気鬱
挙式が終わる。
ホテルへ戻る前に写真撮影をするらしい。
カメラマンがカメラを構えて、立ち位置を細かく指示している。
カメラマンの頭にも晴天の日差しが降り注ぎ、目の前に小さな日輪が現れる。
写真に対して苦手意識を持ってはいるが
もう1つの日輪からのポーズのオーダーに精一杯口角を上げて写真に収まろうとする。
写真撮影が終わると鈴宮と数名が一足先にホテルへと戻る。
この時に知ったことなのだが、新婦側の受付として彼女が任されているそうだ。
ボクの喉の乾きはこの時、既にピークを迎えていた。
口を回している余裕すらもなく、自分の中でなんとも言い表せない感情が渦巻いている中、新たに立ち上がった問題に意識を割く余裕など到底ありはしなかった。
少し俯きながらホテルへと戻る。
俯くことで視界が狭まり、周りを気にしなくて済んだ。
「ちゃんと御祝儀持ってきてるよね?」
百合に言われて内ポケットを確認する。
「忘れずに持ってきてるよ。忘れたら大変だからね。
……あ。」
思わず足を止める。
「やっぱり、鈴宮ちゃんの事、気にしてるんでしょ。」
……図星だった。
気にしていないと言ったら嘘になってしまう。
かと言って、返事にまごつくと言葉の信憑性も薄くなる。
「んー。」
肯定も否定もしない返事に続けて言葉を繋げる。
「気にしてるというか……ちと嫌かな。散々な別れ方だったしね。」
憂鬱な気持ちを引きずりながら受け付けへと続く列に並ぶ。
幸いな事に、受け付けは2人ずつ任されていたため、彼女の前に並ぶことは無かった。
ただ、ここ一番に彼女との距離が縮まったなんとも言えないひと時であった。
『鈴宮は何か思うことはあるだろうか……。』
受け付けから席次表を受け取り、披露宴会場で席に着く。
席に着くと、ホールスタッフから飲み物を勧められる。
アルコールもあったが、お茶を選び一気に飲み干す。
「久しぶりー。」
そんなところに受け付けを終えた彼女がテーブルに挨拶に来た。
「バス停の所にいた?なんだか違うかもって思って声掛けられなくて。ごめんね。やっぱり鈴宮ちゃんだったね。」
百合が言葉をかける。
百合や樹雨、天咲とは楽しげに話しをしているがボクと言葉を交わす事はなく、互いに目を伏せて会釈をする。
顔を上げるとき、自分の頭がこんなにも重く感じたのは初めてだった。