唐突
鈴宮だ。
「そんなに驚く事ある?」
そう言ってボクの首筋に当てていた缶コーヒーを投げ渡してくる。
「ありがとう。」
危なげなく受け取る。
「驚かすためだけに買ったの?」
「そんなわけないでしょ。花火大会の時、奢ってくれてたから。そのお返し。」
そう言われてみれば。
すっかり忘れていたのだが、集金するのを忘れていた。
夏休みが明けた時にでも、甚平たちから取り立てなければならない。
ブラックコーヒーは飲みなれていなかったが、強がって何も言わずに飲み始める。
「ブラックコーヒー飲めるんだ。飲めないと思った。」
その言葉にコーヒーをこぼしそうになりながら少し咽る。
「それならお茶とかさ。もっと無難なのあるでしょ。」
「そう思ったんだけど、ブラックコーヒー飲んでる男の人って格好良くない?」
言葉を返せなかった。ボクは彼女の手の上で踊らされているのだろうか。
「あ、そういえば話したい事って?」
「あ、いやー。……っとさぁ。」
何も考えていなかった。
沈黙が漂う。
そんな中、わずかだが振動音がきこえる。
彼女の携帯電話だった。
「電話、来てるんじゃない?」
携帯電話を見ようとしない彼女。
「彼氏……とかなんじゃないの?」
昼間は聞けなかった事に……聞かなかったことに足を踏み込んでしまう。
小さく頷く。
「そ。」
「でもね、ウチの中では終わってるんだ。だけど、こうやって電話あるんだよねぇ。」
振動音だけが響く。
「ここにいるのもなんだしさ、近くに公園とか、いい所ある?」
2人で歩き始める。
着いたのは誰かの駐車場の一角だった。
「いや、ここ平気なの?」
「来たらどいたらいいし、ここ好きなんだよね。」
しばらく、そこからの景色を眺める。
綺麗な夜景が広がっている訳ではないが、ぽつり、ぽつりと点いている明かりと、吹き抜ける風が心地よかった。
「鈴宮の事、好き、なんだよね。」
言った自分でも驚く。
彼女も何かを言いたげだったが、自分の出た言葉をかき消すかのごとく言葉を続ける。
「あ、いやいや。順序?が違うかな。ちょっと待って。」
彼女も何も言わずにボクが話すのを待っている。
「んーとさ、彼のこと終わってるって話してたけど、多分彼の中では終われてないと思うんだよね。事情を知らないけど、もう1度話をしてみたら?もしかしたら、気持ちが変わるかもしれないし。」
静かにボクの話しを聞いている。
うんとも、すんとも言わないが、返事を急かすことはせず彼女からの言葉を待った。