また、『ありがとう』と言える日まで。
拝啓、貴方様へ……
今、どうお過ごしでしょうか。
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羽崎紫帆は、学校専門のカウンセラー。
その彼女には、切っても切れない過去がある。
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あれは、高校の頃の話だ。
転校した事があったのだが、その通っていた高校は少々荒れていた。
地味な紫帆は、同級生の標的にされた。
机に油性ペンで落書きされたり、教科書やノートを破かれたり……
先生に話をしても、注意で済まされただけ。
それも相まって、エスカレートした。
親には心配かけたくない、と思って言えないこともあった。
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ある日、紫帆は最寄り駅のホームから飛び降りよう、そう思った。
身体も心も、もう限界だった。
「白線にお下がりください」とのアナウンスが聞こえる中、線路に身を投じようとした瞬間、誰かに腕を掴まれ引き戻された。
「駄目だ、死んじゃ駄目だ!」
その声の主は、隣組の男子生徒……賀川ヒロトだった。
……そう言えば、あまり話したことは無かったけど同じ電車に乗るっけ。
そのまま、駅舎を出た。
「最近、様子がおかしいから心配していたんだ。……話したこと無かったから、警戒すると思ってなかなか言い出せなかったんだ。」
彼……ヒロトはそう言った。
「どうして、私なんか……」
「俺も一時、アイツらの標的にされていてね。どうも見逃したくなくて……俺からも担任に貴女の事を話していたんだけれど、『他クラスに物言いするな』って言われてさ。」
話を聞いていると、紫帆は込み上げてくる物があった。
……私、まだ見捨てられていなかったのかな。
ヒロトのお陰で、その同級生は謹慎処分にされて、標的にされる事は無くなった。
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その後だが、卒業して別々の道を歩むことになった。
卒業式の時に命を救ったことのお礼をしたが、今になってもう一回『ありがとう』と言いたい。
あの日から、学生に寄り添えるようになりたいと思ってカウンセラーの資格を取った。
学校専門で、毎日学生の話を聞いている。
……ヒロト君、本当にありがとう。