性悪魔王と貧乳勇者の暇つぶし
メリーバッドエンドなるものを知り、書いてみようと思ったところ、出来上がったのはよくわからないものでした。
いつもとは違うテイストを楽しんでもらえれば幸いです。
星々が輝く夜空。
それが上下左右全てを埋め尽くすような空間。
結界魔法『時の牢獄』。
そこに余と勇者は封印されていた。
「おいこらあああぁぁぁ! なーんであたしまで一緒に封印しとるんじゃあんのぼけなすびいいいぃぃぃ!」
「やかましいぞ勇者」
魔王たる余を倒すべく、各国の精鋭を集めて編成された勇者一行。
最終決戦で、余は不覚をとった。
魔導士と聖女が結界魔法を形成していたのは気付いていたが、まさか勇者を巻き込んでまで余を封印するとは思わなかった。
「絶っ対わざとだ! あの根暗斥候の入れ知恵だ! 魔王倒した後のパワーバランスがどうとか、魔王と互角の戦力は危険だから封印しとけとか吹き込んだんだ!」
「成程な。確かに余と互角の力を一個人が所持するとなれば、脅威であろうからな」
「それだけじゃない!」
怒りが収まらない勇者は、叫び声を上げ続ける。
「あんのアバズレ聖女! あたしがイケメン王子の求婚断った後、『では私が……』って言ったら『まな板じゃない娘はちょっと……』って断られたの逆恨みしてやがったんだ!」
「二重の意味で災難だな勇者」
「それとあの童貞魔導士! 野営の時に寝てるあたしの胸を触ったあげく『あれ? 背中?』とか抜かすから肋骨二本折ったのまだ根に持ってやがったな!」
「随分モテるのだな勇者」
「嬉しくないよ!」
肩で息をする勇者は、ふと余に疑問を投げかける。
「あんたはいいの? こんな所に閉じ込められて、『せめて勇者だけでも殺して溜飲を下げてくれよう!』みたいな事しないの?」
「脱出できない以上、そんな事に意味はない。それに余に与えられた使命は一応果たしたからな」
「使命? って何?」
「あぁ。それは……」
首を傾げる勇者に、余は答えようとして口をつぐんだ。
「これは人間に話すべき事ではない」
「え、何それ。気になる!」
「話す気はない」
「……そう言われると、力ずくでも聞き出したくなるなぁ……」
勇者は好戦的な笑みを浮かべて剣を構える。
「無駄だ」
「どうかなっ!」
大きく跳び上がり、大上段から斬りかかる勇者。
その剣の腹を押しのけ、余は手から炎を放つ。
「おっと!」
押しのけた勢いに逆らわず、勇者は剣を支点に身をよじった。
着地した勇者は剣を構え直して、突きの体勢で突撃してくる。
「食らえ」
「食らうかっ!」
余の手から放たれた火球を、勇者の剣が両断した。
二発、三発、切り裂かれた火球がそこここで爆発する。
「そっちこそ食らえ!」
間合いに入った勇者は剣を突き出す。
その切先は余の左の掌から腕に深々と突き刺さり、
「……かっは」
余の右の拳が勇者の鳩尾にめり込んでいた。
剣を手放し、膝をつく勇者。
が、それでも意識は手放さず、転がって間合いを離す。
「だから言ったであろう。無駄だ、と」
「……っざけんな……! 一発いいの入れたくらいで調子に乗んな……! お前だって左手は使い物に……、ってあれぇ!?」
勇者の目の前で余の腕から剣が抜け、元通りになる。
「な、何だそれ! ずるいぞ!」
「ずるいも何もない。貴様の傷とて治っているだろう」
「へ? あ、そう言えば……」
カウンターで勇者の腹に打ち込んだ一撃は、内臓に達する威力だったが、もはや痛みもないようだ。
「もしかして……、この空間にいるとダメージ受けても勝手に回復するの?」
「そうだ。正確にはここに入った時点の状態に戻される。結界魔法『時の牢獄』の効果だ」
「言えよそういう事は!」
「無駄だと言ったのに斬りかかってきたのは貴様だろう」
「う……」
余の返しに、少しは勇者の頭の血も下がったようだ。
「……ちぇ、いいじゃん。どーせあたしもお前もここから出られないんだろ? 今更隠したってしょうがないじゃん。だからさぁ……」
「無駄だ。私は話さない」
「何だよケチ!」
余はこの世界を創った者に、明確な目的を持って生み出された。
それは『人間の敵となり、争いを止める事』であった。
余が生み出された当時、人間の社会は思想や宗教によって国としてまとまり、国同士で争っていた。
その争いが世界を破壊しかねないと危惧した創造主は、『魔王』という人間に共通の敵を用意し、その争いを収めようと考えた。
その策はこの百年、一定の成果をあげた。
国同士の大きな争いはなくなり、余と戦うべく各国は協力した。
しかし。
「なぁ、じゃあ普通の話しようぜ」
「普通の話、だと」
「魔王って食べ物何が好き?」
「……肉をよく食べる」
「へぇ! 魔王って人の悪ーい感情とか食べるんじゃないんだ!」
「そんな実体のないもので腹は膨れん」
「そうだよなー。で、お前の使命って?」
「その流れで言うとでも思ったのか」
「ダメかー」
「雑にも程がある」
勇者が封印された経緯から、その協力も長く続かない事を余は理解していた。
百年余と戦い続けていても、人間が真に手を取り合う事は遂に叶わなかった。
魔王という共通の敵が消えた事で、人間はまた争い合い、遠からず世界の崩壊を招くだろう。
「ならさー、ジャンケンで決めよーぜ」
「ジャンケンか。ならば私が勝ったら諦める。お前が勝ったら教えない。これでどうだ」
「よっしゃ! ……ってどっちになっても教える気ないんじゃん!」
「よくぞ見抜いたな。賢いぞ」
「えへへー、ってバカにしてるだろ!」
「見事だ。そこまで理解できるとは思っていなかったぞ」
「そ、そうかー? ってめちゃくちゃバカにしてるじゃねぇか!」
このまだ若い、というより幼い勇者に、そんな事を教える必要はない。
懸命に人の平和のために頑張ってきた事が、結果として滅びに向かわせたなど酷にも程がある。
「そうでもない。お前は立派だ」
「ふぇ!?」
「その若さで余に匹敵する力を身につけた。その努力と研鑽は尊敬に値する」
「す、すげぇ褒めるじゃん……。何だか照れるな……。あ、あたしにはこれしかなかっただけでさ……」
「それしかない事はないだろう。見目も麗しい。性格も素直で純朴だ。王子や魔導士がちょっかいを出した気持ちもわかる」
「う、うひー。や、やめろってー」
だからここで、おちょくったり戦ったりして面白おかしく過ごそう。
世界が終わるまでの暇つぶしだ。
「……じゃあ、さ。……その、教えてくれるんなら、ちょっとだけ胸、触らせてやってもいいぞ?」
「ほう、それが世に聞く『身体を張った自虐ネタ』というやつか。出っ張っている所は見当たらないが」
「くおおおぉぉぉるおおおぉぉぉすうううぅぅぅ!」
滅びが二人を分つまで。
読了ありがとうございます。
重たいのが苦手なので、ギャグをこんもり載せてみました。
二人の掛け合いは書いていて楽しかったです。
しかしもっと悲壮感がないとメリーバッドエンドではないような気もしていて……。
詳しい方、御指南頂けましたら幸いです。