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** What Makes You Beautiful **

 *


『“What Makes You Beautiful”!!』


 踊り終えた瞬間、大きな拍手が起こった。


「リヅっ!」

 今までお人形のように大人しくしていたリヅが、バスケットから抜けだし私の胸に向かって飛び込んできた。


 目を合わせるとにゃーとひと鳴きして、そのあとは周りの人の多さに警戒しているのか、私の腕の中でじっとしている。


 私は赤いリボンでおめかしされたリヅを抱っこしたままで、みんなに向かって笑顔を向けた。


「こんなサプライズ、初めて。しかも、全然気付かなかった……」

「和花にバレないように練習するの大変だったんだよ!」

 美樹がニコニコしながら言った。


「…これって、やっぱり瀬名さんが考えてみんなにお願いしたの?」

 私は横にいる怜司をちらりと見た。


「そうよ。全部ね!」

 怜司が喋る前に奈桜子さんが私の問いに答えてくれて、他の人も「もちろん!」と返事をしてくれた。


「さぁそろそろ場所を移して、本日二回目のクリスマスパーティー、アーンド、和花ちゃん誕生日祝いパーティーを始めますよー! みんな一旦解散の現地集合ー!」

 私が驚いていると、急にケンちゃんがみんなに向かって声を張った。

「パーティー?!」

 私が聞き返すと、雅がにこりと微笑み背を押した。


「これからのパーティーも全て瀬名さんが計画したのよ」

 怜司は私の側を離れ、京介さんと何か喋っている。その姿を見ながら私は呟いた。


「……うん。ほんとまだ信じられない。これ、本当に現実? 夢じゃないよね?」

「現実だよ。とりあえず移動しようか」

 私がぼおっと突っ立っていると、由香さんも話しかけてきてくれてた。


「あ、待って!」

 私は解散し、撤収しようとする人達に向かって慌てて声をかけた。みんなが一斉に私に注目する。

 こういう時はしてもらった感謝を、嬉しいかった気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……。

 そう思い、私はこくっと、つばを飲み込んでから声を発した。


「フラッシュモブ、本当にびっくりしました……。こんな素敵な誕生日を迎えられるなんて、まだ、ふわふわしているというか、ちょっと信じれないです。怜司さん、そしてみんな、本当にありがとうございました」


 私はみんなの顔を一人ひとりゆっくり見てから、リヅを抱っこしたまま姿勢を正し、深々と頭を下げた。

 するとすぐにおめでとうの言葉と温かい拍手に包まれて、止まっていた涙がまたこみ上げてきた。そっと鼻をすする。


「和花、俺がみんなにお礼をする前に何先に言ってんの」

 下をむいたままだった私は声をかけられ、ゆっくりと顔を上げた。

 目が合うと瀬名さんはニコッと笑って私の元に戻ってきてくれた。

 そして私の肩を抱くとみんなに向き直った。


「お礼、和花に先に越されたけど、みんな今日は俺のために、そして和花のために集まってくれてありがとう。これからもまだまだ至らぬ二人ですがどうぞよろしくお願いします」


 拍手がまた起こり、道行く知らない通行人までが私たちを祝福してくれた。


「次行くパーティーは俺からのお礼だから会費いりません。たらふく飲んで食べて帰ってください」

「マジで!? よ、瀬名太っ腹!!」


 京介の合いの手にどっと笑いが起きる。

 終始和やかな雰囲気が続き、ワイワイと騒いだ後、みんながそれぞれ散って広場を後にしパーティー会場へと向かう。


 怜司は今回フラッシュモブに参加してくれた人一人ずつに、お礼をいい見送っていた。私も同じようにみんなに声をかけお礼を言う。

 次第に人は去り、最後の人を見送ると、白いホワイトツリーの前にはまた、私と怜司の二人だけになった。


 怜司はゆっくり私の方に振り返った。


「…ねえ、怜司、聞いてもいい? どこからこれは仕組まれていたの?」

 二人っきりになって初めて私は今日疑問に思ったことを聞いた。

「どこからだと思う?」

「自信はないけど、ここに来ることは偶然ではなかった。よね?」

 怜司はごく自然にここへと私を導いた。

「ご察しの通り、もちろん。和花がここに来たいっていうように仕向けた」

「やっぱり……!」

「驚いた?」

「うん。あ、あとケンちゃんも……びっくりした! ケンちゃんの車の話をしたとき渋い顔をしたのは、ケンちゃんがうっかり喋ったから?」


「いや、それも全部計算の上です。ケンなら喋るだろうなて」

「え!」

「だけどまあ、そもそもケンが知り合いのつてで俺の店に来たのは偶然だったけど。それでケンとは仲良くなれて、……今日のサプライズをしようって思いついたんだ」

「そうだったんだね」

 きっかけは偶然でも、ここまでの大かがりはそう簡単にはできない。

 もう、感激と感謝以外の言葉が浮かばない。

「……そろそろ俺たちも会場へ行こうか」

「うん」

「その前に、リヅをもう一度、横田の所に預けに行かないといけないけど」

「あ、そっか、そうだったね」


 私は再びずっと抱っこしたままのリヅを見た。

 リヅの黄色い丸い瞳と目が合う。


「リヅくん、またしばらく離れちゃうけどごめんね」

 リヅはニャーと鳴くと、さっきまで大人しくしていたのが嘘のように動き出し、私の肩によじ登る。


「リヅ……!?」

 リヅを再び抱き直そうとしたとき、先に怜司がリヅをがしっと掴んで私から離した。

 リヅは脇を抱っこされて、だらんと足をたらしたしままの体制で私と向き合う。


「……あれ? リヅ、首に何をつけているの?」


 私は改めてリヅを見た。そして……おめかししていた赤いリボンの首元に何か光る物を発見した。

「ようやく気付いた?」

「え?」

 私はリヅを抱っこしたままの怜司の顔を見た。


「自分で確認してみて」

 言われた通り、私はすぐにリヅの首のリボンを確認した。


「……これって……!」

「和花への誕生日プレゼント」

「怜司……!」

 私は思わず、リヅごと怜司に抱き着いた。


 リヅの赤いリボンについて居たのはきらりと光るダイヤの指輪だった。


「嬉しい。ありがとう! 一生大事にする!! ……つけてみてもいい?」

「もちろん」


 私はリヅの赤いリボンを外すと、指輪を自分の薬指にはめた。手をかざし、うっとりと眺める。

「綺麗……」


 一度は離れてしまった私と怜司を再び結んだのは、この小さな黒猫リヅだった。

 赤いリボンは運命の糸のようで、輝く指輪は限りなく永遠に輝く星々に負けない光を放っていた。


「和花」


 怜司は私の名前を呼ぶと、ぎゅっと優しく抱きしめてくれた。

 そして、


「愛している」


 ホワイトツリーの側で、リヅに見つめられながら私たちは、今度は一生添い遂げる約束のキスをした。


 柱時計が荘厳な鐘の音を八回鳴らす。

 今、ここから私たちの時が始まる。


 無限に広がる煌く星空に向かって私は、もう何があっても怜司の側を離れないことを誓った。





 ** Fin **


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