今度は何ですか
それは、軽い頭痛を起こしそうなくらいの大声だった。
しかし、その声の主はどこにも見当たらない。
「……うわ」
それでも、どこぞの死神さんはその正体がわかっているようで、いかにも嫌そうな表情を浮かべていた。
その顔に疑問を感じていたら、頭上でばさり、と羽の音が聞こえた。
驚いて上を見上げる。
やわらかそうなベージュ色の髪。純真さを思わせる白いワンピース。そして、白鳥のように美しい純白の羽。頭の上で輝く輪っか。
その姿は、絵本でよく見る天使によく似ていた。
……生えている犬耳と尻尾を除けば。
「もう!レイナったら、遊びに行っても全然いないんだもん。それで探してみたら、まさか地上にいるなんてね。会えてよかった〜!」
「あぁ、そう……」
それはそれは嬉しそうな顔をする天使さんとは違い、死神さんは苦笑いを含ませた表情を作る。
「……えーっと、少し待ってほしいんですけど」
突然の展開についていけないので、説明を聞きたいところなのだが。
「んー?君は……あ、もしかして!」
「ちょっと、こら」
死神さんが焦りが滲んだような声を出すが、それでも天使さんは口を閉じなかった。
「レイナの友達でしょ!」
「は?」
「……えぇ?」
ほら、死神さんも困惑してるじゃん。友達って。というか、レイナって、あれ。
「あれ?違った?」
「友達ではないかな」
「ふーん、そっかぁ。残念。まぁ、どっちにしろ自己紹介は必要だよね!
初めまして!私は天使のベリスだよ!こっちの子は死神のレイナっていうの。私の友達なんだ〜」
「はぁ、なるほど」
「ほんと、ベリスは勝手だなぁ……」
当のレイナはやれやれ、といった感じで顔に手を当てているが、半ば諦めているようにも見える。さっきからレイナ、レイナと呼んでいたのは、やっぱりそういうことか。
おしゃべりな天使に、変わった死神。
ちょっと不思議なコンビだけど、二人の様子から考えるに、仲が悪いわけではなさそうだ。
「それで、君の名前は?」
「私はグレイ。……それで、ベリスさん。一つ聞いていいかな。その犬耳と尻尾って、何?」
こわごわとしながら、私はベリスさんの犬耳を指差す。
「あー、これ?これはね、元々あったわけじゃないんだ。大天使様が生やしたものなの。あと、犬じゃなくて狼なんだって。そう言ってた」
「うわー、聞かない方が良かったかも」
変な大天使がいたもんだ。そんな趣味を持っているやつがいるとは。
「やっぱりそんな反応するよね……」
うんうんとレイナに頷かれた。
「それにしても、私達が見えるなんて不思議な子もいるんだねぇ」
「そう。本当に不思議なんだよ」
「それ、私には一切わかりませんから」
なんと言われようが、その現象については私は全く知らないのだ。本当に。
「だから、しばらくそばにいて、調べようと思ってたんだけど」
「え、なにそれ」
少し、嫌な予感がする。
「すっごく楽しそう!私も一緒にいていいかな?」
ベリスさんが、満面の笑みを浮かべながら聞いてきた。そんな純粋な笑顔をされてしまったら、断りづらいじゃないか。
めんどくさいことになったかも。
「あー…。春休み…学校の休みが終わるまでなら、いいですよ」
「やった〜〜!!」
両手を上げて喜ぶベリスを横目に、痛みを感じてきた頭を抑えながら、私は小さなため息をついた。
とりあえず、公園から出ようかな。
「……ここにいても何にもなりませんし、どっか行きましょうか」
「はいはーい!私達は勝手についていくね!」
「ごめんね、騒がしくて……」
「いや、別に……」
ベリスが屈託な笑顔なのに対し、レイナは申し訳無さそうな顔をする。
これから、大変になりそうだ。
そう思いながら、今までベンチに下ろしていた腰を上げて、歩くことにした。
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「……うーん。これ、使わなきゃいいんだけど」
カラ、と乾いた音が、どこで小さく響いた。