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春が近い

作者: ぬるま湯

入学当初は遠いと感じていた学校までの道も、2年生に上がる頃には慣れてしまっていた。考え事をしていればすぐに学校につくのだ。今日も特に意味のない考え事をしながら歩いている。

 人はどんな瞬間に幸せを感じるのだろうか。美味しいものを食べたとき、たくさん眠った時、いろいろあるだろう。だけど多くの人にとって、好きな人といるときもそれにあたるんじゃないかと、僕は思う。

 じゃあ、みんなはどんな時に好きな人に会いたいと思うのだろうか。それは人によって違うんだろうけど、とにかく、好きな人がいるのなら、その人に会いたくなる瞬間は必ずあると思う。

 僕にも例外なく好きな人がいて、その人に会いたくなる瞬間がある。例えば温かい昼下がり、月の綺麗な夜。髪を切った日、しっとりとした雨が降る朝、そんなところだ。

 そんなことをぼんやりと考えているうちに学校についた。靴を上履きに履き替え、廊下を歩き教室へ向かう。ドアを開けると人影が一つだけあり、それはゆっくりと振り向いて僕のほうを見て、挨拶をしてきた。「おはよう、藤田君」

 僕は二つの意味で驚いた。いつもならまだ誰も来ていないはずのこの時間に、もう教室に人がいたこと、そして教室にいたのがこの人であったこと。

 「おはよう、桜井さん」僕は焦りをできる限り抑えて挨拶を返し、席に着いた。

「いつもこの時間なの?」 桜井さんが話しかけてきた。そこから始まり、僕たちのおしゃべりは結局ホームルームが始まるまで続いた。何を話していたのだろうか。緊張してしまってあまり覚えていない。だけどすごく楽しい時間だった。何を隠そう、僕の好きな人は今目の前にいる桜井さんなのだ。その日の夜。桜井さんからメールが来た。内容は、明日から早い時間に来るから、また、今日みたいに二人で話したいとのことだった。

 次の日から、僕の登校中の習慣はぼんやりとした考え事ではなく、今日は桜井さんと何を話そうかと考えることになった。これもまた、幸せだ。

 風が吹いて顔を挙げると、桜の花が空を舞っていた。夏が近い。


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