花火
甚平たちはまだ帰ってこない。
2人の時間に花を咲かせている間、彼女の携帯電話に着信が来ていることに気がつく。
「電話、出なくて平気?気にしなくていいから電話してきたら?」
「うーん。」
電話を見つめる彼女の次の言葉を静かに待つ。
「たまに同じ番号から電話あるんだよね。出たからって何ってこともないし。」
どこか寂しげな様子を見せる。
何か事情があるんだろう。深く立ち入ることはせず、他愛もない話しに戻る。
ボクは聞き役に回ることが多いのだけど、この時ばかりは口を回しに回した。
「なかなか戻ってこないね。」
彼女が振り返り甚平たちを探している。
正直、帰ってこなくてもいいと思い、そんな事を口走りそうになった時、
「お待たせー。」
甚平が戻ってきた。
「遅かったね。混んでた?」
思ってないことを話す。もっと遅くたって構わなかった。
「混んでたよ。出店までも距離あったし、人多くて歩けなくて。」
そこからは4人で花を咲かせる。
甚平は度々タバコをふかせに行っている。
花火が打ち上がってからボクはほぼ無口だった。
花火で照らされる彼女を横目に、咲いては消える一瞬の儚さを噛みしめていた。
花火を真っ直ぐ見る彼女は何を思うのだろう。
最後の花火の1片が散り終えるのを見届けて、ボクたちは岐路に立つ。
「今すぐ帰ると人スゴいから、ウチ寄ってく?近いしさ。帰る時、近くまで車も出すよ。」
甚平の提案に乗って家に2時間ほど上がり込む事になる。
微かに残る煙草の臭いから、家でも煙草をふかしているのが窺えた。
花火の待ち時間に散々話したのにも関わらず、話題は尽きない。時間が経つのはあっという間だった。
ボクらは車に乗り込み、送ってもらう。
ピンクの甚平と彼女は比較的近い所に家があるようで、その近くで車を降りる。
ボクは駅まで送ってもらう。
その車内でボクは彼女にメールを送った。
『この後、少し話したいんだけど……もし大丈夫だったら降りた辺りで待っててもらえる?時間も遅いからダメなら、そのまま帰って良いからね』
彼女が車を降りてから少しして、メールの返信が入る。
『(o´・ω-)b』
顔文字だけだが、肯定と受け取れるような返信だった。
ボクは車を降りて駅へと歩き、そこから10分程その場に留まり歩き始める。
昼間の蒸し暑さと騒々しさに相反して、涼しい風が吹き下駄で歩く音だけが響いていた。
20分ほど歩いて彼女が降りたコンビニに着く。
そこに彼女の姿はいない。
携帯電話を確認するもメールや電話の形跡はない。
ため息をついて肩を落とす。
その瞬間、痛いような、冷たいような感覚が首筋にはしる。
突然のできごとに、首をすぼめて振り返る。