焦燥
学校が夏休みとなるまで、時間の許す限り彼女と友人たちと共に過ごす。
カラオケに行ったり、ボウリングをしたり、買い物に行ったりご飯を食べたり……。
充実している毎日。
できることなら、こんな時間がずっと続けばいいと思った。
彼女と過ごした時間が増えるのと同じ程……
いや、それ以上に彼女への思いも膨れ上がっていった。
夏休みに入り、ボクは一人暮らしを始めた事もあり、バイト中心の生活を送っていた。
それはそれで充実していたのだが、心の奥底はザワついていた。
彼女が自分のいない所で笑顔を振りまいているのかと思うと気が気ではない。
嫉妬に似た感情を抱えては、自分自身の器の小ささに気が付き自己嫌悪に陥る。
自分の中で、この感情のやりとりをどれほど繰り返しただろうか。
夏も暮れに入る頃によく時間をともにする友人土屋から電話が入る。
「俺さ、鈴宮の事好きかもしれない。」
他愛もない話の流れで言われた気がする。
「そうなんだねぇ。」
どれだけ自分の感情を言葉にのせずに言えただろうか。
胸の奥のザワ付きに追い討ちをかけて、嵐の海の如くうねりを上げ感情が荒れ狂った。
それからも話しは続いたのだが、そんな事など頭に残るはずもない。
大事な話もあった気がするがそれどころの騒ぎではなかった。
感情の嵐が過ぎ去る事を祈り、堪えて、夢であって欲しいと願いながら眠りにつく。
目が覚めた時には既に日も高く昇りきった後だった。
「夢……じゃないよなぁ。」
嵐は過ぎ去っていたが、モヤモヤとした気持ちは残る。
だが、それでいて昨日よりは冷静になれていた。
暑さと、晴れない気持ちでうなだれながら、メールが来ていることに気が付き携帯電話を手に取る。
『花火大会は浴衣か甚平着用で!』
土屋からである。
「花火大会……そんな話ししたっけな。」
寝癖頭を掻き乱しても思い出せない。
それでも、着用して来いと言うのだから、用意をしなければいけない。
家を出た頃には日が沈みかけていた。
はやる気持ちを抑えながら、電車を乗り継いで浴衣を買いに行く。
買い物自体に時間はそうかからなかった。
男性用の浴衣でも割とリーズナブルなものもあり助かる。
浴衣に合わせて、下駄や小物も買い揃えて部屋に並べる。
それを見て、1番大事なことに気がつく。
「これ、どうやって着るんだ……。」
一人暮らしの今、誰かに着付けてもらうことなどできない。
そうかと言っても、今更甚平を用意するのも、自分のプライドが許せなかった。
昨日までとは異なる焦りを抱える。
着付けの図式を見ても不器用なボクには到底太刀打ちできない。
「何としても、着れるようにならなくちゃ。」
その思いとは裏腹に、簡単にはいかなかった。
花火大会までの時間も、そう長くはない。