられたら、抜け出せませんわ……! ただでさえ、先程のダメージが響いているでしょうに……」
――絶望的な状況であったが、観客席の子供達はレグナの逆転を信じて声が枯れるほどの声援を送り続ける。
「負けるなレグナー!」
「ギブアップしちゃダメぇ!!」
「ぬぐぅぅ……!! うおぉぉぉッ!!」
「ぬおッ!?」
「腕の拘束を解いて、腕立てで身体を浮かせた……!? あの体勢から何を……」
「ぬぅあァァァァァァッ!!」
「うおわァッ!?」
「両膝を抱えて無理矢理立ち上がりましたわ!?」
「すっげぇ馬鹿力……あんな力技、レグナにしかできない芸当だよ」
――子供達の声に呼応し、ジェフリーの両膝を抱えながら起き上がったレグナは、おんぶのような体勢で抱えたジェフリーをコーナーで押し潰し拘束を解除する。
形勢逆転したレグナはコーナーに押しつけたジェフリーの胸を腕で制しながら、天高く片腕を突き上げて観客にアピールを行う。
「行くぞー!!」
「行けー! マシンガンチョップぅ!!」
「ぬおぉぉあぁぁぁッ!!」
「ぎゃあぁぁぁ!?」
「胸板に何度もチョップを叩きこんでいますわ!」
――チョップの連打に苦悶するジェフリーは、脚をバタつかせて痛みを堪え続ける。
最後に一際鋭いチョップを放ち、ジェフリーの体力を奪ったレグナは対角線のコーナーへとハンマースローでジェフリーを移動させ追撃する。
「アックスボンバー!!」
「ぐはぁッ!?」
「でたぁ! アックスボンバーだ!」
「物凄い勢いでかち上げた腕をぶつけましたわ!」
「親父のやつ、思いっきり身体を跳ねさせてやんの。まぁ逃げ場が無いからああやって受け身を取るしか無いか……」
「飛ぶぞー!!」
――ロープ際にジェフリーを寝かせたレグナはトップロープへとよじ登って行く。
「させるか馬鹿がよ! オラァッ!!」
「ぬあッ!?」
「あー! 阻止されてしまいましたわ!」
「あれはヤバいかもねぇ……」
「ぐはは! 目にもの見せてやらァ!!」
――起き上がってトップロープへ登ったレグナの足元を掬い、コーナー上に座らせることに成功したジェフリーは自身も同じコーナー上のセカンドロープへと登る。
デカイ頭で放ったヘッドバットでレグナの動きを沈静させたジェフリーは、ロープに登った状態のままブレーンバスターの体勢に持っていく。
「まさか……!? あの高さから投げるつもりですの!?」
「だろうねぇ」
「リングが壊れちゃいますわよ! というか死んでしまうのでは……!」
「ダラァァァァッ!!!」
――レグナの身体をぶっこ抜き、自身ごと背中を高所から落下させ、島全体に重低音と振動を響き渡らせた。
「きゃあぁぁぁ!? 本当にぶん投げて……」
「グゥゥッ……!? ヌアァァァッ!!」
「!? あんな高所から落とされたのに、すぐに立ち上がりましたわ!?」
「ふふ、意外と頑丈なもんでしょ……リングもレスラーも」
「ジェフリィィッ!!」
「おぉうッ!? ぐはッ!!」
「顎をかち上げるエルボースマッシュだ! それも連続で!」
「ベッカさんのお父様も先程の技でかなりのダメージを受けていますわ……! このまま押し切れるかも……!」
「終わりだッ!!」
「ぐはぁッ!!」
「ローリングエルボー! 強烈だねぇ」
「レグナさんが背後を取りましたわ!」
「スープレックスかな? 親父は重いけど、レグナのパワーなら……」
「ぬぅぅぅ!!」
「おあー!? 離せ! あっ!? レフェリーありゃ何だぁ!?」
「あ?」
「せりゃ!」
「ああァァァッ!?」
「レグナさんのお股がぁ!?」
「レフェリーの気を引いている内に急所攻撃か……流石親父、ズルいねぇ。
レグナのちんちんに大ダメージだ」
「はしたないですわよぉ!?」
「オォォォラァァァァッ!」
――致命的な隙を作ったレグナの股ぐらと背中に腕を通し、レグナの身体を自身の胸の高さまで持ち上げたジェフリーは、コーナー近くのリングに自身の体重を乗せるように叩きつける。
俗に言う、"アバランシュプレス"である。
「決めるぞオラァッ!!」
――フィニッシュ予告をしたジェフリーはリング内からロープによじ登り、ダウンしているレグナに背を向ける形でトップロープへ登り詰める。
「あんな体勢からどんな技を出すつもりですの……?」
「出るか親父のフィニッシュムーブ……。
"ムーンサルトプレス"が……!!」
「ムーンサルトプレス……!?」
――レグナの位置を確認したジェフリーは険しい顔を浮かべて強く目を閉じる。
覚悟を決めたかのように刮目した次の瞬間、ジェフリーはバック転しながらレグナの元へと跳躍した。




