救いの手
観想頂いてニヨニヨしてたところを上司に見られてた。恥ずい。
でもご意見ご感想大歓迎。
それからの三日間は、まぁ思い出したくもないほど酷い毎日を送らせていただいた。
そもそも治療どころか殴る蹴るされた所から流れる血を拭うことさえされずに独房の床に転がされていた。
ベッドが真横にあるにもかかわらず、だ。
血で汚れるから使わせたくなかったということだろう。
一晩明けて口内や手足の傷口からの出血は止まっていたが、後頭部は痛む部分に触れるとまだ完全には血が止まっていないようだったので、Tシャツの裾を何とか引き千切って包帯代わりに頭に巻いて止血をした。
けれどそれもあまり意味をなさなかった。
独房から連れ出され向かう先は決まって何もない、石壁剥き出しの部屋。
中で待ち構えている10人ほどの軍服を着た男たちに拷問に近い尋問を受けていた。
どこから来たかを聞かれ、ここによく似た異世界から来たと言えば殴られ。
どうやってあの公園に現れたかと聞かれ、神様に送ってもらったと答えれば殴られ。
何をしに来たと聞かれ、まだ考えていないと答えれば殴られ。
もう一度何をしに来たと聞かれ、この世界の人類をを繁栄させるために来たと言えば、嘘をつくなと殴られる。
侵略者め、とか化け物が、とかと怒鳴りつけられていることからどうやらそう言ったモノに仕立て上げるための自白をさせたいように見える。
(魔女裁判ってこんな感じだったんだろうなぁ……)
相手の望む答えを口にするまで続く拷問。けれど、その望む答えを口にしたら最後。その先に待っているのは確実な死だ。
傷の治療どころか食事も水すらも与えられず怒鳴られ痛めつけられる。
畜生……。何がチートでハーレムだ。
いきなりハードモードでゲームオーバー間近じゃないか。
ひょっとしたら、俺は騙されたんじゃないだろうか。
そんなことさえ考えた。
流石に俺一人騙すために実際に異世界に飛ばしたりとか意味が解らないのでないだろうとは思っているが。
今日もようやく尋問が終わり、再び独房へ放り込まれるのを夜と仮定して3日が過ぎた。
相変わらず殴られ蹴られ、時に魔法の電撃のようなものをぶつけられた。
もう立ち上がるどころか言葉を話す気力すら湧いてこなかった。
いっそ殺せとさえ何度も考えたが、その度に星華の言葉を思い出す。
『絶対、絶対に助けに行きますから! 諦めないでください!』
……うん、……俺頑張るよ。……頑張って、耐えてる、と思う。
……けど、そろそろ……物理…的に……限……界……。
たぶん4日目。
何とか生き延びた。
とは言え今日も二人の男に両腕を捕まれ連行される。
今日もまた拷問の日々が始まるのか。
自分としてはよく耐えた方だと思うが、今日か明日。そのくらいがデッドラインだろう。
それ以上は体が持ちそうにないという意味の文字通りの生死の境目だ。
そう思っていたが、今日連れていかれた場所は刑事ドラマで見るようないわゆる取調室のような場所だった。
「チッ……。そこで待っていろ!」
机に備え付けられていた椅子に無理やり座らされる。
俺を抱えていた男たちは不機嫌そうな顔で俺を睨み付けると殴ることも蹴ることもせずに部屋を出て行った。
一人になった部屋で座らされたまま待たされる。背もたれに上半身を預ける気力すらない俺は体力の温存のために目の前の机に上半身を横たえた。
(今日は何をされるんだ……)
何かを考えようとするけれど、状況を整理することさえ出来ないくらいに頭が働かない。
どれだけの時間そうしていたか分からないがやがて男達に連れられて一人の女性が現れた。
俺を見て驚いたように息を飲み、そして眉根を寄せて隣の男たちを睨み付けた。
睨まれた男たちは忌々しげに口元を歪め目を逸らす。
女性はそんな男達を無視して俺に駆け寄ると膝を着き、俺の頬に触れた。
「遅くなってごめんなさい。まさかここまでするなんて……」
女性の手が俺を労わるように優しく撫で上げ、額の辺りで止まる。
『いと慈悲深きオオヒルメノミコトに申し奉る……』
気が付けば額に添えられた女性の右手が淡く光を放っていた。
優しく、暖かい光。
極上の布団に包まって眠りに落ちる瞬間のような心地よい感覚。
消えたとまでは言わないがさっきまでの痛みが嘘のように引いていくのが分かった。
「回復……魔法?」
魔法を使っている最中だからか返事はなかったけれど、視線を向けると優しく微笑んで頷いてくれた。
おかしな話かもしれないが、痛みが消えていくことで自分の身体がどれだけ痛みを訴えていたのかを自覚できた。
多分、若返らせてもらう前の身体では耐え切れずに命を落としていたことだろう。
何らかのステータス的な底上げをしてくれていたのかもしれない。
(何となく癪だけど、『あいつ』には感謝しておかないとな……)
顔も見たことのないあいつだが、ドヤ顔というかニヤケ顔がはっきりと想像できたので絶対に面と向かっては言わないけど。
どうせ頭の中だか心の中だかを読んでいるのだろうし。
このまま暖かな光に撫でられつつ眠りについてしまいたいところだけど起きていた方がいいだろう。
俺の予想が正しければこの女性は星華の関係者。ともすれば星華の言っていた『局長』とかいう人かもしれない。
3分か5分か。それくらいの時間をおいて掌から光が消え、局長さん(仮)の手が額から離れる。
「遅くなってしまって本当にごめんなさい。でももう大丈夫。貴方の身柄は私達『妖精管理局』に移譲されました。これからは私達が貴方を護ります」
いまだに机に上半身を伏せていた俺と目線を合わせるために膝を着いて謝罪する局長さん(仮)の姿に、流石に失礼かと思い慌てて体を起こす。
とはいえ、体力とか失った血液までは回復しないようで思いのほかゆっくりとしか身体は起き上がらず、挙句肩を支えてもらってようやく起き上がれるという体たらくだった。
「無理はしなくていいわ。三雲優路君、だったわね。私は栂野美沙希。妖精管理局の局長を務めています」
俺が体を起こすのを手伝ってくれたあと、美沙希と名乗った女性は俺の目の前にしゃがみ込んだ。
予想の通りこの人が星華の言っていた局長という人物らしい。
年の頃は三十前後、といったところだろうか。局長、という立場にあるにしては随分と若いような気もする。
改めて見てみれば彼女も星華とはまた違ったタイプの美人さんだ。
下せば長いであろう黒髪を頭頂部の少し後ろでお団子にしている。
耳にかかる言わゆるもみあげの辺りの髪を伸ばしているからか、眼鏡、お団子髪、グレーのスーツというデキる女上司、といった印象の中にもどこか柔らかい雰囲気を感じさせてくれる。
眼鏡の奥の瞳がちょっとタレ目なのも、きつい印象を受けない理由のひとつかもしれない。
そして、なるべく見ないようにしようと心掛けるもののつい視線が行ってしまうのは二つの膨らみ。
かなり大きい。
グラビアアイドルくらいしか比較対象を知らないがEかF? ともすればもっと大きいかもしれない。
しゃがみ込んだ際に自身の膝に押しつぶされスーツの谷間から白いブラウスがはちきれんばかりになっている。
というか、半分くらい膝の上に乗っかってしまっている。
まったくもってけしからん。
「三雲君? ……まだ意識がはっきりしていないようね。とにかくここから出ましょう。立てるかしら?」
はっと気が付くと局長さんが俺の顔を覗き込んでいた。
まさかおっぱいに夢中になっていましたとも言えず、実際本調子でないこともあるし何よりも此処から出られるというのなら長居する理由がない。
テーブルに手を着き立ち上がろうとする俺を局長さんが横から支えてくれた。
すごく自然な感じで腕の中へ潜り込んできたので思わず肘をあげて肩を組んでしまった。
おかげで顔のすぐ下に局長さんの頭があるのでこれまたすげー良い匂いがする。
むにょん。
あ。当たってます。局長さん。すっげー柔らかいものが俺の横腹の辺りに当たってます!
でも言わない。あえて言わない。
多分解ってて助けてくれてるんだろうし。
あと、正直しんどい。
怪我も治してもらったことだし玄関までくらい歩けると思っていたが廊下の途中で急に目の前が真っ暗になって膝から落ちそうになった。
思っていた以上に血が足りないらしい。
というわけで、大義名分を得て心置きなく肩を貸してもらうことにする。
これくらいの見返りというか役得はあってもいいじゃないか。
死んでてもおかしくないくらいの思いをしたわけだし。
その後、無事に日の光を浴びることができた俺は、局長さんの運転する車に乗せられて科特隊の本部を後にした。
俺は後部座席に横になり到着するまで爆睡した。
ゲーム開始直後のムービーラッシュ的な強制イベントがほぼ終わりました。
次の次あたりから日常パートに入ります。