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** プロローグ **


「じゃん! 準備できた! ずばり……王様ゲーーーム!」


 高校からの親友『森乃 美樹』はほろ酔いで、にっこにこ笑顔で言った。

 今日は彼女の誕生日。私は有給を使って仕事を休み、朝から料理を作って彼女を祝っていた。


「王様ゲーム? ……三人で?」

 もう一人の親友『楠瀬 雅』は目を細め、渋い顔で美樹を見ていた。

 彼女たちは私の両隣に住んでいる同じアパートの住人。雅は美樹の大学時代からの友人で、彼女が一昨年に引っ越してきてからは、よく三人で出かけて遊ぶようになった。

 お酒も食事も進み、美樹の喜ぶ姿は見れたし、サプライズが成功して良かったなぁ~と、しみじみ感じていた時に、当の本人から意外なゲームのリクエストをされて驚いた。

 ニマニマしながら美樹は何かを握ったまま、手を高々と上げる。


「ちなみに王様は私でーす! はいっ、二人とも残りのくじを引きたまえ。どーぞ!」

「誕生日の美樹ちゃん。何かしたいんでしょ。付き合ってあげよう」

 私は美樹に近づくと、くじをじっと見つめた。 

「さすが和花のどか! さ、選んで。あっ、その代わり引くのは一斉にだからね? いいって言うまで引っ張らないで?」

 くじ引きは美樹の握った両手から出ている二つの紐をそれぞれが引くという、簡単なものだった。

「じゃ私これ」

 一本ピンと長く背を伸ばした白い紐に私は目がいき、それをちょんと摘んだ。


「しかたないな。私はこっちね?」

 雅はもう一本の少し短いほうを摘む。

「もう変えなくていい? よし。じゃあ遠慮なく引きたまえー。せーのっ!」

 美樹の掛け声と同時に勢いよく私はクジを引いた。


「なにこれ? なんかついてる! チャーム……?」

 私は顔をあげ、美樹を見た。

「ぴんぽーん! それ二人にあげる! そのチャーム、いつもお世話になっている二人への私からのプレゼント!」

 美樹は笑顔で言った。

「「え?!」」

 雅と私は同時に声をあげた。その後、手のひらに収まったチャームに視線を戻した。


「王様ゲームがしたかったわけじゃないのか。なんか……あれだね。ブーケプルズ」

 雅が美樹に向かって話しかける。

「ピンポーン! 雅、正解! チャームにはそれぞれ意味があるんだよ」

「……意味?」

「そう! 二人ともチャーム見せて?」

 美樹は私に近づき、手の中を覗き込んだ。 

 

「……私のは指輪」

「あ、和花ーおめでとう! あたり!!」

 美樹はパチパチと手を叩いて、喜びの声を上げた。

「あたり?」

 私がぽかんとした顔で美樹を見ていると、雅がにこりと私に笑いかけてきた。


「なるほどね! 次に幸せ掴むのは和花か」

 雅は物知り屋さんで勘がいい。美樹の発言に思い当たることがあるみたいだった。だけど、私はいまいちよく分からない。

「えー……? どういうこと?」

 二人を交互に見つめる。


「あのね、和花。指輪のチャームは花嫁のブーケと一緒の意味なの! 次に結婚するとか、幸せになれるとか!」

「幸せに?」

 私は自分の手のひらのチャームをもう一度、じっと見つめた。


 素材は多分シルバーで、部屋の照明でキラキラと輝いている。

 大きな宝石部分はダイアモンドカットが施されたデザインで、とても可愛い。

 いつまでもうっとり眺めていられる。

 ……このチャームなら、恋を成就させる魔法のような力があってもおかしくないかも。

 私はぎゅっと包み込むように両手で指輪のチャームを握りしめた。


「……美樹、ありがとう。大切に使うね」

 笑顔でお礼を言った。

「さっ、飲も飲も! 乾杯しよ!」

「乾杯はいいけど、美樹はもうそれ以上飲まない方が……」

 美樹が酎ハイを持って、にぱっと笑っているのを見て、雅は少し呆れ気味の声で言った。


「ま、いっか。美樹の誕生日祝い、脱独身への第一歩だし!」

 でも、結局雅も笑ってお酒のグラスを持ち上げる。

「和花もお酒持って! いくよ?! これからも恋愛成就に猛進! かんぱぁーい!!」

 美樹は朗らかに大きな声で言うと、ぐいっと酎ハイの缶を呷って飲んだ。


「……か、かんぱ……い」

 私と雅は美樹に気後れしてしまい声が小さくなったけれど、気を取り直し、美樹に続いて私もビールを飲んだ。


 猛進かぁ……。私に、出来るかな……?


 美樹は最近、素直になることで好きな彼と付き合えて、今うまくいっている。

 美樹が幸せそうで良かったと思うと同時に少し羨ましかった。


 私も好きな人と付き合い、幸せになりたい……。どうすればいいのかな。


「次の恋のバトンは……和花!」

 一人物思いに耽っていると、急に名前を呼ばれた。

 顔を上げると美樹と目が合った。すると彼女は手を顔の高さまで上げて、パンっとハイタッチしてきた。


「……恋のバトン? 私?!」

 思わずハイタッチしておきながら、ぽかんとした顔で美樹を見た。

 美樹は変わらずにこにこっと笑うと、私の手のひらのチャームを指差す。

「次、和花が恋の走者! ……幸せを掴んで繋いでね」

「恋に走って幸せを掴む……か。和花頑張ってー! 応援してる」

 雅も微笑み私を見て言った。


 私は恋愛に積極的な方じゃない。臆病でいつも相手や周りに遠慮して合わせしまう。……うまくいかない。

 でも、もう、バトンは手渡されちゃった……。


「……二人とも、ありがとう」

 どうすればいいか方法はまだ分からないけど、まずは逃げずに前に向かって進もう。

 この『指輪のチャーム』があれば大丈夫。

 根拠はないけれど、胸の奥、勇気が湧いてくるのがわかった。


「西森 和花、幸せを掴むため……頑張って走ります!」

二人に向かって敬礼をすると、笑顔で答えていた。



 

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