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川下り

ゲリラ豪雨DE川下り

作者: 山本大介

 ある日の川下り。


 六月の某日、私は柳川を訪れた。

 会社はいまだコロナ渦の影響で休業期間中、再開の目途はたっていない。

 いくら考えたってしょうがない、成るようにしか成らない、そう言い聞かせても二ヶ月、こんな状態が続いては気が滅入ってしまう。


 私は昨日、スマホでネットニュースを検索していた。

コロナ関連ニュースの中に川下り再開の記事を見つけたのだ。

はじめはフンこのご時世におめでたいことだと記事を飛ばした。

が、川下り未経験の私は、なにかが引っかかり、気分転換という名目の元やってみようという、おかしな気を起こしたのだ。


さすがに梅雨時期とあって、空は曇り空だった。

でも大丈夫、スマホのウェザーニュースの雨雲レーダーでは、この地域に雲はかかっていない。

ナビが川下り会社の駐車場を知らせる。

予想通り、誰も来ていない。

これは、ひょっとしたら貸し切りになるのではないか。


すぐさま、法被を着た店の若い男がやって来てチケット売り場へ案内をしてくれる。

乗船券を買う前に、ウェブサイトの割引チケットを見せる。

川下りは千五百円以上する。少しでも浮かさないと。

女性が笑顔で対応して、10分後に出発と告げられた。


それまで、ゆっくりと乗船場の景色を眺める。

たくさんの舟が係留しているが、全く動いていない。

観光業は海外の客で成り立っているとニュースで聞いたが、モロに影響を受けているのか、いやこんな天候の日に来る客なんていないか、私は自嘲気味に笑った。

すると、ぽつぽつと小雨が降りだしてくる。

(最近の天気予報も当てにならないな)

 

若い法被の男が、レインコートを渡す。

「雨が降ってきたら、これを着てください」

「ああ」

 私は頷いた。


 舟には竿を持った船頭が一人だけだった。

やはり貸し切りか、そう思うと何だか申し訳なくなってくる。

私は舟に乗り込む際、

「ごめんね、よろしく」

 と声をかける。

「いえ、いえ」

 笑う船頭の口元には、透明マスクがしてあった。

 時勢を感じる。


 出発前に船頭から、この舟会社のコロナ対策についての説明があった。

 どこもかしこも、新しい生活仕様ってヤツだ。

 私はとりあえずレインコートを着て舟に乗る。

少し揺れるのでゆっくり歩き、船頭近くの木の椅子に腰掛けた。 

「本日は、非常に風が強くなっています。舟の木枠に手を置かないようにしてください。また頭上にも気をつけてください。狭い水路や橋の下を通ります。さらに風に吹かれて流されることもあるのでお気をつけください。それではおまたせ致しました。出発します」

 後、スマホで写真を撮る時は舟の外から撮らない、落とす可能性があるなど。

私はいろいろと注意点があるんだと思いながら、舟は出発した。


 船頭のガイドを聞きながら、舟は進んでいく。

 最初の橋、柳川橋をくぐりぬけるさい、強い風が吹き、舟が少し後ろへと下がる。

 船頭は竿に力を入れ、橋を抜けだす。

 すると、すぐ荒れた風が周りに吹きだす。船頭は苦笑いをしながら、

「ここが、左にある高層の建物によって、一番、風が吹き荒れます」

 と言った。のっけからご苦労な事だと私は思った。


 二つ川という人工の川を進み、柳川城堀水門へとさしかかる。

 結構狭い、水門橋だ。

 強い風が吹く中、船頭は水門の壁にあたりながらも、器用にくぐる。

 成程、木の木枠に手を置くなとはこういうことかと納得した。


 水門をくぐると、川から外堀へ入った。

 時折、舟は風の影響を受けながら岸に当たったりしつつも、狭い石橋、低い北長柄橋をくぐっていく。船頭が申し訳なさそうに言う。

「普段は、穏やかな船旅なんですよ。風が強いとお舟はすぐ流されちゃいます、人数がある程度乗っていると安定しますけど、今日はちょっぴりスリリングな船旅となるかもです」

(そうか、スマンだが今日は貴重な日なんだ)

私は心の中でちょっぴり船頭に謝りつつ、冒険心がくすぐられた。


 その北長柄橋を越えた頃から、強烈な雨が降り出した。ゲリラ豪雨だ。雨粒に一つ一つに重みが感じられ、雨音が激しくうるさい。

 船頭は困った顔をして言った。

「すみません。お客様、柳城橋で一旦、雨宿りします」

(致し方ない・・・)

 私は薄暗い橋の下から見える大雨の光景を睨んだ。


「すいません。会社に連絡をとります」

 船頭は器用にスマホを取り出すと会社に電話をする。

(ちょっと待ってくれ。俺はまだ最後まで川下りをしたいんだ)

 船頭は電話を切ると、私に尋ねてきた。

「どうします。とりあえず雨がおさまるまで待ちますが、もう少し行って途中でUターンという方法もありますけど」

「そうですか・・・」

 と言いつつ、私は心の中で嫌だと叫ぶ。


「ちょっと、雨雲、見てみます」

 船頭はスマホで天気ニュースを見る。

 私もスマホを取り出し見る。

 よし五分後には、雨雲はなくなりそうだ。

 船頭もそれが分かったようだ。


「お客様、どうされます」

「最後までお願いします」

「わかりました。では、もうちょっとで雨がおさまりそうなので出発しましょう」

「よろしく」

 私は内心ほっとした。


 雨は少し降りつつも舟は出発した。

 道中、歌を歌ったり、ガイドをしたり船頭は奮闘してくれた。

 舟が終点まで着くと、雨はあがり虹がでた。

 まるで胸のすく光景だ。

見れば船頭の法被はびちゃびちゃでずぶ濡れだった。

 だが、誇らしげに笑っていた。


「また来てくださいね」

 と、言う。

「ああ、また」

 私は答えた。


 こんな日もあるさ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。その他はあまり見ないのでたまたまタイトルにひかれて読み始めましたら山本様の作品だったのですね。 読み始めはエッセイ?創作?どっちなのー。とても気になりました。 良かったら教え…
[良い点] ラフティングとは違う水辺の風景が見れそうですね。 [一言] 風情とか情緒みたいな感覚と冒険心。ちょっと視線を低くしたところから見えてくる景色はどんな感じなのか、気になりました。
[良い点] まるで自分がゲリラ豪雨の中、川下りをしているかのような気分が味わえました! ちょっとした冒険をし終えたかのような、いい気分です。 ありがとうございます!
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