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監視と言う名の混浴

秋はイベントごとが多くて休みがつぶれるので困ります。

 目覚めると唇に柔らかい感触、そして目の前1センチくらいのところにどアップの美少女の顔があった。


「もごっ……っ、がはっ! ゴホッ……ゴホッ!」


 驚きも束の間、無理やり送り込まれてくる空気と息苦しさに咳込んでしまう。


 少女の顔が離れていくと同時に唇に触れる柔らかな感触も消えていく。


 これは、もしかしてキス……じゃないな。どう見ても人工呼吸です。

 いや、それでも美少女とキス(……のようなもの)をしたのは間違いないので役得と言えば役得だろうか。


「お気付きになられましたか、三雲様。ご無事で何よりです」


 床に肘を付きながら少しだけ上半身を起こす。

 隣に正座しているのは『あいつ』の言っていた通り、家令メイドのマリアベルだった。


「マリアベル、さん。助けてくれてありがとう」


 顔だけをマリアベルの方へ向けて一言感謝を伝えたところでまた咳込んでしまう。

 どうやら少なくない量の水、と言うかお湯を飲んでしまったらしい。


「もう少し、体を起こしていただけますか」


 言われるままに身体を起こす。膝を少し曲げて、所謂体育座りと言う姿勢に落ち着く。

 咳は少し落ち着いたが、肺の辺りがずきずきと痛む。あと腹の中がだいぶ気持ち悪い。

 折角の昼飯が逆流してしまいそうだ。

 

「お背中、失礼します」


 立ち上がって俺の背後に移動したマリアベルが優しく俺の背中を擦ってくれる。

 深呼吸を繰り返して呼吸を落ち着けていく。

 

「マリアベルさん、もうそろそろ大丈夫だか……「ックシュン!」……ら?」


 突然の可愛らしいくしゃみに振り返ると、先刻は気が付かなかったがマリアベルのメイド服はずぶ濡れだった。主に上半身が。

 湯船の中に沈んだ俺を一人で助け出したのだろうから、思えば解りきった結果だった。


「大丈夫ですか、マリアベルさん。俺はもう大丈夫ですから着替えてきた方が」


 俺も結構冷えてきたけれど、このまま風呂に入りなおせばそれで済む話だ。


「いえ、失礼しました。それには及びません」


 きっぱりと断ってくるマリアベル。


「いや、でも風邪ひくんじゃ?」


 流石に沈んでいた俺を助けるためにメイド服を濡らして、体調でも崩されては俺も寝覚めが悪い。


「俺、少し温まったら上がるんで、その後入ったら良いんじゃないかな」


 俺がこのまま上がる、と言うのはアリかもしれないがそれはそれでマリアベルが気を使ってしまうだろう。

 あと、何だかんだ俺も寒いからもう少しばかりは湯船につからせてもらいたいし。

 俺の後で少し温まってもらう、くらいが手の打ちどころだろうと思う。

 が。マリアベルは俺の予想を超えた提案を口にした。


「それでしたら三雲様さえ宜しければご一緒してもよろしいでしょうか」


「うぇっ?」


 いや、考えないことはなかったよ?

 二人とも温まるために混浴。良いと思います。

 ただ、流石に俺から提案するのは憚られたため俺は口にしなかったというだけだ。


「もう大丈夫かとは思いますが、また三雲様が眠ってしまわれてもすぐ起こしてさし上げられますので」


 あ、色っぽい話で無くて、監視と言うか介護と言うか、そんな感じなんですね。


「流石にもう寝ないと思うけど、そういうことなら、一緒に入りましょうか」


 タオル…はないけど何か巻いてくれれば俺も落ち着いて入れるだろう。

 多分ガン見、いやチラ見くらいはさせてもらうと思うけど。


 そんな風に思っていたら、マリアベルは俺のことなど気にも留めずその場でメイド服を脱ぎ始めた。


「ちょ、マリアベルさん見えてる、色々見えてるから!」


 思わず目を背けてしまったが、結構しっかり見えてしまった。

  

 耳と尻尾がある以外は人間と変わらない肢体。

 大きすぎず小さすぎずといった感じの柔らかそうな胸、きゅっと締まったウエスト。

 敢えてどことは言わないが、耳と尻尾以外はスベスベのツルツルだった。

 

 正直なところ、顔を背けてしまったことに悔いている自分がいる。

 目の前で堂々と脱ぎ始めたんだからそのまま眺めていても許されたんじゃなかろうか。

 突然のラッキースケベ状態に狼狽えてしまう自分が恨めしい。

 

 かと言って改めて振り返るというのも躊躇われるのでマリアベルに背を向けたまま湯船につかる。


「私の事はお気になさらず。御身体を温めることと疲れを癒すことをお考え下さい」


 言いながら俺の横に並ぶように湯船に入ってくるマリアベル。

 無理しなくとも4人くらいは入れそうな大きな湯船で助かったのか残念だったのか。


 狭い湯船で密着してもらったところで何が出来るとも思えないのでこれでよかったんだ、と思っておこう。


 しばらくの間、無言のまま二人で湯船につかり続ける。

 気を紛らわせるためにマリアベルが視界に入らない辺りを見渡していた。 

 

 湯船も広いが洗い場とでも言えばいいか、湯船以外の所も中々に広い。

 小さな旅館の大浴場とか、なんとかの家的な宿泊施設の浴場と言った雰囲気に近いだろうか。

 湯船もプラスチックとか陶器とかじゃなくて木で出来ている。多分だけど、檜風呂なんじゃなかろうか。

 手入れとか大変そうなんだが、マリアベルなら卒無くこなしてしまうんだろうな、とも思う。


 っと、マリアベルの事を思い浮かべたら連鎖的にさっきの裸体がフラッシュバックしてしまった。

 頭を振って煩悩を追い払おうとしてみるが、煩悩を生み出す元凶が隣にいるわけで。


「如何なさいましたか? お加減が優れないのでしたら寝室へお連れしますが」


 見ないように努力しているのを知ってか知らずか、わざわざ正面へ回り込んできて俺の額に手を当てるマリアベル。

 それ、やって解るのは熱があるかどうかくらいなんじゃないですかね。

 風呂の中でやってもあまり意味がないような気がするんですが。

 あと、全く隠す素振りがないので間近で見えまくってます。

 もうこれは見せているといっても過言ではないはず。

 思う存分見まくって、何なら少しくらい触らせてもらって……


 うん、無理。


 しばらくと言わずのぼせるまででも眺めていたいのは山々だが何て言うか色々限界だ。


 エロ漫画なんかでたまに見るシチュエーションの筈なのにそれを今この場で実行に移せる気がしない。

 だから童貞なんだよと言われそうなものだが、エロ漫画とかの主人公たちは良い度胸してたんだなと改めて思う。


「そうですね。のぼせるとまた迷惑掛けそうなんで先に上がらせてもらいます」


 半ば逃げるようにして風呂から上がり、脱衣所に入る。


「あー、緊張したぁ……」


 マリアベルが追いかけてこないのを確認して脱衣所の床にしゃがみ込んだ。

 夢にまで見たシチュエーションの一つだったはずなのに何もできないどころか逆に逃げ出してくるとか情けないにも程がある。


 とは言え、今日会ったばかりの……そう、初対面だ。

 初対面の女性と行き成り関係を持つとか、エロゲ―でもそうそうないよな。


「うん、そうだな。焦ることもない」


 そもそも星華とさえたいしたイベントが発生していないのに他の女の子との混浴イベントとか発生させてどうするんだ、俺は。


 これは事故。

 オオヒルメ様がやらかしたせいで死にかけた俺をたまたま様子を見に来たマリアベルに助けられた。

 ゲームだったらCG回収くらいは出来るだろうが、まだまだ共通ルートもいいところだ。

 何もせずに出てくるのが正解と言うことにしておこう、うん。


 気持ちを切り替えて身体を拭き、着替えを手に取る。


「……まさかの褌で来たか……」

 

 替えの下着にトランクスが用意されているとまでは思わなかったが着るものが浴衣の時点で予想しておくべきだったかもしれない。

 着け方がよく解らないのでとりあえず股間を隠すという目的が果たせる程度に適当に腰に巻く。


 浴衣は温泉旅館とかにあるようなものと大差はない。

 帯を締めて上着を羽織り、スマホを手に取った。


「お。上着にポケットがあるじゃないか」

 

 旅館とかで浴衣に着替えた時に面倒くさいことの一つが小物の持ち歩きだと思う。

 今羽織った上着のようにポケットが付いていればいいが、たまに何も付いていない時がある。

 大浴場とかに移動するときに鍵とかスマホとか、どうやって持ち歩くかいつも悩むんだよな、あれ。


「流石ケモ耳メイドさん。細かい気配りが素敵です」


 俺はスマホをポケットにしまって、手を離す間もなく取り出した。


「あれ? なんで俺のスマホがここにあるの?」

ご意見ご感想等、お待ちしています。

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