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出迎えは完全包囲

「目標、現出しました……魔素消失点収束。……消滅を確認。目標、健在です」


 出会い頭、光の門から出てきた俺を待ち構えていたのは、美少女でもスイーツ天国でもなく、思いっきり発砲寸前の状況の俺と軍人(?)さんたちだった。

 

「魔人……いや、人間?」「あれただの一般人なんじゃ?」


 漏れ聞こえてくる声は俺の正体についての相談のようだ。

 

 軍人さんぽい人たちが隣同士でひそひそと話し合う姿は正直どうなのと思わないでもない。


 俺もたいがいパニックになっているがあちらさんも同じらしい。


 

 とはいえ、迂闊に動くのは躊躇われる。

 


 きょろきょろと辺りを見渡すが見えるのは俺をぐるりと取り囲む軍人(?)さん達とその背後で煌々と光を放っている投光器。

 

 どこかの公園のような場所らしく等間隔に植えられた木々や花壇のようなものが確認できた。

 

 視線を動かす間に何人かと目が合うも、戸惑いの表情を浮かべて目を逸らされる。

 

 目を逸らすと言うか、彼等の背後に立つ上官らしき人物に指示を仰ごうと顔を向けているようだ。

 

 よし、だいぶ落ち着いてきた気がする。


 思うに俺が出てきた転移ゲート的な物から魔物とかそれに近い存在が出てくると予想して待ち構えてはいたものの、出てきたのが俺みたいなどう見ても一般人で困惑している、と言ったところだろう。


「えーと……こんばんは?」


 ダメもとで両手をあげて降参、と言うか敵意がないと言う意思表示をする。

 この時、無暗に動いたりしてはいけないらしい。

 何が原因で文字通りその引き金を引かれたものかわからないからだ。


「こっちに敵意はありません。銃をおさめてもらえますか?」


 その場から動かず相手の返答を待つ。

 奥の方でオペレーターっぽい女の子がトランシーバーのようなもので通信をしているのがかすかに聞こえてくる。

 ところどころ聞こえてくる単語が理解できる、というか日本語そのものに聞こえるのでこちらの言葉も通じていると思うのだが。


「……はい。え、しゃ、射殺ですか? ですが、≪3種協定≫に…っ! はい。 了解しました! 対象を射殺します!」


 待て待て待て待て! 聞き捨てならん単語が聞こえたよ?! いま! 射殺って言ったよね?!


「待て早まるな! まだ慌てる時間じゃない! 話し合おう!」


 これだけ無抵抗の意思を示していると言うのに射殺とか何考えてやがる。

 上にあげた両手を思わず前に突き出して考え直してくれるよう懇願した。


 その間にもオペレーター少女が指揮官ぽいおっさんのところへ行き何事かを報告。内容は、まぁ、俺の射殺命令が出されたことですよね。うん、聞いてた。

 報告を受けたおっさんは、ちらりと俺を横目で見ながら渋い顔をしている。

 このおっさん、いや、指揮官殿はもしかしたら俺を殺すことに否定的なのかもしれない。というかそうであって欲しい。

 

「抵抗しないって言ってるんだから確保とか連行とかするもんだろ? いきなり射殺とかありえないから!」


 射殺と言う単語が聞こえてから何人かが俺に向かって照準を合わせなおしているような気がする。


 だが、それはごく少数のようで多くの者は「え? 撃っちゃっていいの? まじで?」みたいな顔で俺かおっさ…指揮官殿の顔を伺っている。


 ただ、問題なのは最終決定権はあのトランシーバーの先にいる誰かであり、現場指揮官の意思よりも命令が優先されてしまいそうだということだ。


「事件は執務室じゃなく現場で起こってるんだって言うだろう? 現場の判断を優先したほうがいいことだってあるぞ? きっと!」


 俺は相手を指揮官一人に定め交渉を開始する。

 こうなったら土下座でも泣き落としでもしてやる!


 異世界に一歩足を踏み入れた途端完全包囲からの射殺とか死んでも死にきれん。

 まだエルフさんとかケモ耳少女とか、剣とか魔法とか何一つ見ていないというの…に?


 っていうか。


 まてよ。


 俺を取り囲むライフルや拳銃の群れ。

 それを扱う男たちが着ているのは灰色の迷彩服。たしか都市迷彩とかいうんだっけか。


 その背後には大型の軍用っぽい車両。そして先程から俺を眩しく照らす投光器。


 公園らしいこの広場もフェンスとか蛇口のついた水飲み場とか置いてある。

 

 つまり、だ。

 

「思いっきり現代じゃねーか、ここ!」


 あまりのショックについ叫び声をあげてしまう。


 あ。

 と思ったが時すでに遅し。

 

「か、確保ォォォォ!!」

 

 いきなり叫び声をあげた俺にパニックになった現場指揮官らしき男が叫んだ。

 撃てと言われなかっただけマシだが半分自棄みたいな表情で突進してくる男たちを前に大人しくしている度胸は俺にはない。


「確保だ! 捕まえろぉぉ!」

「銃は撃つな! 味方に当たる!」


「うおぉぉあぁぁぁぁぁ!」


 こっちもかなり自棄になっているけどとりあえず逃げるが勝ちだ!


 初動が遅れ立ち竦んだような状況になった俺を取り押さえるために先頭の3人ほどが飛び掛かってくる。

 それをギリギリのところで躱し180度反転。

 背後からも何人かが駆け出しているがその包囲は正面ほど厚くはない。


「うぉぉっ、ほっ! ひぇっ!」

 飛び掛かって押さえ付けようとする者、警棒のようなもので殴りかかって来る者、そして、魔法使いみたいな恰好の男が振りかざした杖から飛んでくるバレーボール大の炎の玉。

 すべてを紙一重で回避できたのは件の繁栄の因子とやらのおかげか? 少なくとも若返らせてもらったことによる運動能力の向上は間違いなく今役に立っている!


 ってか、今のは魔法か? 火炎放射器って感じじゃなかったよな?

 てことはやっぱりここは異世界で間違ってないんだよな?! 


 魔法にしか見えないものが幾つか飛び交う中を必死で避ける。銃器を構えていた割に銃声が聞こえないのは同士討ちを避けるためか。

 まあ何にしろ撃ってこないのは有り難い。


 何とか包囲を突破できないものかと辺りを見回すが流石に簡単には逃がしてくれそうにもない。

 何か……何かないか? そう思った時だった。

 

『目を閉じて! そのあと3つ数えたら全力で走り抜けてくださいっ!』  

 

 どこからともなく女の子の声が聞こえてきた。だいぶ若い、可愛らしい声だ。きっと美少女に違いない。

 しかもこれはまさしくーー

「(この声、直接脳内にーー!?)」

『いいから早く目を閉じてくださいーー!』


 ネタなんてやってる場合じゃなかった。

 頭上から光が降り注いでくると分かったのと目を閉じたのはほぼ同時だった。

 

「ぐぁぁっ! 目が、目が!」

「くっ! 敵襲! 敵襲!」

「各員全方位警戒!」


 目を閉じていても分かる程の光の爆発が起こった後恐る恐る目を開けると、少なくとも目の前を包囲していた部隊の半分ほどは目を抑え立ち竦んでいる。


『今です! ここから逃げてください! とりあえず公園を出たら右へ!』 


 もう一度、光の魔法的なものを放ってくれたと思しき声が聞こえてきた。


「(誰かはわからんけどありがとう! お礼に君を俺の嫁第一号に任命するっ!)」


 目を抑えている隊員さんを薙ぎ倒す勢いで駆け出しつつ、頭の中で聞こえてくる少女の声に礼をする。


『へ? えっ! お嫁さん?! あ、あの、そういうのはもっとお互いを知ってからで…じゃなくて!』


 いかん。余計なこと言って混乱させたようだ。


『いいから早く逃げてください! 退魔師同士での争いはご法度なんですから。さっきの閃光もギリギリなんですよ!』


「(すまん。真面目に逃げる。どっち行けばいい?)」


 公園を抜け、言われた通り右へと進路を取る。

 

 足元は予想していたようなアスファルトではなく、踏み固められてはいるものの剥き出しの地面だった。

 

 走り出して初めて思い出したが、部屋着のまんまで飛ばされたものだから思い切り裸足だ。


 石ころなんかが少ないのだけは有り難いが、結構走りにくい。


『右側の路地へ入ってください! 後ろから狙われています!』


 どうやら声の主はどこからか俺の事を見てくれているらしい。

 

 俺は目の前にある細い脇道へ飛び込むように突っ込んだ。


 地面に這いつくばるのとほぼ同時に響く銃声が数発。

 外した! とか、追え! とかと聞こえてくるのですぐさま起き上がって再び駆け出す。


『その先を左へ。もうすぐ大きな通りに出ますから、何とかそこまで耐えてください!』


「わかった。何とか逃げ切ってみる」


 姿の見えない美少女(推定)の声に従ってひたすら走り続ける。

 そういや、異世界行きが決まってからこっち姿を見せない相手とばかり話してる気がする。

 出てくるとき待ち構えてた軍人さんたちは俺からはコンタクトを取ったが会話が成立していないのでノーカウントだ。


 そんなことを考えながら走っていると目の前の通路の先が開けているのが見て取れた。

 あれが彼女の言っていた大通りか。

 大通りへ出たら車か何かに乗って移動とかなら楽になるんだが。


「すみません。本当ならこの道で車に回収してもらう手はずだったんですが」


 どうやらそう上手くは行ってくれないらしい。


「科特隊…あなたを追いかけている人達に主要な通りを封鎖されてしまっているみたいです。もうしばらく頑張ってください」


 科特隊、ねぇ。

 射殺とかなんとか物騒な感じの割には光の巨人とか所属してそうなチーム名だ。

 ギルドとかクランとか、そういう感じの集団だろうか。

    

「正直少しきつくなってきたけど仕方ないな。君もしんどいだろうけど落ち着くまでナビ頼んだ」


「なび? えぇと、言葉の意味がわかりませんが誘導とか案内とかと思っていいですか」


 おっと、カタカナ言葉、というか、外来語があまり通じないようだ。


「悪い、通じなかったか。うん、そのまま案内頼むよ」

「はい。私はまだ大丈夫ですから、お任せください!」


 さっきから駆け抜けている街並みを見渡して、何となくだが察した。

 

 どうも俺の居た時代からは何十年かくらい昔の世界らしい。


 木造と煉瓦造りと石造りの入り混じった街並み。細い路地は舗装もなく地面がむき出しになっている。

 大通りくらいはせめて石畳とかだと嬉しいんだが。文明レベル的に。

 明治後期か大正、あるいは昭和初期。

 どうやら大正浪漫的な時代に送られたようだ。

 カタカナ禁止縛りって、下手な異世界飛ばされるより難易度高くね?


「大通りに出ます。とりあえず右へ」

「りょ、了解!」


 早歩きより多少マシ、くらいまで走る速度は落ちていたけどなんとか大通りまでたどり着くことができた。

 大通りとは聞いていたものの道幅が驚くほど広い。

 現代に当てはめるなら両側3車線、車6台分プラス両端に歩道、といった具合だろうか。

 今いるこちら側も通りの向こう側も、色々なお店が並んでいるのが見て取れる。

 とは言え別にここがゴールというわけででもなく、何時辿り着くとも知れない目的地まで追手をやり過ごしつつ右往左往しながら走らなければならない。


「次の、ええと、文字は読めますか?」


 どうやら何かを指示したいらしい。とりあえず回りと見渡す。


「ああ、どうやら、読めるみたいだ。牛丼並盛550圓?」


 円の字が古いな。あと牛丼ちょい高くね? まあ、現代ほどの流通は望むべくもないだろうから、輸送費が高いとかだろうか。


「550圓も払ったら牛丼どころか焼肉屋さんで宴会出来ちゃいますよ。あれは5,50圓。5圓50銭ですね」

 

 星華がふふっ、と笑ったのが聞き取れた。

 そういえば明治大正の頃って一円の価値が今よりずいぶんと高かったって習った覚えがある。

 この世界もそんな感じなんだろう。


「すまんね。元居た所は通貨単位は円だけだったんだよ」


「いいえ、文字が読めるだけでも有り難いです。あ、そうでした。その先の和菓子屋さんを右へ。入ったらすぐ左へ曲がってください」


「了解!」


 まんじゅう、と書かれたのぼりが出しっぱなしの甘村屋とかいう和菓子屋を通り過ぎて再び小路に入る。


 気が付けば俺たちを追いかけてくる声が聞こえなくなってきていた。

 油断するつもりはないが走るペースを少し落として体力の回復を図る。

 この先いつどこで全力疾走させられるとも限らないしな。


「この先を抜けたらさっきのとは別の大通りに出ますが、通りに出る前に少し待っていてください。少し通りの向こうを確認してきます」 

 

「分かった。君も気を付けて」

「はい、ありがとうございます」


 大通りに出る少し手前。ごみ置き場のようなところにしゃがみ込んでしばし身を隠す。

 

 今は追いかけてくる相手の姿は見えず、一時的に撒いたといったところか。

 だが、さっき彼女も言っていたが大通りは封鎖されているらしい。

 夜のそこそこ遅い時間らしいというのもあるが、少し先に見える大通りには人影すら見当たらない。


 ……いや、いた。


 満月の明かりがやけに眩しいのに気付いて見上げた先にピンクと白を基調としたコスチュームを身に纏った中学生くらいの金髪美少女。

 思わず息を止めてしまう程に彼女に目を奪われた。


流れて埋もれるのすごく早い。

こまめに更新しないと不安になりますね。

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