#5
「…」
「ほらほら、ちゃんとお客様が食べ終わった食器があったら片付けて」
赤髪の店員がやせ細ったゴロツキの1人に指示を出す。
左右のポケットにそれぞれ「Kuu」「Nelu」と書かれた店長から借りたソムリエエプロンをつけたゴロツキは、顔をしかめながら客のテーブルから皿を回収し、厨房に運んでいく。
「笑顔!」
「へ、へい!」
赤髪の店員に後ろから声をかけられ、やせ細ったゴロツキはニ、ニコォ~、と引きつった笑みを浮かべた。
厨房ではおさげの副店長が笑顔で腕を組み、横幅の広いゴロツキがフゥフゥ言いながら皿を洗う様子を見守る。
汗が付着しないように首元にはバンダナを巻きつけた横幅の広いゴロツキがノロノロと動くのを見て、
「…ほら、手を動かす動かす」
とおさげの副店長がおだやかな笑みを浮かべて声をかける。
「ふ、フヒッ!」
声をかけられた横幅の広いゴロツキは、先程、厨房で無銭飲食について彼にこっぴどく叱られたことを思い出してか、びくり、と肩を震わせ、「フヒフヒフヒフヒ…」と懸命に皿をスポンジで擦った。
そして…
扉が開き、カラン、とベルが客の来店を告げる。
「い、いらっしゃぁ~らせ~!!!」
体格の良いリーダー格の男が引きつった顔笑顔で客を出迎える。
客は大人しそうな黒髪のヒューマンの男性と若紫色の長い横髪と藤色の後ろ髪が特徴的な中性的な顔立ちをしたヒューマン(?)だった。
「え…」
「む?なんなんだぞ、お前…」
彼らは出迎えたリーダー格のゴロツキの勢いに思わず後退りする。
それを青髪の店長が「あ、ユウキさんとカフちゃん、いらっしゃーい」とすかさずフォローに入った。
2人とも常連客なのか、青髪の店長の顔を見るとほっとした顔をする。
「あ、こんにちは、店長。…あの人、新人さんですか?」
大人しそうな黒髪のヒューマンがヒソヒソ、と店長に囁く。
「あはははは…臨時のアルバイトなんだよ。びっくりさせてごめんね。まだ彼、今日入ったばかりで接客に慣れてないんだ。…さ、中入って入って」
2人の客は引きつった笑顔のまま固まる体格の良いゴロツキをチラリチラリと見ながら、言われるままに席へと向かう。
「―――あ、そうだ、ユウキさん。今日はショウくんの夢りんごのアップルパイがあるよ!」
「え、俺の大好物じゃないですか!いつも売り切れだから久しぶりです。楽しみです」
顔を綻ばせる黒髪のヒューマンに遠くで接客していた赤髪の店員が「ブイ!」とVサインを作って見せた。
「じゃあ、KTKブレンドに夢りんごのアップルパイで」
「毎度♪」
頷く青髪の店長の袖を今度はもう1人の客が引っ張る。
「店長、俺は店長の炒飯が食べたいんだぞ」
「あー…なにがあったかなぁ。干し肉と玉ねぎと…リョウくーん、この間持ってきたチャーシュー・バードの卵ってあったっけ?」
青髪の店長は左眉にある傷を掻きながら厨房に声をかける。
「あるよ~」
厨房の中からおさげの副店長が明るい声で返事をする。
「あ、あるってさ。じゃあそれでよければ炒飯作るよ。…裏メニューだから秘密だぜ?」
青髪の店長は眼鏡を光らせ、悪戯っぽく笑う。
だが、メニューの裏側には端っこの方に「てんちょーの気まぐれ炒飯」という文字がバッチリ書かれていたりする。
「やったんだぞ!」
炒飯のおねだりに成功した中性的なヒューマン(?)は無邪気な顔で喜んだ。
「…」
その様子を無言で見つめるリーダー格のゴロツキの肩にぽん、と赤髪の店員が手を置く。
「…まあ、接客は慣れさ。お客様を怖がらせないようにね」
「…」
リーダー格のゴロツキはプルプルと震え、今にも暴れだしそうだったが、厨房から光るおさげの副店長の目を見て、がっくりと肩を落として接客に戻った。
そんな彼の背中に光る翠色の模様を見て…
「…」
青髪の店長は窓の外を見つめる。眼鏡の奥で目つきが一瞬、普段とは比べ物にならない程鋭くなった。
そして…
「―――あー…、カフちゃん、ごめん。ちょっと炒飯作るの遅くなっても良い?」
「良いけどどうかしたかなんだぞ?」
きょとん、とする常連客に青髪の店長は「ごめん」と笑いながら謝る。
「ちょっと炒飯の材料買い出しに行ってくるわ。やっぱニンニクはノギンス村のヤツが好きなんだ」
「ショウくん、俺ちょっと買い出しいってくるけど…この間みたいに寝るなよ?」
バックヤードから買い物用のバッグを取ってきた青髪の店長が赤髪の店員に念押しする。
どうやら彼には前科があるらしい。
「いやいや、流石に寝ないよ~。でも、この間はごめーんね♡」
赤髪の店員はヘラヘラと笑いながら首を振り、過去の過ちを謝罪する。
「あ、店長、買い出し行くならついでにホワイトペッパーも頼める?」
「オッケー」
厨房から顔を出したおさげの副店長に青髪の店長は頷き、カラン、とベルの音を立てて扉を開き、外に出ていく。
「…」
その店長の姿を高野は目で追った。
出会って初日だが、なんとなく彼が苛立っているような雰囲気を感じ取ったからだ。
一方、高野の目の前にいるシュゼットは店長を視線で追う彼に気づいた様子はなく、先程から壊れたおしゃべり人形のように延々と話続けていた。
「~であるからしてですねぇ、アタシ的には次のトレンドはぁ~多分、パンツスタイルなんですよぉ。ここ最近、『DiMit』の新作はパンツばっかり出てるし~。あ、あと、カラーはですねぇ。ふふふーん、ズバリ、ビビットカラーが流行りそうな予感ですぅ~。―――もぐもぐ…あ!このシフォンケーキ、しっとりしてて超絶品ですぅ~!」
店長が高野の視界の外へ行ってしまったので、喋るのと食べるのを忙しく交互に繰り返す彼女に視線を戻す。
先程の店長の様子は気になるが、なにか機嫌が悪くなるようなことがあっただけだろう。
彼の様子はあまり褒められたことではないが、店長がイライラしていたところで、高野の首が胴体から切り離されたりすることはない。
そう。今日は冒険者相手の接客をしているわけではないのだ。
(あ~…平和だなぁ~)
まるで餌を食べる動物のようなシュゼットを見て、久しぶりに平和を実感し、高野は思わず頬を緩めた。
「なんですかぁ、人の顔見てニヤニヤしてぇ。アタシが可愛いから見惚れちゃいました?」
視線に気づいたシュゼットは高野を下から覗き込むように見上げ、からかう。
「…え?あはは、うん。シュゼットは本当に幸せそうな顔で食べるね。見てて癒される」
「ギャ@&%ピ#ポ!?」
予期せぬ高野の言葉にシュゼットは動揺し、口の中いっぱいに頬張っていたシフォンケーキの塊を思わずゴクリと飲み込む。
「んんんんんッッ!!!!?!?!?」
目を白黒させ、胸をトントン、と叩くシュゼット。
「あ、シュゼット、水、水!」
高野は喉を詰まらせるピンク髪のエルフに慌ててコップに入った水を差し出した。
シュゼットはそれを受け取ると、ゴクゴクゴクゴク…、と一気に飲み干し、喉に詰まっていたシフォンケーキを胃の中へと流し込むと、「…ふぅ」と息をついた。
「ちょっと、大丈夫?」
まったく悪気がなく心配する高野に腹を立てたシュゼットは「む~~~」と赤くなった頬を膨らまし、睨んだ。
「『大丈夫?』じゃないですよぉ~!先生のバカッ!そんな調子でいると、いつか後ろから女の子に刺されちゃいますよぉ!?」
「えぇ!?なんで?」
「なんで!?…なんででしょうねぇ?カウンセラーなんだから自分で考えてくださいぃ~!」
きょとん、とする高野の前に置かれた夢りんごのアップルパイをサクサクサクサク…、と自分のフォークで一切れ分、手早く切り取り、掠め取っていく。
「これはアタシがうっかりシフォンケーキを食べちゃった分の補償だってぇ思ってくださいぃ」
「意味がわからん」
でも、元々、一切れ彼女にあげるつもりだったし、まあいいか、と高野は苦笑する。
そして、すぐに先程までの怒りをどこかにやって、夢りんごのアップルパイに舌鼓を打ち始めた彼女を眺めて微笑んだ。
※作品協力:東風谷ユウキ様、黒世カフカ様
実際のKTKのお客様に友情出演していただきました。
取材にお答えいただきありがとうございます^^




