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異世界転移してもカウンセラーをしています  作者: チョッキリ
7.ケース「限りなく透明な喫茶店」
66/68

#11



「…」


少女がテーブルの上に乗ったオレンジジュースをじっと見つめているので、高野は「飲みなよ」と勧める。


「…ッ!」


少女はそれを聞いて目を輝かせてグラスに手を伸ばし、そっとストローに口をつけた。


オレンジジュースがストローを上っていき、彼女の口の中に吸い込まれていく。


「~~~!」


少女は一瞬、嬉しそうな顔をした後、高野たちの視線に気づき、はっ、とした顔をすると、すぐに表情を消した。しかし、ストローから口を離すことはせず、ジュースをちびちびと吸い続ける。


シュゼットの視線を受け、高野は頷くと、彼女に向き直る。


「自己紹介がまだだったね。僕は高野。彼女はシュゼット。君の名前を教えてくれるかな?」


高野が穏やかな声で自己紹介すると、少女はストローを吸うのをピタリ、と止め、グラスをことん、とテーブルに置いた。


「…わからない」


少女はぽつり、と口を開く。


「わからない?」


高野は少女の言葉を繰り返す。


「それって、記憶がないってことですかぁ?」


シュゼットが眉をひそめて確認すると少女はふるふる、と首を横に振った。


2人は少女がなにか喋るのを黙って待つが、彼女から続きが語られることはなかった。高野が口を開こうとするより先に、シュゼットが続けて質問する。


「ん~…お父さんとお母さんはぁ?お家がどことかわかりますぅ?」


「…いない。家も、ない」


シュゼットの問いに少女は首を振る。


「うえ゛?!…………ええ、っとぉ~…どこから来たかはわかりますぅ?」


どうやらまずい質問をしてしまった、ということに気づいたシュゼットは気まずそうな顔をしながら質問を変える。


「わから、ない」


少女は一瞬、苦しそうな顔をし、その問にも首を振った。


「…」


「…」


シュゼットが「お手上げですぅ~」とばかりに半泣きの表情を作り、目で高野に助けを訴える。しかし、高野もこれには眉間にしわを寄せて黙り込んだ。


子どものカウンセリングの経験はほとんどないが、少なくとも彼女が嘘をついているようには見えない。高野はしばらく考えた後、質問を変える。


「―――あの(みどり)色のやつのことは知ってる?」


先程の翡翠(ひすい)色の怪物にどうやら彼女は狙われているようだった。怪物と少女の繋がりだけは確かであるため、まずはわかっていることから確認しようと高野は尋ねる。


この問いに対してはこくり、と少女は首を縦に振った。


「名前は?」


少女は首をふるふる、と横に振った。そして、ぽつりと付け加える。


「…でも、いつも私を追いかけてくる。逃げても、逃げても…」


「でもあれを倒したからもう大丈夫なんだよね?」


少女は首を横に振る。


「すぐにまた別のが出てくる。だから、多分…」


「そっか…」


高野は少女の言葉に頷く。事情のわからないシュゼットは「?」と首を傾げるが、今は少女の情報収集が優先だ。


先程の言い訳と矛盾することを話さねばならないので、彼女に説明するのは一旦後にしようと決め、高野はそのまま少女へ質問を続ける。


「君はひょっとして異世界から来た?」


「いせかい…」


少女は高野の言葉に首を傾げ、「いせかい」ともう一度口にする。


あの怪物はいきなり街に現れた感じだった。少女も最初は半透明で、怪物と同じく街の人には認識できないようだったし、ひょっとしたら、という期待も込めて聞いてみたが…。


少女の反応が薄ので、「やはり幽霊だったか?」と考えていると…


「ここじゃないところから来た」


少女はぼそり、と呟くように応えた。


「! どうやって?」


興奮して思わず質問する声が上ずってしまう。


「…わからない。気づいたらここにいた」


「…それってぇ…『迷人』(まよいびと)ってことですかぁ?」


その時、しばらく発言を控えていたシュゼットが突然会話に割って入る。


「まよいびと?」


少女はきょとん、とした顔でシュゼットを見つめる。


『迷人』(まよいびと)っていうのはぁ~、ここじゃないところから来た人のことでぇす。アタシ、初めて見ましたぁ」


シュゼットは目をらんらん、と輝かせて少女を見つめる。


「え?…初めて(・・・)?」


高野が驚いて目を丸くする。


「…ん?」


高野の反応にシュゼットはきょとんとした顔をする。


「そりゃぁそうでしょぉ。『迷人』(まよいびと)なんて人生に一回会えればいいくらいの確率ですよぉ」


「え…俺も…『迷人』(まよいびと)だけど?」


「は?………え?ええええええええええ!!!!!!!」


シュゼットが高野の発言に驚き、大声を上げる。店の中にいた客たちも驚いてこちらに注目する。


「シーッ!!!ちょ、ちょ、声大っきい」


高野はシュゼットに声のボリュームを下げるように頼む。


「ちょ…え?嘘でしょぉ~?…いつから?いつからですかぁ?!」


シュゼットは高野の方に顔を寄せてヒソヒソと尋ねる。


「いつから?じゃないわ!会った時からず~~~~っとそうだよ」


高野もヒソヒソ声で返す。


「え?なんで教えてくれなかったんですかぁ」


シュゼットは「むむむむ~」と頬を膨らませ、高野の肩を軽くパンチした。


「こっちはずっと知ってると思ってたわ。色々この世界のことを教えてくれるし…」


「アタシはずっと先生ぇは超田舎出身なんだなぁ~って思ってましたよぉ。きっとこの辺の人が誰も知らないレベルの」


「お前…俺のこと、そんな風に思ってたのか!?」


「だってぇ~先生ぇ、時々常識ズレてるし、変な知識はあるし、今まで見たこともないような郷土料理作るし…美味しかったですけど。あ~…そういうことですかぁ。―――今、アタシ、超納得しました」


シュゼットは腕を組んで「うんうん」と頷く。


どうやらシュゼットは高野のことを田舎から出てきたお(のぼ)りさんだと今まで思っていたらしい。


確かに振り返ってみれば、シュゼットに自分が「迷人」(まよいびと)であると打ち明けたことは一度もなかった。


「迷人」(まよいびと)はこの世界とは異なる文化、知識を持っているため、周囲の人間に知られるとロクなことにならない。


ギルドマスターのゲブリエールやグラシアナにも「できるだけ「迷人」(まよいびと)であることは隠していた方がいい」と出会って間もない頃にアドバイスをもらっていた。


そのため、基本的に自分が「迷人」(まよいびと)であることは隠していた。


だが、シュゼットは高野のサポート役として色々動いてくれたり、この世界のこと教えてくれていたりしたので、てっきりゲブリエールか診療所のカリネ先生から聞いて知っているものだと思っていた。


いや…冷静に考えれば、高野の面倒を見てくれるカリネ先生にも自分からは伝えた記憶がない。ひょっとしたらカリネ先生も高野が「迷人」(まよいびと)であることを知らない可能性がある。


「そっか。…悪い、言ってなかったかぁ」


少なくともシュゼットには打ち明けて置くべきだったな、と反省する。


しかし、一番身近にいたシュゼットにも高野が「迷人」(まよいびと)であることを気づかれていなかったということは、田舎者には見えるかもしれないが、一応、この世界にしっかりと溶け込めている、と考えていいだろう。


「まあ…アタシもずっとハイエルフだったことを隠してましたしぃ、お互い様ってことにしといてあげますぅ」


シュゼットは「はい、この話、おしまい」とばかりにパン、と両手を叩いて微笑む。


「…タカノも私と一緒?」


少女は高野の袖をくい、と引っ張り、高野の顔を見上げた。


「うん。そうだよ」


高野は少女に頷いて微笑んでみせた。


「あ、シュゼット、わかってると思うけど、一応、このことあんまり外で言わないようにしてくれよ。余計な厄介事に巻き込まれても嫌だから」


「はぁい。わかってますってぇ」。


シュゼットに念押しした後、高野は「…で、話を戻すけど」と少女に向き直る。


「そうすると君はこっちの世界に知り合いは…」


少女はふるふる、と首を横に振った。


「だよな」


「でも、大丈夫。…1人、慣れてるから」


少女はうつ向きながらぽそり、と呟く。


「いやいやいやいや、ダメですよーぅ!」


だが、シュゼットが少女の孤独を許さない。両手で大きくバツ印を作り、首を横にぶんぶん、と激しく振る。


「…ッ!!」


シュゼットの勢いに気圧された少女はビクッ、と肩を震わせ、高野にしがみつく。


「元の世界は知りませんけど、こんな可愛い子が1人で出歩いたらここでは一瞬で先生みたいな怪しいおじさんに捕まっちゃいますぅ。さっきも追っかけられたって聞きましたよぉ~」


「俺は怪しいおじさんじゃないぞ!…でもシュゼットの言う通り放ってはおけないよ」


高野も自分にしがみついてきた少女を見て、シュゼットの言葉に同意する。


「大丈夫。…タカノたちに迷惑、かけたくない」


少女は目を伏せて、困ったような顔を浮かべる。先程のようにまた怪物に襲われるのではないかと心配しているのだろう。


「僕は弱いし、絶対守ってあげる…とはとても言えない、けど…。だからっていってこのまま身寄りのない小さい子を『じゃあね、バイバイ』って言って放り出すことはしたくない」


高野は少女の目を見て本音を告げる。


「次にアレが現れた時、僕の力では君を守れないかもしれない。けど、一緒に逃げることはできる。君を守れる人を一緒に探すことはできる」


情けない話だけど…と心の中で付け加えながら、それでも高野は真っ直ぐに自分の気持ちを伝えた。


「…」


少女は不思議そうな顔をして高野を見上げる。


「なんで?」


彼女は出会った時と同じ言葉を繰り返す。


「なんで私にそこまでしてくれるの?皆、私のことを迷惑だって言う。私のことを化け物だって言う。…私が『魔を呼ぶ者』だって…」


少女は暗い顔をしながら(うつむ)く。


「魔を呼ぶ者」というのは彼女があの怪物に狙われていたことでついたあだ名のようなものだろうか。


こんな年端も行かぬ子どもが大人の助けを期待せず、自分をいらない人間だと信じ込んでいる…。


彼女がこれまで歩んできた人生の一部が垣間(かいま)見えた気がした。


「ん~…」と高野は頭を()きながら、少女の問いに応えようと考える。


意識していなかったが、確かに自分はなぜ少女を助けたのだろうか?


そう自分の心に問うた時、異世界転移して右も左もわからない高野の面倒を見てくれた白い毛並みの狼の獣人が頭の中に浮かんだ。


「…さっき言った通り、僕も『迷人』(まよいびと)だからね。君と同じようにいきなりこの世界に来て困っていた時に、色々助けてくれた人がいたんだ。その人がいなかったら僕はきっと凄く心細かったし、大変だったと思う。―――だからさ、僕もその人と同じように君の力になってあげたいんだ」


言葉に出してみるとその理由は自分の中で凄くしっくりくる気がした。


もちろん、その体験がなかったとしても高野は彼女を助けただろう。しかし、あの時の体験があったからこそ、余計に彼女の心細さがわかる気がするのだ。


考えがクリアになると、少女が自分の道をしっかり選択できるまではサポートしてあげたいという気持ちがますます強まる。


「君がもし、僕らに頼るのがどうしても嫌だ、っていうなら他の手を考えるけど…」


「…」


少女は高野の顔をじっ、と見てしばらく黙り込む。


「…」


「…」


「…」


長い沈黙の中、高野の顔が徐々に引きつり始める。


(あれ、ダメだった?俺、ちょっと気持ち悪い?)


キメ顔で気持ち悪いことを言ってしまったのではないか、とじわじわと後悔の念が湧き始めたその時、少女はうつ向いてぎゅっ、と高野の袖を掴んだ。


「ピ~!!!そこの先生ぇ、こちらイチャイチャポリスです。今すぐその小さい女の子を口説くのを止めてくださぁい。ロリコン罪で逮捕しまぁす」


自称イチャイチャポリスのシュゼットが笛を吹く真似をして高野を取り締まる。


「く、口説いてない!」


「…はいはい。っていうか、アタシも2人に色々聞きたいことがありますけどぉ…まず、最初に決めないといけないことがあるんじゃないですかぁ?」


「「?」」


シュゼットのその言葉に高野と少女は同時に首を傾げた。


「な・ま・え」とシュゼットは無音で口を動かし、高野に目で訴える。


「あ…そっか、そうだね。…ねぇ、君の名前がわかるまで(・・・・・)の間、僕らは君のことをなんて呼べば良い?」


高野はあえて「思い出す」という言葉を使わず、「わかる」という言葉を使う。


事情はわからないが本人が記憶喪失ではないと言っている以上、忘れていることを前提に話を進めるのは良くないと考えたからだ。


「…名前、必要?」


少女は首を傾げる。それは名前で呼ばれるのを嫌がっているというよりも心の底から必要性がわからない、という感じの雰囲気だった。


「決めて。必要なら」


少女は高野の顔をじっ、と見てから言った。


「えー…」


高野は困った顔をしてシュゼットを見るがシュゼットは「無理無理、無理ですぅ~」と首を高速で横に振った。


「言い出しっぺだし、この子も先生に頼んでるんだから良い名前決めてあげてくださいよぉ。センスのあるやつを」


「おい、ハードル上げるな」


「そもそも俺に言わせたのは君ですけど…」というツッコミはあるものの、確かに彼女に「決めて」と言われたのは高野なのだから高野がつけるべきなのだろう。


名は体を現す。


名前とは親がどんな風に育って欲しいか、どんな風に生きて欲しいかを願い、子どもに贈る最初のプレゼントだ。


「うーん…」


高野は腕を組んで眉間にしわを寄せて唸る。困った事になった。


まさか助けた少女に暫定(ざんてい)的とはいえ名前をつけることになるとは思わなかった。


「俺、画数とかそういうの、この世界の作法とか全然わかんないけど大丈夫かな?縁起悪い名前とかつけない?」


「この街の誰が気にするんですぅ?そういうの。魔神とか魔物の名前でもつけない限り大丈夫ですよぉ~」


シュゼットが「心配しすぎですぅ」と笑う。


確かに獣人もエルフもトントゥもドワーフも異世界人もいる多様性が当たり前に受け入れられるこの街で名前の画数などを気にしてもしょうがないのかもしれない。


「…」


高野は翡翠(ひすい)色の髪を見つめて、「(スイ)は?」と口にする。


「―――いや、流石に安直か?いや、でも…」


高野が別のアイディアを考えていると、


「スイ?どういう意味ですぅ?」


シュゼットが聞き慣れない音に反応し、首を傾げる。


「…この子の髪の色、僕の故郷では翡翠(ひすい)って宝石によく似てる色をしているんだ」


高野は少女を見て、説明する。


「ヒスイ………スイ」


少女は高野の言葉を繰り返す。高野は「うん」と頷いて、続ける。


翡翠(ひすい)(すい)は緑色って意味もあるけど、元々はカワセミって美しい鳥の羽の色が由来でね。ちなみにカワセミも実は翡翠(ひすい)と同じ漢字なんだ」


高野は冒険者バッグから紙とペンを取り出し、「翡翠」と書いて見せ、上に共通語で「ひすい」「かわせみ」と振仮名(ふりがな)を振る。


「見たことない文字ですねぇ」


「…」


シュゼットと少女は高野の書いた漢字を覗き込む。


「それで、ここがスイだ」


翡翠の「翠」の字を丸く囲んで見せる。


「僕の故郷の文字は共通語と違って、一つの文字に色々な意味がある。この『(スイ)』には美しいとか、純粋って意味があって君のイメージにぴったりなんだけど………どうかな?」


「先生、やっぱり口説(くど)いてませぇん?」


「口説いてません」


高野はジトッ、とした目で見てくるイチャイチャポリス(シュゼット)にはっきりと無罪を主張した。


少女は紙をじっと見つめて「スイ」と呟く。


「…うん」


少女はこくり、と頷いた。


「…これ、もらっていい?」


「いいよ」


高野が頷くと、少女は自分の名前が書いてある紙をじっと眺める。


その少女の様子を見て、シュゼットは「あ…!」となにかを思いついたような顔をし、机から乗り出す。


「あのですね、スイちゃん、良かったらぁ~なんですが…。―――アタシの家に住みません?1人で住むにはちょっと広ぉ~い部屋なんですよぉ」


「え…」


突然のシュゼットの提案に少女は目を丸くする。


「いや、シュゼットそれは…」


「はぁ~い、ロリコン先生は黙っててくださぁ~い」


「だからロリコンじゃないって!」


高野が泣きそうな顔でシュゼットに反論する。シュゼットはそれに対し、高野にだけ聞こえるトーンで、


「流石に年頃の女の子を先生が面倒見るわけにはいかないじゃないですかぁ」


(ささや)く。


「まあそれは…そうだけど」


「アタシ的には、1人はちょっと寂しいし、丁度ルームメイトが欲しいなぁって思ってたところなんでぇ。…どうですぅ?」


シュゼットが「これ、名案じゃないですかぁ」と少女に笑いかける。


「るうむめいと?」


少女が聞き慣れない言葉を復唱すると、「一緒に住むお友だちってことですぅ。良ければ、ですけどぉ」とシュゼットが答える。


「友達…」


少女は一瞬、パッと嬉しそうな顔を浮かべ、慌てて無表情に戻る。


「嫌だったらいつでも言ってくれればいいですし、とりあえずお試しでどうですかぁ?」


「で、でも…」


少女は高野の方をチラリ、と見た。


「アレがまた来るかもしれない、ってことが気になるんだね?」


こくり、と少女は頷く。


「シュゼット、実は…」


ここまで来るとあの怪物の説明を抜きにして進めることはできない、と判断した高野は意を決してシュゼットの今日の出来事を話すことにした。






「はい、大変お待たせいたしました。裏メニュー『てんちょーの気まぐれ炒飯(チャーハン)』です。マジでごめんねぇ、大分待たせちゃって。お詫びにチャーシュー・バードの叉焼(チャーシュー)2倍にしておいた」


「わーーーーー!!!やったんだぞォ!!!ありがと店長!」


サファイアブルーの店長が別のテーブルに料理を運び、客が大喜びする声が聞こえる。


高野たちのテーブルには少女の前に3分の1くらい少なくなったオムライスが乗っている。


「はむっ」


少女が不慣れな手付きでスプーンを駆使してオムライスを口に運ぶのを見ながら、シュゼットは「むむむむむぅ~」と唸った。


「にわかには信じがたいですがぁ~…嘘を言ってるようにも思えませんし、先生ぇがこの状況でそんな突拍子もない嘘をつく人じゃないこともわかりますぅ…」


「ごめんな。これ、話しても絶対信じてくれないと思ってさ」


「あなたって人は、そうやっていつも滑らかに嘘をつくんだから本当にぃ~。流石に2度目は許せませぇん。―――さっきの嘘も合わせて、ケーキセット2人前を要求しますぅ」


シュゼットは頬を膨らませて高野の眼の前で指を2本立てる。


「…まだ食べるの?」


もう彼女はすでにケーキセットとチョコチップクッキーに加えて、高野のアップルパイをひと切れ、それに高野が席を外している間にカスタード・マウンテンというこの喫茶店の名物スイーツを頼んだらしい。


高野が見たのは中華料理屋の大皿料理に使うようなサイズの皿が片付けられるところだけだったが、あの大皿にどんなカスタードの山が鎮座していたのだろうか…。考えただけで口の中が甘々になってくる。


一体、彼女はあの細い身体にどれだけのカロリーを溜め込んでいるのか。


食べ過ぎでしょ、というニュアンスを高野の声と表情から読み取ったシュゼットは高野を睨む。


「失礼な!アタシとスイちゃんの分ですぅ」


「しっかり食べるんじゃん。…いや、なんでもないです、はい」


突拍子もない話すぎて信じてもらえないだろうと思ってついた嘘だったが、嘘は嘘だ。


シュゼットは高野がルビー色の髪の店員に追加でケーキセット2つを注文するのを待った後、真面目な顔に戻る。


「事情は一応、わかりましたぁ。なるほど、スイちゃんを狙ってその(みどり)色の怪物がまた襲ってくる可能性があるってことなんですねぇ」


「そう。この子はそれを一番心配してるんだ」


「…」


少女はオムライスを食べる手をぴたり、と止めて、(うつむ)く。


「だからさ、シュゼットの気持ちは嬉しいけど…」


「じゃあこうしましょぉ」


「?」


シュゼットは手をぽん、と打って笑った。


「スイちゃんはこの世界に身寄りがない。先生ぇはスイちゃんを放っておけない。アタシはルームメイトが欲しい。ならいっそ…3人で一緒に住んじゃいません?」






「……………は?」


高野はシュゼットの言っていることの意味が理解できず、目を(しばた)かせた。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  な……一気にせめてくるとは! 策士! [気になる点]  先生を慕うひとは結構いるから正直に話しても嘘をついてもどのみち修羅場になる、 [一言]  作者の宝石知識が早速。なにか強いところが…
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