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敗北宣言

早く冒険パートに移りたい。

一段落したらゆるい話になるはずです(予定)。

 男と目が合った瞬間から頭の中のどこかが最大級の警鐘を鳴らし続けている。

 こいつは、やばい。

 戦って、勝てる勝てないどころの話じゃない。

 万全の状態の俺と戦う気満々の星華がいたとしても、隙を見て逃げ出すことすらできそうにない。

 むしろ最初の一撃で死ななかったのが奇跡と言ってもいいくらいだ。まぁ、疲れと痛みのダブルコンボで身動きすら取れないけど。

 

 黒スーツの男は煙草の煙を吐き出すと胸ポケットから機械のようなものを取り出し、……って、あれは携帯か?


「私だ。対象を押さえた。何人か寄越せ」 

 

 携帯だった。文化レベルの上に技術レベルまでよくわからんことになっている。


 こいつ一人で俺たちを圧倒できるだろうに更に応援を呼ぶとかどれだけ用意周到なのか。

 というか、こいつの部下とか劣化黒スーツのグラサン連中しか思い浮かばない。

 

 殺される、という漠然としたイメージが東京湾でコンクリ詰めとかそっち方向に固められていく。

 

 黒スーツは吸い終わった煙草を律義に携帯灰皿に片付けると俺に向かって歩き出した。

 さっきの煙草タイムは執行猶予というか、悪あがきの時間だったかもしれない。

 そんな余裕全くないけどな!


「ま、待ってください!」


 無防備に俺に近づいてくる黒スーツに星華が待ったをかけた。

 正直勇気あると思う。


「……管理局の魔法少女か。『異物捕獲の協力、感謝する』」


「……っ」


 これは政治的駆け引き、という奴だろうか。

 俺には「手助けしてたんじゃないよな? 今引くなら協力者として見逃す」そう言っているように聞こえる。


「…待ってください。その人は人類と共存できる方です。≪3種協定≫に基づき妖精管理局へ身柄の引き渡しを要求します」


 だけど星華も簡単には引かない。


 ただ、交渉の余地があるなら最初の現場指揮官さんと話した方が確実だったんじゃないですかね?


「我々科学技術庁特務隊は異世界より来たる異物を排除し世界に安寧をもたらすために存在している。貴様たちとつるんでいる妖精どもも本来はその対象だ」


「妖精さんたちは共存できる存在であると政府から公式に認められています!」


 鋭い眼光に怯えた表情を見せる星華だがそれも一瞬の事。毅然とした態度で反論する。

 ちなみに妖精さんとやらの姿はさっき少し話をしていた間も見かけていない。

 どこか別のところで待機しているのかもしれない。


「妖精どもは、今は見逃しておく。だが、こいつは妖精ではない」


 再び俺に向かって歩き出した黒スーツは俺の目の前で止ま……らずに最後の一歩を俺の頭の上に着地させた。


「ぐぁっ!」


「優……その人を離して下さい! 彼は戦うことより会話を望みました! 第三種来訪種・妖精に類する存在であると推測されます。私達≪妖精管理局≫の管轄です!」


 名前を呼ぼうとして言い直したのは協力関係を隠すためか。

 意外と冷静で頭の回る娘のようだ。


 というか、それよりも。痛いんだよ。

 グリグリすんな。踵で踏みつけんな。


「会話ができれば妖精? 話にならん。其れでは2種魔人族と区別がつかん。むしろ完全な人型で他の妖精どもと比べて体格も人間に近い。分類上、こいつは魔人である可能性が高い」


「うぅ・・・ぐぁぁぁぁぁっ!」


 やっと足が下りたと思ったら頭というか髪をつかんで持ち上げられた。

 嘘だろう? 若返ったとはいえ40か50kgはあるはずなんだが。

 っていうか、やっぱり痛てぇ!

 髪! 大事な髪が! 髪が抜けるっていうか! むしろ頭皮が剥がれちゃうから!

 苦し紛れに腕を掴んでみるものの、石像でも掴んでいるかのように全く動かせない。

 これ以上暴れると頭皮へのダメージが計り知れなくなりそうなので無茶もできない。

 

「もう一度言います! その人を離してください! 戦闘力がないのは明白のはずです。魔人である可能性はありません!」


 痛みに呻く俺を見かねてとうとう星華は屋根の上から降りてきて俺と黒スーツの目の前までやってきた。


 というかね。星華さん。軽くディスってくれてますよね?

 まあ、戦闘力とか皆無っぽいのは認めるけどもさ。


 手にはどこから取り出したのか魔法少女の定番、不思議なステッキがあり、星をかたどったその先端が黒スーツに対して向けられている。

 

「そこから先は言動に気を付けることだ。さもなくば妖精どもは管理局諸共に消滅するぞ」


「っ……!」


 先程まで見えていた覚悟のようなものがその一言で霧散してしまったように見えた。


 無理もない。

 初めて会った見知らぬ男より、大切な友人、仲間を優先したくなるのは当然のことだ。


 交渉は決裂したと思っていいだろう。


 これ以上長引かせると自棄を起こすとか、黒スーツの挑発に乗るとかで、星華が攻撃を仕掛けてしまうかもしれない。

 ここが潮時だろう。


 フラグの予感を感じた時にこれくらいの状況は予測できていた。

 ただし、黒スーツの言動のあちこちから生き残れそうな可能性を感じている。

 状況は思ったほど悪くないかもしれない。


「……そこの君……。庇ってくれるのは嬉しいが自分や仲間を危険に晒してまでするもんじゃない。ただ、それでも俺を助けてくれようとするんなら、今は引くんだ。君には悪いが、もっと権力のある奴が要る……」


 星華に倣って俺の彼女の名前は出さないでおく。

 これで大義名分は果たされた。

 

 星華が介入こそしてしまったものの、俺に対する逃亡幇助に関してはこれで無かったことになる。

 これで黒スーツが星華を狙う理由がなくなる。

 

 星華には悪いがここは引いてもらい、現場で直接でなく組織から組織へ、公式に声明を出してもらわなければならない。

 俺が生き延びるためのキーワードになるのは『科学技術庁』『妖精管理局』『妖精は政府に認められている』、そして、何度か耳にした≪3種協定≫。

 

 おそらくだけど、この二つの組織には何らかの政治的対立がある。

 

 元の世界での常識がどのくらい通用するかは賭けになってしまうが、俺を抹殺したい組織と俺を利用したい組織。前者に俺が捕らえられたことを後者が知っていた場合、前者はそれでも俺を殺すことを強行できるか?

 

 結論としては俺の処刑を強行することは難しいんじゃないかと思う。

 希望的観測かもしれないがここで処刑を強行すれば、処刑したことを星華達に公表されれば。

 黒スーツたちへの風当たりは強くなるだろう。

 本人が話した通り、曲がりなりにも平和を目指す組織であるならそれは避けたいはずだ。

 黒スーツにしたって言葉では死ねという割には最初の一撃からこっち俺を殺そうとする気配が感じられない。

 手下を呼んだのさえ、逃がさないように、ではなく拘束して連れていくためだとしたら?

 そう考えたら生存の可能性が見えてきた。


 今は星華には逃げて、助けを呼んで貰い、権力を盾に正式に俺の身柄引き渡しを要求してもらう。

 できれば科学技術庁とやらに直接意見できるような権力者が望ましい。さらに舌戦が強ければ申し分ない。

 それ以外に俺と星華、まだ見ぬ妖精たちが誰一人欠けずに生き残る道はないだろう。


『星華。まだ聞こえているか? もういい、十分だ。君は良くやってくれた。今すぐここから離れ、君の所の局長やその背後にいる権力者たちに協力を要請するんだ。間違ってもここで戦ってでも取り戻すなんて考えちゃだめだ』


『でも、それじゃ優路さんが……!』


 引くべきだということはきっと理解しているだろう。

 それでも引こうとしないのは今ここで俺を助ける手段を模索しているからだろう。優しい子だ。


『俺は大丈夫。少なくとも2、3日は耐えてみせる。その間に何とか助ける算段をつけてくれ』


『……解りました。絶対、絶対に助けに行きますから! 諦めないでください!』


『解ってるよ。星華を嫁にもらうまでは死んでも死に切れん』


『またそういうこと言う……。でも、また逢えたら、その時は考えてあげますから、死んじゃいやですよ!』


 あえて答えずに頷いて見せる。

 念話がこの世界でどれくらいメジャーなスキルなのかはわからないが黒スーツにはきっとばれているに違いない。あまり時間はかけられない。

 

「……彼の事は後日必ず、管理局を通して正式に抗議させて頂きます! それまで彼の身の安全を保障してください!」


 目を伏せ、黒スーツに向けていたステッキを降ろす。事実上の敗北宣言だった.


「安全の保障まではできない。だが、しばらくは情報を引き出すための尋問の期間としよう。精々急ぐことだ。この餓鬼が尋問でくたばる前までに、な」


 しばらくは殺されないという最低限の言質は取った。

 今はこれで十分だ。

 

 その後、俺は後からやってきた黒スーツの援軍に拘束され、最初に見た軍用車っぽいものに乗せられて連れていかれた。


 星華はしばらくの間怒りとも悲しみともつかない表情で俺を見つめていたが、やがて振り返ると民家の屋根を大きく飛び越えて夜の闇へと消えていった。


文明レベルや文化レベルのお話はまたそのうちに。


優路君は現状、一般人とそれほど能力に差がありません。

ヒロインに積極的に守られていくスタイル。

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