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柔らかい布団

前回の投稿で5万字を超えましたがこれ、まだ序章とかそんな感じです。

展開が遅くて飽きられやしないかとびくびくしながら書き進めております。

いつの間にか着替えの中に紛れ込んでいたスマホを改めて眺めてみる。

 真っ黒な手帳型のスマホカバーの付いた、飾り気のないもの。

 背面の指紋認証に指を触れさせると見慣れた待ち受け画面が現れる。

 間違いなく俺のスマホだ。


『私からのお詫びの品は直接下界に送っておいたから、後で確認してくれたまえよ。すぐに解ると思うから』


 オオヒルメ様の所にいた時の『あいつ』の言葉を思い出す。

 要するにこれがお詫びの品、と言うことなのだろう。


「スマホ返してもらってもな……いや、待てよ?」


 何の役にも立たないものをお詫びと称して送り付けるほど酔狂な奴ではないはずだ。

 そう思い直して幾つかのアプリを起動させてみる。


 ブラウザ。繋がった。

 掲示板の専用ブラウザ。繋がるが書き込めないらしい。

 地図アプリ。流石に対応していなかった。

 ネットオークションアプリ。見れるが入札ができないようだ。

 電話。もちろん通じなかった。

 バッテリー。とりあえず100%だが、充電式なのかどうかすら不明。そもそも充電器ないし。

 

「使い道としては調べもの。あとはアニメや漫画が見れる、くらいかな」


 電子書籍のアプリを開いてみたら、出る度に買っていたコミックの新刊を見つけてつい購入してしまった。

 買った後になって契約どうなってんだと思ったが、料金はあいつ持ち、と思っておこう。

 多分、ソシャゲにじゃぶじゃぶ課金するとかでもしない限りはこのまま使ってて大丈夫のような気がする。

 

 とりあえず、差し迫って調べたいものとして褌の付け方を調べ、巻きなおしたあたりでマリアベルが上がってくる気配があったので脱衣所を後にした。


「さて、さっぱりしたところで、この後どうしたらいいのやら」


 美沙希さんからはゆっくり休むよう言われているから今日の所はもうやることはないと思うが、休もうにも部屋がどこか解らない。

 このままマリアベルが出てくるのを待って案内を頼むというのがベストだろうが、若干間抜けな気もする。


「優路さん。お風呂は如何でしたか?」


 美沙希さんにでも聞けばわかるかと思い、歩き出そうとしたところで階段から降りてきた星華が声をかけてきた。


「ああ、いい湯だったよ。久しぶりにさっぱりできた」


 ついうっかり眠ってしまったために天国へ連れていかれたことは流石に言わないでおく。

 美沙希さんに知られたらまたオオヒルメ様叱られそうだし。

 ああ、あとでマリアベルにも口止めはしておかないとな。


「それは良かったです。あと、その、浴衣もお似合いですよ」


 若干頬を染めて、俺の浴衣姿を褒めてくれる星華。

 食堂で美沙希さんにからかわれていた時の反応を思うとこの反応は予想外だった。


「お褒めに預かり光栄だよ。で、頼みがあるんだけど」


 良いところに来てくれたから案内を頼んでしまおう。

 マリアベルが案内をしてくれるつもりだったかもしれないが、ドア一枚隔てた向こうにいるから聞こえていることだろう。


「いいですよ。お部屋の案内、ですよね」


 こちらが申し出るまでもなく、頼みごとの内容を察してくれる星華。

 案外それが目的でここまで来てくれたのかもしれない。


「ああ、お願いするよ」

「はい。では付いて来てください」


 そう言って振り返ると先程降りてきた階段へ向かい上がり始める。

 どうやら二階が住居スペースと言うことらしい。


 踊り場を経て折れ曲がった階段を登り切った二階はやはりと言うか、木造校舎の雰囲気を多く残していた。

 というか、学校の教室棟そのまんまだ。

 中庭に面していて比較的安全だからだろうか、こちらから見る廊下には格子こそ取り付けられているもののずらりと窓ガラスが並び、向かいの棟や中庭が見下ろせるようになっている。

 また、階段を上がった正面には扉があり、向こうの棟に繋がる渡り廊下になっている。

 天井も壁も無く手摺りで囲まれた広めのスペースにはベンチと物干し竿が並んでいた。

 

「天気の良い日はそこに洗濯物を干したりお布団を干したりしますよ。洗濯は自分でしても良いですけどマリさんにお願いしたらやってもらえますから」


 星華が渡り廊下への扉を開けてくれたので寄り道して外に出てみた。

 若干風が涼しい気もするが気温はそう低くもない。日が照っているし、今日は洗濯物がよく乾きそうだ。


「今日はさないんだな。こんないい天気なのに」


 片手で日光を遮りながら晴天の空を仰ぐ。


「今日は優路さんが来る日でしたから。早めに乾して、今日はもう回収済みです」

 

 さすがはマリアベル。やはりできるメイドさんらしい。

 そんな気にするほどの事じゃないと思うんだけどな。

 それでも俺を迎えるにあたって色々気遣ってもらっているというのは嬉しいものだ。


 そんなことを考えながらあたりを見渡していたら向かいの棟の角部屋の障子の隙間から汚……もとい生活感あふれる私室が見えてしまった。

 なんか、下着っぽいものが部屋干しされているようにも見える。

 不自然に体を背ける俺と俺が見た物に気が付いた星華が疲れたような表情で俺を見る。


「あの部屋は?」


 予想だと本命・美沙希さん、対抗・菜摘さんあたりかな。

 あれ、私の部屋です、とか星華に言われたらイメージ崩れるので出来れば違っていてほしい。


「すみません、お見苦しいものを……。あそこは美沙希さんのお部屋です」


 予想通りの人の名前が上がり、ほっと息をつく。

 何となくだが美沙希さんみたいな人は私生活ダラダラ、グダグダな感じのキャラが多い気がするので納得できてしまう。


「ついでにお教えしておきますと、反対側の突き当りが私の部屋、菜摘先輩は廊下を挟んだ反対側になります」


 あっちは、確か入口の方か。

 玄関ホールが吹き抜けになって、階段もあった気がするから出入りが楽そうだな。


 思ったことをそのまま星華に伝えると、緊急時に大回りして手間取る訳にも行きませんから、との答えが返ってきた。

 成る程、必要に迫られての配置と言うことか。


 ちなみに、美沙希さんの部屋の真下は局長室になっていて、非常階段を使うことで行き来の時短が図られているらしい。

 

 それから星華は先程出てきた棟の方へ向き直ると、突き当りに見える部屋の辺りを指さした。


「優路さんのお部屋はあちらの棟の突き当り。私の部屋の向かいになりますね」


 空気の入れ替えのためか窓もカーテンも開け放たれているのが見えた。

 当たり前の話だが調度品も何も見えない。

 部屋に入れば布団くらいは用意してあるかもしれないが。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


 部屋の場所が解ればそれで十分だったが、星華は律義に部屋の前まで案内してくれた。

 元々教室だっただけあって横に引くスライドドアだ。ここの部屋は入口以外全部そうだけど。


「うん。何もないな」


 いや、あるにはある。


 入口の対角線上の隅に木製のベッド。

 その隣に『職員室に置いてあったのを再利用しました』みたいな木製の事務机。

 入口からまっすぐ進んだ突き当りに外へ続くと思われる扉がある。こちらはドアノブ式だった。多分非常階段に続いているのだろう。

 入ってすぐ横を見れば入口と並ぶ壁伝いに板を四角く組んだだけのロッカー。ランドセルとか教材とか入れてたようなアレだ。

 それから、星華の部屋がある方向とは反対側の窓際は窓台が広めになっていて下にずらりと収納が並んでいる。

 懐かしいな。俺が通っていた中学校もこんな感じの教室だった。流石に木造じゃなかったけど。


「この部屋は好きに使って良いそうですから、そのうち色々と置いていったらいいですよ」


 星華はそう言ってくれるが、正直いつまでここに居させてもらえるのか、と思っている。

 ここは言うなれば女子寮のようなものだろう。

 必要があって保護されている身とは言え男である以上、ほとぼりが冷めた頃合いでここを出ていくことになるんじゃないだろうか。


「そうだな。そうさせてもらおうか。買い物に行けたら星華に案内を頼もうかな」


 考えていたことは口に出さず、星華の言葉に同意する。


「いいですよ。街中の施設なんかも、一緒にご案内しますね」


 にっこりと微笑んで了承してくれる星華。

 やっぱりいい子だな、この娘は。


「流石は俺の嫁。可愛くて優しくて、言うことないな!」


 腕組みをして少し大げさにうんうんと頷いて、星華をからかってみる。


「あぁ、もぅ! またそういうこと言う! もう知りません! 今日はもうゆっくり寝ててください!」


 顔を真っ赤にしてふくれっ面を見せた後、踵を返して部屋から出ていく星華。

 言わない方が良い雰囲気になりそうなのは解っちゃいるが、何でかからかいたくなるんだよなぁ。


 身体と一緒に精神まで若返ってしまっただろうか。

 感覚が身体に引っ張られているかもしれない。

 自重する気は、あんまりないけど。



「優路さん。何かあれば私の部屋に来てください。お風呂の隣にマリさんの部屋もありますけど、仕事中でいないことが多いですから」


 去って行ったと思った星華が入口の向こうから声をかけてくれる。

 怒っていても気遣ってくれているのか、それとも怒ったように見えたのは只の照れ隠しか。

 今はまだ判断しづらいけれど、星華がいい女であることには変わりなさそうだ。


「ああ。頼りにさせてもらうよ。ありがとう、星華」


「はい。おやすみなさい、優路さん。ゆっくり休んで、疲れを癒してくださいね」


 その言葉を最後に足音が遠ざかっていく。今度こそ星華は自室に戻ったのだろう。


「さて、んじゃ、寝ますか」


 上着を机の上に置いて布団の中に潜り込む。


 久しぶりの飯と風呂。そして柔らかい布団。

 星華と話ができたのもいい気分転換になった。


 やはり思っていた以上に疲れがたまっていたのだろう。

 こんな明るい中で寝れるかな、なんて心配が杞憂だったと気づくのにそう長い時間はかからなかった。


星華さんは世〇樹の迷宮のおかっぱブシドーさんを想像してもらえれば大体あってる。

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