星華との再会
少し間が空いてしましました。
星華といちゃいちゃするだけの回です。
「……さん、優路さん。起きてください」
肩を揺すられる感覚で目を覚ますと、おかっぱ黒髪の美少女が俺の顔を覗き込んでいた。
かつてこんなに近くで女の子に微笑まれたことは無いというくらい近い。
「おはようございます、優路さん。ようこそ、妖精管理局へ」
目を覚ましたことに安堵したのか。ふっ、と軽く吐息を漏らすと表情が満面の笑みに変わった。
眠っている間のアホ面を思い出して笑われているわけではないと思う。
と、言うか。
「……この声。君は星華か」
あの日の夜。短い間に何度か言葉を交わしただけの声。
けれど、この三日間の責め苦に耐えるための糧となった忘れられない声。
「はい。星華です。ご無事で何よりです」
ご無事だった訳でもないんだが。
この場合は生きててよかったです、くらいの意味合いだろうか。
立てますか? と手を差し出してくる星華を改めて観察する。
肩よりやや上で切り揃えられた黒髪はさらさらで艶がある。
両耳の後ろから一房ずつ髪を後ろへ流して、後頭部薄紫のリボンで留めているようだ。
変身していた時の金髪ロングとはずいぶん印象が変わるがこの髪型もまた可愛い。
ただし、変身前より少し幼い印象を受けるのは気のせいではないと思う。
髪型や髪の色などのせいだろうか。
まあ、多少幼いくらいは問題ない。十分ストライクゾーン圏内だ。
それよりももっと注目しておきたいところがある。
どこか? おっぱい? 悪くないが違う。
ちなみに変身前の星華の胸は変身後と同じくらい小さい。
というよりも変身しても胸の大きさは変わらないのだろう。
貧乳かくあるべしという感じの理想的な貧乳とでも言おうか。
あるとはとても言い難いが無いかと言われれば女性的な膨らみが確かにそこにある。
星華自身の華奢な体格と相まって少女としての理想的な体型を作り上げているといってもいいだろう。
つい長く語ってしまったがおっぱいはどこの世界にあってもおっぱいだ。
前世も今世も大きいのも小さいのもみんな違ってみんな良い。
それよりも、だ。
この大正浪漫的な世界に来てしまったのだからぜひとも見ておきたかったものがある。
それが今星華が身に着けている着物と袴。
こういう言い方をすると年寄り呼ばわりされてしまうかもしれないが、所謂ハイカラさんスタイルだ。
着物の上着、袴の時は半着と言うのだったか。それが白と薄紫の矢羽根の交差した模様、矢絣なのも個人的にはポイントが高い。
「流石は俺の嫁。よくわかってる」
言いながら、差し出された星華の手を取る。
「ふぁっ? え、あ、もぅぅ! またですか? またそういうこと言っちゃうんですか?」
声音は怒っているように聞こえるけれど顔は真っ赤だ。瞳もくりくりと見開かれていて怒るというより慌てているように見て取れる。
「袴姿がよく似合っていたからね。思わず言いたくなったんだ」
これは嘘偽りない正直な気持ちだったりする。
出会い頭から軍用車やら迷彩服やら黒スーツやら、お前ら街並みと着るものに統一感出してくれよと言いたくなる連中ばかり相手してきたのだ。
そこに満を持して現れた袴姿のメインヒロイン(予定)。
自ずとテンションも上がろうというもんだ。
「うぅ……もぅ……もぅぅ! 知りません!」
そうは言いながらも、車から降りようとすればしっかりと支えてくれる星華。
出来た娘さんだと思う。
「……さっきよりは楽になったかな。少し寝たからか」
星華に手を引かれてとりあえず立ち上がってみたが、車に乗る前ほど気怠い感じはしない。
走り回るのは無理にしても普通に歩くくらいは出来そうかな、と思う。
「そうですよ、それですよ! 心配、したんですからね?」
車から降りる際に手を引かれたそのままに歩き出そうとしていた星華が俺の呟きで何かを思い出したかのようにくるりと向き直って俺の目の前に立った。
さて、何時間寝ていたかはわからないけれど到着した後、局長さんは星華に俺がどんな扱いを受けていたか聞いているだろうか。
……と思ったが俺の格好を見れば一目瞭然か。
上に着ていたTシャツはあちこち破れている上に半分以上が血に汚れて赤黒く染まってしまっている。
下はジャージのズボンだったけどこちらも似たようなものだ。洗ってももう着れそうにない。というか、局長さんはよくもまあこんな服装の俺をそのまま車に乗せたものだと思う。
「寝ていた優路さんの頭を撫でたら、渇いた血の欠片がぽろぽろ落ちてくるんです。美沙希さんが傷は治したけどまだ相当しんどいだろうって」
手を繋いでいない方の星華の手が黒く汚れた血の跡を撫でる。
この三日間で俺がどんな仕打ちを受けてきたのかを想像したのだろう。
ついさっきまでの明るい笑顔が消え、今にも泣きだしてしまいそうだ。
「正直かなりきつかったよ。あと一日遅かったら死んでたかもしれないって思う」
死んでたかも、の言葉で星華の身体がビクッと震えた。
俺を守り切れなかった。そんな負い目を持って、責められたように思っているのだろう。
けれど、だからこそ、責めてなんていない、ましてや恨んだりなんてしていない。むしろ感謝しているんだと伝えなくてはいけない。
「でもな。星華がいてくれたから。あの時俺を助けに来てくれて、あの時諦めるなって言ってくれたから」
繋いだままの手をぎゅっと握りしめ、空いた手で星華の頭を撫でる。
「星華が来てくれなかったら捕まる間もなく殺されてた。星華が諦めるなって言ってくれなかったら、きっと耐え切れなかった」
星華の頬に涙が伝うのが見えた。
何を思っての涙なのかは恋愛経験の少ない俺には正直解らない。
俺に出来るのはとりあえず抱き寄せて涙を見ないふりをすることくらいだった。
「ありがとう、星華。君のおかげで俺は今ここにいる」
俺の肩に額を預けて泣き出す星華の頭をできる限り優しく撫で続ける。
頭がすぐ近くにあるおかげで局長さんとはまた違った感じの良い匂いが鼻をくすぐる。
お日様のにおい、という奴だろうか。泣き出してしまった星華に慌てていた心が落ち着いて行く気がする。
星華を抱き留めながら、心の中で決意する。
強くなろう。
せめて、星華に守られなくても大丈夫なように。
できることなら星華を守れるくらい、強くなろう。
それができるくらいの素質を、チートを、あいつから貰っているはずなのだから。
「……すみません。泣いちゃいました」
泣いて少し赤くなった目を擦って星華が笑う。
うん。やっぱりこの子は笑っていた方がいい。
「もういいのか? こっちは役得だから、もっと抱き着いててくれていいんだぞ?」
少し頭を上げて上目使いで俺を見上げてくる星華に対して少しおどけて見せる。
星華の右手は未だに俺の左手と繋がっている。
右手は泣き出したときに俺のTシャツを握り締めたまま。
俺の方の右手は頭を撫でていた格好のまま今は星華のうなじの辺りに添えられている。
どう見ても完全に抱き合ってます。ありがとうございます。
「ふぇ? あ、あぅ……もぅぅ……」
耳まで真っ赤になった星華は悪態をついて離れるかと思いきや、目を逸らすようにもう一度俺の胸に顔をうずめた。
正直意外だった。
「優路さんに泣かされたんですからね? だから、これは優路さんに責任を取ってもらっているだけなんです」
可愛い言い訳に苦笑しつつ、俺は星華の頭を撫でるのを再開する。
ふと別の所からの視線を感じて顔を向けると、楽しそうな顔だけを覗かせてこちらを眺める局長さんの姿があった。
色々と台無しになりそうなので軽く睨み付けるとにっこりと微笑んだ後、手を振って建物の中に消えていった。
活動報告とかってした方がいいんでしょうかね?
あったら読むよ、と言う方がいらっしゃれば考えてみようかと思います。
とりあえずは放置で。