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月下の少女

中々毎日投稿とはいかないじれんま。

なるべく間があかないよう頑張ります。




 大通りに立ち並ぶ屋根の向こうに、まるで少女を照らすためにそこにあるかのような大きな満月のおかげで真夜中にも拘らず少女の顔がはっきりと見えていた。


「俺を助けてくれているのは、君か?」

 

 隠れていたことも忘れて立ち上がると、荒くなった呼吸を何とか整えながら問いかける。

 少女は一度周囲を見渡して人影なしと判断したようで、同じように屋根の上で足を止めて俺に向き直った。

 あの声の主が彼女であるのならば最初の公園からここまで俺を先導するために並走していたはずなのに少女の呼吸に乱れた様子はない。

 

 問いかけに対する返答の代わりに少女が微笑む。

 その笑顔に完全に魅せられた。

 年甲斐もなく頬が紅潮していくのが解る。

 いや、若返っているんだからここは年相応にと言ってしまおうか。

 

 少女は笑顔のまま人差し指を立てた右手を口元に触れさせた。


 静かに。そういうことだろう。この辺のジェスチャーはどこの世界でも変わらないらしい。


 視線を外せないまま顎を下げるように頷くと少女はまるで重力を感じさせないような動きで二階建ての屋根の上から飛び立った。

 ふわりと舞い上がるスカートに思わず視線を向けてしまうが残念ながら幾重にも重なるフリルに阻まれて期待してしまったモノは見れない。

 そして、そこそこ狭い路地にも拘らず正確に路地の中へと飛び込んでくると、殆ど音も立てない軽い着地で俺から1m手前の辺りに降り立つ。


 間近で見る少女の顔は綺麗というよりも可愛い、という印象が強いだろうか。

 残念ながら髪型の呼び名に詳しくないので名称は解らないが、肩下まである長い後ろ髪はそのままに両サイドの髪を細めのツインテールに束ねている。

 年の頃は中学生くらいだろうか。高校生にまではなっていなさそうに思う。

 清楚系というよりは元気系。天真爛漫という言葉がよく似合いそうな、正統派ヒロインといった感じだろうか。

 ただし、ギャルゲーのヒロインの方の意味ではない。女主人公を意味するヒーローの女性版の方の意味だ。

    

 それは少女が着ている特徴的な衣装にも起因する。

 先程、衣服でも衣装でもなくコスチュームだと思った所以。


 一言で言うなら――『魔法少女』


 さらに付け足して言い表すなら、日曜朝の可愛くて癒しな格闘系魔法少女のシリーズに出てきそうなデザインをしている。

 チューブトップっぽい上半身の衣装は胸元から臍上くらいまでしかないが白いインナーのようなものを着けているようなのでヘソチラはない。

 胸元とは言ったが胸と呼べるほどの膨らみはそこにはない。

 あってA、精々AAといったところだろうか。

 残念と言えば残念だが中学生という予想が正しければまだ希望はあるはずだ。諦めず頑張ってほしい。

 個人的な評価ポイントとしてはインナーもチューブトップなのか方から鎖骨にかけてのラインが完全に露出しているところだろう。


 防御力とかどうなの? とかいうのはこの際考えない。

 可愛いは正義の精神で行こうと思う。


 鎖骨に関しては可愛いというよりエロい感じはするけどな。


 下はさっきちらっと見たようにトップスと同系色のスカートの中に幾重にもフリルが重ねられていて激しい動きをしてもパンチラを目撃するのはなかなか難しそうだ。


 全体的には星をモチーフにした衣装のようで胸元に留められているリボンの中心や髪飾りなど随所に黄色い星があしらわれている。

 この世界を明治大正時代をベースとして考えるなら、彼女のコスチュームは明らかに異質なように思う。

 いや、それを言い出せば最初に遭遇した奴らも都市迷彩とか着こんでいたか。

 過去ではなく異世界に飛んだのだからと言われればそれまでだがどうにも文化レベルのちぐはぐさというのが気になってしまう。

 この世界のどの程度海外との交流をしているのだろうか?


 ……まあ、その辺の考察は後にしよう。

 今はそれよりも魔法少女だ。   

 軽く2時間くらい、この少女と連絡を取り合っているはずだがいまだにお互い名乗ってすらいないことに思い当たる。


「一応、今初めましてと言っておきますね。私は妖精管理局所属の退魔師、天宮星華あまみや せいかです。あなたを守り、所長のところへ連れ帰るよう頼まれています」


 魔法少女(仮)に妖精に退魔師、か。ようやくファンタジーっぽい単語に巡り合えたな。

 限りなく現代ファンタジーに近い感じの世界っぽいけど。あいつに騙されたかと思ったけどこれはこれでありかもしれない。


「俺は三雲優路。助けてくれてありがとう。君みたいな可愛い子に助けられたのも嬉しく思うよ」


「え? か、可愛……」


 可愛いという言葉に反応してか手をパタパタさせて慌てる星華。

 薄暗い中でも顔が真っ赤になっていくのがよくわかる。

 はい。間違いなく可愛いです。


「もぅ! もぅーー! か、可愛いとか、その、お、お嫁さんとか、そんなことを簡単に言っちゃう人なんですか?!」


 怒られた。でも、たぶん照れ隠しだろう。

 もぅ! とか、ちょっと前傾姿勢で腕をピンと下に伸ばす仕草とか、怒っている姿さえ可愛いと思う。

 

 初めて声を聞いた時から予感があった。いまその姿を見て予感は確信へ変わった。

 彼女がオオヒルメ様が引き合わせてくれるという『相性のいい相手』なのだと。

 

 見た目の好みまでは寄せられないと言っていたけれど、とんでもない。

 俺の好み直球ど真ん中。本当にありがとうございます。


「誰にもは言わないよ。だけど君には言いたくなった。それだけだ」


 我ながら恥ずかしいことを言っていると思う。

 

 だけどここは夢にまで見た異世界モノのラノベのような世界。

 美少女との出会いとチートが約束された世界のはずだ。


 30代童貞で魔法使いになれる世界はもう捨てた。

 魔法使いにはレベルアップとかスキル獲得とかでなればいい。

 

 手あたり次第喰いまくりとかしなくていいけど先達の英雄たちのようなハーレムを築いて行きたいと思う。


「あー、もうぅ! もうぅ! そういう恥ずかしいことを簡単に言わないでください!」


 だいぶテンパってきたようだ。

 あまり言いすぎると嫌われるかな。

 落ち着ける状況でもないしこの辺に……

「いたぞ! あそこだ!」

 しとくかなと思った矢先に背後から聞きたくない声が聞こえてしまった。


「やばい、見つかったか!」

「そのようです。まだ遠いですがいつ追いつかれるかわかりません。急いでください!」


 星華は先程の慌てっぷりもどこへやら。瞬間的に意識を切り替えて逃走経路の確認に飛び上がった。


「恰好悪いのは解っててあえて聞くけど、星華が俺をおんぶして逃げるとかそういうのは無理そうか?」

 

 一瞬の間をおいて星華が笑う。 


『確かに、女の子にいう台詞じゃないですよね、それ』

「解ってるけど状況が状況だからな。逃げ切れるならプライドは捨てられる!」


 多少幻滅されても後で挽回すればいい。死ぬよりマシだ。


『そこ威張られても……。出来なくはないんですが、ちょっと色々事情がありまして。陰ながらの補助はできるんですが直接助けることができないんですよ』


 ですから、すみません、と謝ってくる星華。

 ダメ元で聞いてみただけだから無理ならいいんだけどね。


「さっきの科特研? とやらとは敵対できないってことか」


『ええ、そうです。これくらいの距離から誘導するくらいなら、明らかに優路さんの手助けをしているのが解っても『偶然居合わせた』としらを切ることができます。ですが直接かかわったのが露見してしまうと……』


 最後まで言葉を続けずに言いよどむ星華。

 

「俺だけじゃなく星華やその妖精管理局に被害が及ぶ、と」


 科特研とやらの方が星華達より勢力が大きいのだろう。

 

『うちは規模の小さい組織なので。すみません』

 

 何度目かのすみません、をつぶやく星華。

 

 公園での包囲網や大通りを封鎖しているらしいことなどを踏まえると相手は自衛隊……いや、軍隊規模の組織なのだろう。


「それでも、自分の所より大きな組織を敵に回しかねないような状況で助けに来てくれたんだろう? それで十分だよ」


 彼女たちと軍人たちの力関係がどれほどのものなのかも解らないが、最初の包囲網でざっと四、五十人。街道封鎖もやっているらしいし、数百……いや、千人規模である可能性もあるか。

 そんな組織を相手に、見ず知らずの俺を助けるためだけに只一人で助けに来てくれた少女。

 何それ格好いい。ってか、役割ふつう逆だよね?


 追われる女の子を俺が単騎突入して颯爽と助けるのがラノベ主人公の役割じゃなかったですかね?

 何か、思ってたのと違くね?

 

 ……じゃなくて。


 本来敵対できないはずの相手と事を構える可能性すらある状況にも拘らず助けに来てくれた。

 星華がいなければ公園で取り押さえられるかともすれば射殺されてゲームオーバーだったはずだ。

 俺を助けることに実際どんなメリットがあるのかさえ分からない。

 相当にハイリスク・ローリターンであることは間違いない。

 星華と一緒に逃げ切れるのが最善のルートなのは間違いないが、この先で再び包囲、もしくは俺が下手踏んで捕まったりした場合、せめて星華に迷惑をかけないように覚悟をしておく必要があるかもしれない。


「あと半里くらいで逃げ切れるはずです。絶対、絶対連れて帰ってあげますから!」


 半里か。一里4kmくらいだから2kmか。確かに逃げ切れそうではある。


「……わかった。どの道俺は星華を頼るしか方法がないからな。アテにしてるよ」


 ただし、星華のセリフで盛大にフラグが立った気がするが勿論口にはしない。

 その代わり心の中では先程の覚悟をさらに強めておいた。


「はい! また見つかる前に急ぎましょう!」


 星華は胸元で両拳を握り締めると民家の屋根の上へと飛び上がっていった。

 今更だけどあのジャンプ力をリアルで見せつけられると驚きよりも呆れに近い感覚になるな。

 この世界でレベルを上げたら俺もあのくらい飛べるようになったりするんだろうか?


 公園を逃げ出してから感覚でだけど2時間は経ったと思う。

 昔近所の湖を一周するハーフマラソンの大会があったときのタイムも2時間くらいだったはずだから、単純計算で20km、体が若返っていることも考えるともう少し走っているかもしれない。

 体力、というか持久力は昔よりも上がっていると感じている。

 けれどあの屋根の上にジャンプで飛び上がるなんてことは出来そうにもない。


 とにかく星華に言われるまま右へ左へに細い路地を右へ左へと駆け回る。少女の誘導の甲斐もあってか俺を探す奴らの足音は遠くなってきている気がする。

 ただ、右往左往しすぎたせいか10分経ってもあまり進んだような気がしない。何度も引き返して同じ道を通ったことも二度三度ではない。

 俺の体力の法もだいぶ尽きかけてきている。若返った肉体と火事場の馬鹿力を総動員してもさすがにこの距離の全力疾走はつらい。終わりが見えないぶん、尚更だ。


「はぁっ…はぁっ…すまん、流石に、そろそろ、限界が、近いんだが……」


「もう少しだけ何とか頑張ってください! もう少しでこちらにも応援が来るはずなので」


 まあ、そうですよね。少しくらい休憩して良いですよ、なんて言わないよなぁ……。

 追いつかれれば撃たれ、捕まれば殺される状況で悠長なことは言っていられない。

 棒のようというか鉛のようになった足に鞭打って走れるだけの速度で走り続ける。


「その十字路をそのまま真っ直ぐ…! ダメでした! すぐに引き返してください!」


 俺が速く走れないせいもあるだろうがだんだんと包囲網が狭まってきているようだ。

 星華の指示があっちへ行ったりこっちへ行ったりひとつ前の路地に戻ったりと本格的に右往左往し始めた。

 同じエリアをぐるぐると回らされているような感覚。少なくとも目的地にはほとんど近づいていないことだろう。


「はぁっ……はぁっ……あぁ……クソ…しんどい……」


 思わず愚痴が漏れる。


「頑張ってくださいと言いたいところですが、取り囲まれてきているみたいです。最悪の場合もう一度光弾を撃ちますが、正直手詰まりかもしれません」


 お互い捕まる気はないものの多勢に無勢。そもそもクリア条件が厳しすぎる。

 さっき一時的に撒いたところで多少無理をしてもらってでもおんぶとか何かで連れて逃げてもらうのが正解だったかも知れない。


「まあ、捕まったら……多分……命はないんだ。……走る……っ!! …ぐげっ!」


 持てる力の全てをつぎ込んで走り出そうとしたところで小路からいきなり飛び出してきた男に殴り飛ばされ、地面を転がる。


「あっ…痛っ……がはっ……」


 横腹の辺りにイイのが入ってしまった。走り回って呼吸が乱れていたのも相まってうまく呼吸ができない。


「そんな……いつの間に……」


 視界の隅で星華が呆然と立ち尽くすのが見える。

 無理もない。殴られた俺でさえ吹っ飛ばされた直後までそこに人がいることを認識できなかったのだから。




 黒いスーツ、ワイシャツに黒いネクタイ。

 髪をオールバックにまとめた、長身細身の目つきの鋭い男。

 悪役面だが整った目鼻立ちは間違いなくイケメンだ。クソったれ。


「俺はここで待っていただけだ。貴様がここまで追い詰められてくるのをな」


 黒スーツ男はそれだけ言うと俺にも星華にも興味なさそうに胸元のポケットから紙巻き煙草を取り出すとライターもなし火を灯した。


「思いの外よく逃げた。だがここで終わりだ。いい加減、死ね」


 殴られ吹き飛ばされて動けない俺と、戦ってはいけない星華の前で死刑宣告が下された。



ひんぬー、良いよね。きょぬーになっちゃう薄い本は個人的には邪道。

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