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五芒星の魔女  作者: 南無三
水生木の章〜始動
20/51

TIWチャリティ興行・第一試合

「「 うらァッ!! 」」


――両者は両腕を相手の首にかけて組み合い、気合を声に込めながらじっくりと力を掛け合う。


「今のところは普通のレスリングですわね……衣装と入場が派手なところ以外は」

「序盤はペースの掴み合いさ……どっちが主導権を握るかな?」


――組み合いを制したシグマに主導権を奪われまいと、セインは自らロープへと身体を持たれかける。


「ブレイク!」

「ロープに身体をかけた相手からは離れないといけないんだ。レフェリーが5カウントを取るまでに離れないと、反則負けになる」

「なるほど……」

「ロープだシグマ! ワン! ツー……」


――身体から離れようとしないシグマに業を煮やしたレフェリーがカウントを始める。

 ツーのタイミングでゆっくりと身体から離れ始めたシグマであったが、何かを企んでいるかのような悪戯な笑みを浮かべていた。


「そらぁっ!!」

「ヅあぁッ!?」


――シグマは離れた瞬間に、ガラ空きとなったセインの胸板へと張り手を叩きつけ、会場に強烈な破裂音を鳴り響かせたことで客席を盛り上げる。


「えぇっ!? 張りましたわ! 思いっきり胸を張り手しましたわよ!?」

「良い音だよねぇ」

「音が良いとかの問題では無く! レスリングで打撃なんて反則じゃありませんの!」

「良いんだよ、プロレスは投げ技・打撃技・絞め技・関節技……何でもありの総合格闘技だからさ。

 一応やっちゃいけないこともあるけどね」

「それはレスリングって呼べますの……?」

「レスリング要素はしっかり勝ち負けに関わってくるよ。ほら、あれ」


――試合に目を向けると、シグマが自身の片腕とセインの片腕を絡み合わせた状態で投げ伏せる"アームホイップ"を仕掛け、マットへ倒れたセインの身体を押さえつけている。


「ワン!」

「だあっ!」

「今のは?」

「投げ技からのフォールさ。身体を押さえられたレスラーの両肩がマットについた状態で、レフェリーが3カウントを取ると押さえつけた側の勝ちになる。しっかりレスリングしているでしょ?」

「確かに……」


――フォールを返したセインを仰向けに寝かせたまま、シグマは自分の両脚でセインの首を挟み込み、締め上げる。


「長い脚での"レッグシザース"は映えるねぇ。絞め技や関節技でギブアップ、レフェリーストップを取っても勝ちになるよ」

「しっかり極まってますわよ……あれはもう返せないのでは……」

「まぁ見てなって」


――数十秒は絞められた状態で必死に抵抗するセインに対し、観客達は声掛けや拍手で激励を行う。


 激励が耳に届いたセインは脚をマットに何度か打ち付けて力を溜め、力を溜めた脚を大きく天に向かって跳ね上げた次の瞬間、勢い良く身体を跳ね上げるネックスプリングの要領で拘束から抜け出し、観客を大きく沸かせた。


「す……凄いですわ……! あんな抜け出し方をするなんて……」

「でしょ? さぁ試合が動くよ……」


――抜け出したセインはロープへ向かって走り出し、その動きを見たシグマはセインの足元へと身体を寝かせて躓かせようと試みたが、素早く反応したセインはシグマの身体を飛び越えて回避し反対側のロープへと更に加速して行く。


「ちッ! これでも食らいなさ……あら!?」


――目論見を回避されたシグマは立ち上がって反撃のバックエルボーを試みる。

 しかし、セインは身体を回転させながら華麗に回避し、更にロープの反動を利用して加速する。


「どぉらぁっ!」

「いったぁ!?」

「よっしゃあッ!!」

「いいぞー! セインー!」


――加速した勢いそのままにシグマへと跳躍したセインは、身体をひねらせながら放った蹴りを顔面にぶつけてダウンを奪い、観客席に向かって雄叫びをあげ会場を盛り上げた。


「何て豪快な技ですの……! 空中で回転しながらキックを浴びせるなんて!」

「"フライング・ニールキック"、セインの得意技さ。これで暫く流れはセインのものになるはず……」


――ベッカの言葉通り、コーナー端にシグマを立たせたセインはバックエルボーを連続で叩きこんで有利にダメージを与えていく。

 ぐったりしたシグマを見て十分に弱ったと判断したセインは、対角線のコーナーへと走り込んで位置取り、再びシグマへと疾走して技を繰り出そうとする。


「……なぁんちゃって!!」

「ぐわっ!?」

「おー、やられた振りしてカニ挟みで転ばせて形勢逆転。ズルいねぇ」


――脚を挟まれて盛大に転んだセインは、顔面からコーナーに激突してぐったりとコーナーとロープにもたれかかる。

 シグマはもたれかかったセインの背中に片膝をぐりぐりと押し付け、コーナーと膝に挟まれたセインは苦悶の声をあげた。


「ぐあぁぁあ……!」

「イッエーイ!! ハジけるわよー!」

「あれは反則じゃありませんの!?」

「反則だよ」

「何で反則行動を積極的に……」


「離れろシグマ、ロープだッ!! ワン・ツー・スリー・フォー!」

「はぁい、離しましたぁ」

「あんな風に5カウント取られなきゃ負けにはならないから、ギリギリまでラフな攻めをするのは戦術の一貫なのさ」

「ぐぬぬ……理屈は理解できますが、モヤモヤしますわ……」

「慣れたらアジになるよ」


――逆転したシグマはセインの首を片腕で締め上げながら、リング中央へと移動する。

 

「さぁ! ぶん投げちゃうわよー!!」

「……ナメんなっ!! オラァ!!」

「痛った!?」


――シグマは投げる前のアピールに気を取られ、一瞬拘束を緩めた隙を突かれてセインを自由にしてしまい、頬に肘打ちを食らってしまう。


「やったわねぇ……! こんちくしょう!」

「づっ! シャっ!!」

「ドちくしょう!!」


――お互いに一歩も引くことなく、相手の顔面に肘打ちを交互に当て続ける。

 観客は肘が当たった瞬間にかけ声を合わせて、両者の意地の張り合いを賑やかす。


「どうしてお互い防御もせずに交互に撃ち合っていますの……? 躱すなり、一方的に殴るなりすれば宜しいのに……」

「あえて受け止めているんだよ。

 プロレスっていうのはただ強さを押し付けるだけじゃ美しくない……相手の技を受けきった上で、一歩先を行くのが美学なのさ」

「……凄い世界ですのね……」


「ちぃ……! しゃあ!!」

「あんッ!?」


――肘打ちの応酬ではアドバンテージを取れないと判断したセインは、胸板への逆水平チョップに技を切り替えてゆく。


「えっちィッ!!」

「ぶッ!?」

「顔面にモロに張り手が!」

「シグマは胸に攻撃されると、キレて顔面にビンタするんだ」


――恥じらいながら顔面に放った高速ビンタは凄まじい音を響かせ、予想外に強烈な一撃を貰ったセインは身体をふらつかせる。


「チャーンス!!」


 好機を掴んだシグマは背後からセインの片足と腰に手をかけて、マットと平行になるように身体を高く持ち上げそのまま背中から叩き落とした。


「ぐはっ……!」

「あんなにも高く持ち上げて落とすなんて……! あれじゃあ呼吸ができませんわ……!」

「しっかり受け身は取っているから大丈夫。

 レスラーの身体は頑丈なだけじゃなく、確かな受け身の技術で更にダメージを減らせるから、そうそうやられはしないんだ」


「さあ〜! フィニッシュよ〜!!」


――勝利を予告したシグマは、コーナー上のトップロープへと登り立つ。


「あれは何をしていますの……? あんな高い場所に登って……」

「飛ぶんだよ」

「飛ぶ!?」

「ダウンしているレスラーにトップロープから飛んで肘や膝を落としたり、身体で押し潰したりするのさ。

 100kg近い身体を高い場所から押しつけて相手を圧殺できるから、必殺の一撃として申し分ない威力を出せるんだ」

「普通の格闘技ではまずありえない技ですわ……」

「ファンタジックでしょ?」

「そうですわね……」


「スワントーン! ボーム!!」


――大手を広げた体勢でトップロープを飛び立ち、空中で美しく前転してダウンしているセインを背中で押し潰そうとしたシグマであったが、ギリギリのタイミングで躱されてしまったことでマットに強く背中を打ちつける結果に終わってしまった。


「いッ!? たぁ〜ッいぃ!?!」

「まぁ、あんな風に躱されたら自爆しちゃうからリスクも大きいんだけどね」

「うわぁ……あんな高い場所から背中を打ちつけて……! 観ているだけで痛みが伝わって来ますわ……!」


――リングの中央で打ちつけた背中に手を当てて痛がる素振りを見せるシグマの隙を逃さぬよう、セインは急いでロープに走り込む。


「らぁっ!!」

「ぎゃばッ!?」

「きたー、スライディングキック!! 顔面一閃!」

「よっしゃ終わりだァ!!」


――首を掻っ切る仕草を行いながら、勝利予告をやり返して会場を大きく沸かせたセインはシグマの身体を無理矢理起こす。

 そのまま首の上に右腕をかけ、左手でシグマのロングタイツを掴み上げて、頭がマットに対して垂直になるよう持ち上げ、そのまま自身の背中ごと落下させた。


「ぎゃふん!!」

「きゃあ!? 頭から落としましたわ!」

「"垂直落下式ブレーンバスター"……セインの必殺技さ。これは決まったかな」


「レフェリー!」

「オーケー! ワン! ツー! スリー!!」

「しゃおらァ!!」

「勝者! セイン・リード!」


「決まりましたわ!!」

「あれだけ綺麗に頭から落とされたら、返すのは厳しいよねぇ」


――勝ち名乗りを受けたセインは自身の入場曲をバックにリングを降りて、客席最前列の子供達とハイタッチを交わしながら退場してゆく。

 敗れたシグマも首を抑えながら、観客の励ましの言葉に笑顔を返しながらヨロヨロと退場していった。


「凄いんですのねプロレスラーって……あんな技を受けて直ぐに立ち直れるなんて」

「逃げ出したくなるような、厳しい訓練に耐えた超人だけがなれるものだからね。憧れちゃった?」

「ええ、とっても!」

「ふふふ、次の試合を観たらもっとプロレスを好きになれるよ……」


――再びアナウンサーが、興奮冷めやらぬリングへと上がる。


「さぁ皆様、次の試合は本日のメインイベント!

 暴君・ジェフリーVS絶対強者・レグナによるシングルマッチを行います!!」


――アナウンサーの煽りを受けた瞬間、会場のボルテージは最高潮に達し、子供達は歓喜の声を上げてレグナの名を叫んだ。


「レグナ! レグナ!」

「レグナという方、凄い人気ですのね……」

「この島でいっちばん強くて、カッコイイ男だからねぇ。なんならプロレス界のレジェンドそのものだよ」


――アナウンサーがリングから降りた瞬間、重低音の不穏な入場曲が流れメインイベントの始まりを告げた。

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