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五芒星の魔女  作者: 南無三
火生土の章〜邂逅
14/50

土の魔女(クレス視点)

「ぺしゃんこにしてやるよカス野郎……! 行け母なる巨人(アウルボザ)!!」


 土で造られた巨人が女児(ガキ)の指示を受けて、デカブツに似つかわしくない機敏な動きで俺に向かって走り出す。


 走った勢いそのままに拳を振り下ろす巨人の攻撃を跳躍して回避し、空中に浮いている間に火の生命エネルギーを魔具へと蓄積し、それを着地と同時に地面へと叩きつける。


「"クレータードラム"!!」


 地に叩きつけた火の生命エネルギーが巨人の足元まで駆け抜けて、噴火のように地を裂き、天にまで突き抜けた炎が巨人の身体に直撃する。


 巨人は身を焼かれ続けながらも、両腕を俺の魔術で発生させた噴火口へと押し付け、両手から放出された砂によって火のエネルギーをせき止められた。


「止められたか……」

「えげつねぇ火の魔術を使うじゃねぇかカス野郎、普段から手下相手にイキがるだけの実力はあるってことかよ」

「おいガキ……いきなりなんのつもりだ。ぶたないでと喚いたと思いきや、急に攻撃的になりやがって」

「わかりきったこと聞くんじゃねぇよ、てめぇが()()()にやってきたことの報いを受ける日が来たんだよカス野郎!!」


 自分自身に指を向けながら()()()と呼んでやがる……多重人格ってやつか?


「いったい何の話をしているかさっぱり理解できねぇ。俺はお前とは今初めて会ったんだ、誰かと間違えてねぇか?」

「そんな強面が同じ大陸に何人もいるかよ、とぼけやがって!! "礫の雨道(ペブルスレイン)"!!」


 巨人が両手を天へと向けて指先から生命エネルギーの玉を放つと、空中で静止した玉から"土"の性質を持つエネルギーが広範囲に降り注いだ。


(避けきれねぇ……)

「"竹林生土(ちくりんしょうど)"!!」

「!? 淑芬(シュフェン)……!」


 背後から跳んできた淑芬は着地と同時に右手の手の平を地面に当てると、木の魔術によって生えた竹が俺と淑芬をドーム状に囲い、礫の雨を遮断した。


「ごめんなさいネ、合図は待てなかったワ」

「いや……助かった」

「見たところあの女の子に攻撃されているみたいだけド……相当な土の魔術の使い手のようネ。あんな巨人を砂で造り上げて使役するだなんテ」

「あぁ……何で攻撃されているかはわからねぇが、死ぬ気で応戦しなきゃお陀仏だ。ガキを攻撃するのは気が乗らねぇが……」

「大丈夫、上手くいけば攻撃せずに制圧できるワ」

「?」


「ちっ新手か……乳のでけぇ女なんざ侍らせやがって、気色の悪いエロジジイが……! こいつで纏めて叩き潰して……」

「させない」

「むぐっ!?」


 女児は再び右手を天に掲げて攻撃の意思を示したが、それと同時に女児の足元に現れた渦潮からセイラが飛び出し、右手で女児の口を塞ぎながら玉座に身体を抑えつけて制圧した。


「んー!? んー!」

「"ブルースフィア"……」

「ッ!? ガボボボガ……!?」


 セイラは全身から水の生命エネルギーを発生させ、それを球状に展開して自分ごと女児を水で満たされた球体へ閉じ込める。


 女児はセイラの胸を両腕で必死に叩いて抵抗するが、重苦しい水の圧に遮られた殴打ではダメージを与えるに至らず、息苦しさの限界を迎えた女児は意識を閉ざしてセイラにもたれかかった。


「ごめんね」


 セイラは魔術を解除し、意識を失った女児を優しく地面へと降ろす。


 意識を閉ざしたことで魔術の維持ができなくなった影響か、巨人は形を崩して多量の砂と化し、石の玉座はバラバラに砕けて砂に溶けていった。


「良くやったわセイラちゃン」

蔡姉(サイねえ)、この子どうしよう。このままにしておくわけにはいかないし……」

「とりあえずまた暴れないようにしておくワ」


 木の魔術で創造した蔓を両腕ごと胴体に、口には猿轡の要領で巻き付けて妙な動きを取れないようにする。


「……おかしいワ」

「何がだ」

「魔具が見当たらないの、魔術が使えないように取り上げちゃおうと思ったのニ……」

「隈なく探したのか?」

「この服に物を隠すのは難しいと思ウ……」


 確かに……時代を錯誤した奴隷が着るような簡易的な服には物を隠すようなスペースが無い。


 となれば、魔具がないのにあれだけの土の魔術を扱えた理由は一つしかない。


「……【土の魔女】なのかこいつは?」

「そう考えるのが自然でしょうネ……」

「こんな小さな子が魔女なんて……」

「わからねぇことだらけだ…………ん?」


 巨人が崩れ去った成れの果てである砂の山にチラリと目をやると、砂の中に多量の侵蝕晶が埋もれていることが確認できた。


侵蝕晶(インベードクリスタル)……本物だ」

「この砂ってさっきまでこの子が魔術に利用していた砂よネ……凄い量だワ」

「あぁ……そこらに侵蝕晶が埋まってはいたが、ここまであからさまに目立つほどじゃ無かった」

「この子が魔術で使った砂から、侵蝕晶が産まれたということ……?」


 突飛な発想だ……とは否定できなかった。

 魔女の力は未知数、それも大地に直接干渉できるほどの"土"の魔術を扱えるとなれば、そんな芸当ができても一切不思議じゃ無い。


「……考えていても仕方ねぇ、一先ず侵蝕域を解放するぞ。淑芬はこのガキを背負って行ってくれ」

「任せてちょうだイ」


 石壁を超えた少し先で裂け目を発見することができ、侵蝕域の規模相当程度の実力な侵蝕獣(インベードビースト)を苦も無く倒すことができた俺達は、裂け目を壊して国家指定侵蝕域の解放という重大任務を呆気なくこなすことに成功した。


「良かった……兵士はまだ戻って来ていないわね」

「油断は禁物、バレない内にさっさと退散ヨ」


 ローブをたなびかせながら、全速力で集合地点の森林に入り込み、カイと合流してそのまま森林を駆け抜けて行く。


「おつかれ様っす! 何だかんだ楽勝で…………姐さん、何ですその女の子は?」

「侵蝕域の中にいたノ。恐らく、大量の侵蝕晶が採れる環境ができた原因はこの子だと思うワ」

「なんでそうだと?」

「そいつは土の魔女だ……魔術の影響を受けた砂から侵蝕晶が出てきやがったんだ」


「へぇ…………土の魔女ぉ!? こんな小さな子がぁ!?」

「あらぁセイラちゃんと同じ反応してルー」

「やめてよ蔡姉……私はこんな馬鹿っぽいリアクションはしていないわ」

「んだとっ!?」

「なによ……」

「喧嘩しないの二人とモ……」

「……」

「ほら、クレスも青筋立てて怒っているワ」

「す、すんませんアニキ! 仕事中なのに……」

「…………」

「あ……アニキ……?」


 俺は侵蝕域内での女児の言動を思い出していた。


――(ちゃんとやってるよぉ……だからぶたないでぇ……!)

(これ以上こいつを傷つけようってんなら、俺がぶっ殺してやるよ!)――


 誰かに虐げられていたかのような言動……そんな女児が侵蝕域内に一人放置され、恐らくは土の魔女の力で侵蝕晶を生産する能力を持っており、その侵蝕晶は週に一度回収されている環境が構築されている……。


 それらの情報を元に、一つの可能性に辿り着いた俺は、その可能性の内容に対してふつふつとした怒りを覚えていた。

 表情にも出ていたのか、俺の顔を覗き込んだ連中は見てはいけないものを見てしまったかのように目を逸らして黙り込んだ。


(めっちゃ怒ってる……! 騒がないようにしねぇとヤられるかもしれねぇ……!)

(カイの馬鹿のせいで団長がご立腹だわ……)

(こんな怒った表情を見せるなんて珍しいワ……)


 俺達は気まずく、重苦しい空気を纏った静かな帰路へと着いていった。

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