表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

どちら様ですか


「……どういうこと?」


それを言いたいのはこっちだよ、という言葉を飲み込んで、獣耳の人の様子を観察する。


今さっき喋ったっきり、ずっとぶつぶつ独り言を言っている。どうやら、こちらが困惑していることには気づいていないらしい。


やっぱり、おかしい。

言葉を発しているので、おそらく意思疎通は取れるんだろうけど。

もしかしたら、喋れはするけど価値観が人間とはかけ離れてる、みたいなこともあるかもしれない。あれ、今気づいたけど、よく見たら腰のベルトにランタンをつけている。なんでだ。

……実は普通の人間で、凄まじいほどに発達した現代の技術で宙を浮いているだけで、獣耳もそういうカチューシャとかだったりしないかな。

日本中のどんな人に聞いても、こんな町中でそんなことする人は普通の人じゃない、と口を揃えて言いそうではあるが。

うん。きっと、とんでもない技術と趣味を持っている人なんだ。コスプレとか、そういう感じだよ。きっとそう。そうであってくれ。

例えその人がどんな人であろうと、私のやることはただ一つ。


「それじゃ、失礼します」


怪しい人とは関わらないのが一番だ。

獣耳の人から遠ざかるように、私は一礼してから一目散にその場を離れた。


「え!?ちょ、ちょっと待って!」


制止を振り切って私は走った。




「で、ここまで追いかけてきたわけですけど」


「いや、変な誤解をしてるんじゃないかー、って思ったらつい…」


近くの公園まで脱兎のごとく逃げてきたわけだが、何を思ったのか獣耳の人がついてきたのだ。

今現在、私はベンチに座り、目の前に獣耳の人が立っている状態だ。


「誤解じゃなければ何ですか。その格好とか。ただの変人じゃないんですか?」


「う、やっぱり変に思われてる」


そりゃあそうでしょう。明らかにその辺の人とは違う服装をしていて、獣耳まで蓄えているんだから。


「うーん…。言ったとして、君は信じる?」


私はわかりやすく首をひねった。

信じるとは?一体何を?


「…言ったほうがわかりやすいか。」


少し冷たい風が、頬を掠める。その風で、私と彼女の髪がなびいた。


「…私はね、死神だよ」



「…死神?」


「そう、死神」


「えーっと、110番…」


「待って待って!嘘じゃないんだって!」


慌てたように声を上げるその様は、とても死神には見えなかった。


「…死神って、もっとこう、ガイコツみたいなものかと。耳生えてるし」


「死神にも色々あるんだよ」


「鎌とか持ってないし」


「持ち運んでないだけで一応あるよ。あれ重いからね」


「あるんだ…」


死神だって言われたって、そんなこと信じられるわけがない。だって、ありえない。


「んー、すぐには信じられないよね。」


「そりゃあ、まあ…」


「というか、こっちも聞きたいことがあるんだけど」


若干、不機嫌さを滲ませたような声で問いかけられた。


「まあ、いいですけど」


「それじゃあ隣に失礼して…」


少し古いベンチがぎぃ、と音を鳴らした。


「死神が人間じゃない、っていうのはわかるよね?」


「それは流石に」


「うん、そうだよね。死神って、霊みたいなもんだから、普通の人には見えないんだ。霊感ある人には見えるときもあるかもだけど」


「へー…。でも、多分私霊感ないですよ」


「じゃあ」


彼女は、私の声を遮るように言葉を被せた。


「なんで、見えるの」


先程まで横にいたと思っていた彼女は、私の背後に回っていた。その声はさっき話していたときのような雰囲気はなく、獣が唸るみたいな低い声だった気がした。



「私が知るわけ無いじゃないですか」


素直に伝えれば、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

私はそんなに変なことを言ったのだろうか。


「そっ、か。いや、そうだね。わかんないよね」


変な質問をしてきた死神さんは頬をかき、私の隣に戻ってきた。

なんの意図を持ってそれを聞いたのか、わからない。

というか、死神が見えないということは、私はこの人と話しているとき、周りの人に一人で喋ってる変なやつと思われるのでは?

うわ、それちょっと嫌だな。


「っていうか、死神だっていうならその、犬耳?は何なんです?」


「あ、これ犬じゃなくてハイエナ」


「そういうことを聞いてるんじゃなくて…」


「もちろんわかってるよ」


少しおどけた仕草をしながらそう言って、顔に笑みを含んでから、彼女は口を開いた。


「私ね、ハイエナと人間の魂が混ざってるんだ」


「…人間で言うハーフみたいな?」


「んー、ちょっと違うかな。本当に言葉のまんまなんだよね。」


「ふーん?」


よくわからないけど、きっとそういうものなんだろう。


「あ、そうだ。ちょっと自己紹介してよ。なんで君が私のことが見えるのか、そばにいて調べてみたいから、色々知りたいし。」


「えー…?」


ちょっとめんどくさそう。でも、どうせ死神さんは他の人には見えないらしいし、別に日常生活に支障はないかな。多分。


「…雪峰グレイ。イギリス人と日本人のハーフで、生まれは日本。」


「あ、だから日本語ペラペラなんだ。綺麗な青い目なのも、片方の親御さんがヨーロッパのひとだからなんだね」


「別に、綺麗じゃないよ。こんな目」


「…そう?」


…少し食い気味だったかもしれない。自業自得ではあるが、若干居心地が悪く感じてしまう。幸い、死神さんはそこまで気にしてなさそうな顔をしていたため、気は紛れた。


「それで、そっちは?」


「そっち…?あ、私?」


「あなた以外に誰がいると?」


「あはは、ごめんごめん。私の名前は…」


その瞬間。


「レイナぁぁあぁ〜〜〜!!!!!!」


鼓膜を破壊しに来ましたってくらいの大きさの声が、辺りにこだました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ