原点
晴天。
雲はまばらにあるも、快晴と言って遜色ないだろう。
ボクは片手に地図の書かれたプリントを持って、辺りを見渡しながら1人歩く。
見知らぬ場所という訳ではなかったが、1人でここに来る事はなかった。
初めてのスーツに袖を通し、挙動不審な様子は田舎者に見えただろうか……。
ボクは今年から通うことになる専門学校の入学式に出席するために慣れない格好で来たのである。
大きな観覧車を横目に、ヨットの帆をイメージして建てられたホテルに向かった。
ボクの、
……ボクたちの原点となる、始まりの場所。
席に着き、ボクは知り合いのいないこの環境で、空の席を真っ直ぐに見ていた。
そんな時にカバンに足を当ててきたのが鈴宮だった。
ボクは彼女の方を見るが、謝られることはなく僕の前の空の席へと座る。
不満を抱えながらも、声をかける度胸など持ち合わせているはずもない。
目の前で起こったことを、グッと飲み込む。
しばらくして煌びやかな入学式が始まり偉い人たちの祝辞に耳を向ける。
ここからボクは専門学生としての第1歩を踏み出した。
入学して、2週間。
元々、高校が同じ人同士でまとまっている事が多かったが、この頃からは徐々に馴染みのない人とも交流が生まれ始めていた。
ボクは出席番号が近く、同じグループになることが多かった鈴宮を含む4人と仲良くなる。
教室や食堂で共に時間を過ごし、バイトがない日は学校後の時間も共にした。
学生生活としてはありふれた毎日に思うかもしれない。
だが、ボクからしたらドラマや漫画で見る、キラキラと光る青春を過ごしているかのように感じていた。
夏になる頃にボクは1つ歳をとる。
その頃には誕生日プレゼントをもらうような間柄になっていた。
もちろん、彼女からもプレゼントを貰ったのだが、これから先、忘れもしないようなものを受け取った。
「似合いそうだから。」
そう言われてプレゼントを受け取り中身を取り出す。
……ネックレスだ。
高価なものでは無いように見えたが、中性的でシンプルなデザインのものだった。
「ありがとう。」
ネックレスを手に取ると、何か文字が掘られている事に気がつく。
「ねぇ、これって……。」
ボクは言葉を続けるのを躊躇した。ここで言うべきではないと思ったから。
だが、中途半端に言葉にしてしまったため、彼女も気になり問い詰めてくる。
「そんなに聞くなら言うけどさ、これ『Love』って書いてあるの気づいてた?」
気圧されて、言うことを躊躇つつも申し訳なさそうに口を開く。
それを聞いた瞬間から、彼女は顔を赤くしている。
必死に手を伸ばしてネックレスを取り返そうと躍起になっている。
そんな彼女をあしらいながら思うのである。
『彼女がもっと身近な存在だったら……』と。
この時はまだ、気づいていなかったのだけれど、
ボクの中で彼女への思いが加速していく事になる。