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制服少女とメイドさん

またもやお待たせいたしました。

毎日のように投稿できる先達を今さらながら尊敬しています。

食堂の扉を開けると、ちょうど美沙希さんが席に着いたところだった。


 学校の教室と呼ぶには少し広い横長の部屋の真ん中に室内の3割くらいを占める大きな長机が置かれている。

 局長と言う立場からだろうか、美沙希さんはいわゆるお誕生日席に座っていた。

 そこから両側に2席ずつ、5人分の食事の用意が始められているようだ。

 

「優路さんは私の隣へどうぞ」


 星華が先導して美沙希さんの横に座る。続いて、促されるままに星華の隣の席に腰を下ろした。


「あと一人もうすぐ帰ってくると思うのだけれど、お腹空いてるわよね。用意ができ次第、先に食べちゃいましょう」


 そう言いながら目の前にあった水差しを手に取りランチョンマットの上のグラスに注ぐと一気に飲み干した。


 思わず、ごくりと俺の喉が鳴る。

 ここに連れてこられてから色々あって忘れていられたけれど、この三日間飲まず食わずだった。

 それを慮ってくれての思いついたような食堂への連行なんだろうが、この血まみれ泥だらけの服もいい加減着替えたい。

 ああ、でも水飲みたい。


「私が入れますよ、優路さんはどうぞ座っていてください」


 自分では食事が始まるまではと自制していたつもりだったけれど、思わず手が伸びていた。

 ただ水差しが遠かったため、星華が気を聞かせてくれたようだ。

 美沙希さんが水を飲んだのも俺に気を使ってくれていたのかもしれない。


「んっ……はぁ……すまん、星華。もう一杯くれないか」


 氷こそ入っていないもののしっかりと冷やされた水を一気にあおる。

 空腹は最大の調味料とは言うが、ただの水がめちゃくちゃ美味い。

 喉から腹にかけてジワリと冷たさが広がっていくのを感じる。

 五臓六腑に染み渡るというやつか。


「……ああ、水が美味い……」


 結局3杯目を飲み干したところで、冷たい水を飲みすぎると体に障りますからと星華に止められた。


「まあまあ。甲斐甲斐しいわね、星華ちゃん」

「ち、違うます! 違いますからっ! もぅっ!」


 やっぱり旦那様が大事なのねー、などとのたまう美沙希さんの言葉を食い気味に否定する星華。

 否定されたことは残念だが実際世話を焼いてくれる辺り嫌われてはいないんだろう。


 むしろ玄関前でのことを考えれば、満更でもないまであるんじゃないかとも思う。

 これがオオヒルメ様御推薦の相性抜群効果だろうか。

 

「ただいま戻りましたー。いつになく賑やかだねぇ。おや?」


 どうあっても夫婦設定を続けさせたいらしい美沙希さんとそれを否定し続ける星華の言い争いを微笑ましく眺めていると背後で扉が開く気配がした。


 振り返ってみればいかにも元気系、と言った風貌の茶髪ポニーテールの美少女が入ってくるところだった。

 

 ポニーテールと言うよりはショートポニーと言った感じだろうか。

 纏められた毛先が襟元にギリギリかからない辺りで留まっている。

 服装は洋装、と言うかセーラー服だ。いや、セーラーカラーの部分が野暮ったいくらいに大きく取られていてどちらかと言うとセーラー服の元祖である水夫服セイラーと呼んだ方が正しい気がする。

 スカートは濃紺でしっかりとプリーツが入っている。

 膝上10センチと言ったところか。

 日焼けした小麦色の太腿が健康的ながらも中々にエロくて大変宜しい。

 年の頃は星華を14か15と仮定するならそれより少し上、15、6歳ぐらいに見える。


「お帰りなさい、菜摘なつみちゃん」

警邏けいら当番お疲れさまでした」


 美沙希さんたちから掛けられた声に軽く右手を上げて答えるも、視線が完全に俺の方へロックオンされている。

 

「あんたが噂の星華の旦那さんだね。中々に男前じゃないか」


 含み笑いと言うか、ニヤニヤを隠しきれない感じで話しかけてくる菜摘と呼ばれた美少女。

 それにしても中々嬉しい事を言ってくれる。

 55点くらいのフツメンと自己評価していた俺はそれが正しい評価だったと裏付けるように、別段好かれも嫌われもせず40年を過ごしてきた。

 俺の顔を見て男前、なんて評価をくれたのはこの娘が初めてだ。


「君みたいな美少女にそう言ってもらえるのは、お世辞でも光栄だよ」


 褒められたので褒め返してみた。


 我ながらこの世界に来てから言動が多少軽薄になっているのを感じている。

 向こうの世界で生きていた間に今のような台詞を一度でも口に出来ていたら何か変わっていただろうか。

 いや、その後悔をやり直すために今ここにいるんだったな。


「なっ……、あ……あぅ……」


 何言ってんだか、くらいの感じで一笑に伏されると思っていたが、菜摘の顔はちょっとつり気味の瞳を見開いて真っ赤に茹で上がってしまっている。

 思いの外耐性がないというか、初心な娘のようだ。


 人差し指を立てて俺を指さしたままの腕がふらふらと所在なく揺らいでいた。


「星華ちゃんに続いて菜摘ちゃんまでお嫁さんにしちゃうのかしら。やるわね、優路君」


 そして楽しそうに俺や知のやり取りを眺める美沙希さんの一言はどこかズレている。


「ですから! 私はまだお嫁さんになったわけじゃありませんから!」

「お嫁さん……星華と二人で? お嫁さん……」


 むきになって否定する星華と楽しそうに受け流す美沙希さん。

 そして、真っ赤な顔のままでお嫁さんお嫁さんと上の空で呟く菜摘。


 意外と満更でもなさそうなその表情は俺にとっては有り難い気もするがだいぶグダグダになってきたな……。


 どうしたものかと思い悩んでいると、俺たちや菜摘が入ってきたのとは別の扉が開いた。

 食堂の中にふわりと和風出汁の香りが広がる。

 空きっ腹を容赦なく刺激してくる香りに思わず振り向くと、開いた扉からケモ耳メイドさんがワゴンを押しながら出てくるところだった。


 飯! メイドさん! しかもケモ耳? 匂いは和風なのにメイド? 

 

 情報過多でどこに反応したらいいのやら。


 ケモ耳メイドさんはワゴンを押しながら俺たちの背後を通り過ぎ、美沙希さんの横で立ち止まると軽く一礼する。

 

「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。昼食のご用意が整いましたので、ご着席くださいませ」


 その一言でグダグダだった場の全てが落ち着いた。


 美沙希さんは星華をからかうのをやめ、菜摘も正気を取り戻した。

 星華はまだ納得いっていない様子だったが、目の前に食事を置かれたことで諦めたようだった。


「どうぞ。数日間何も口にしておられないとの事でしたので雑炊にしてみました。柔らかくは炊いていますが、ご無理はなさいませんよう」


 そう言って、メイドさんは俺の前にも器とレンゲを置いていく。


 和風出汁の香る湯気の立つ雑炊。

 見た感じ、お粥より少し固め、くらいに炊かれているようだ。

 具は卵と、鶏肉か? ミンチかと思うくらいに細かく刻まれているので白っぽい肉、と言うくらいしか解らない。

 魔物肉とか異世界特有のトンデモ生物の肉でないと祈りたい。

 あとは緑とオレンジの、ペーストかと思えるくらい小さく刻まれた何か。

 オレンジはニンジンをすり下ろしたものだろう。

 緑は多分青菜。野沢菜とか大根の葉っぱの可能性もあるか。


「それでは。今日のお昼ごはんも皆揃って頂けることを女神さまに感謝して――いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 美沙希さんの号令に合わせて俺も手を合わせる。


 メニューはシンプルに雑炊のみ。

 俺に気を使ってくれたのだろう。美沙希さんをはじめとする皆も同じものを食べている。

 

 レンゲを手に取り、まずは少量を口に運ぶ。


「美味い……!」


 俺の知る明治大正時代を背景とするならば主食の米は雑穀米であることも覚悟していたが少なくともこの雑炊に関していえば白米だけを使っているようだ。

 熱すぎず温すぎず、柔らかく炊かれた米。

 丁寧に小さく刻んだり摩り下ろしたりされた鶏肉と野菜。

 元気な時に食べれば絶対に物足りなく思いそうな薄味の中にしっかりとした野菜の甘みや肉の旨味を感じられる。

 

「お口に合いましたようで何よりです」


 俺の目の前に座って一緒に食事をとっているケモ耳メイドさんが俺のつぶやきに律義に反応してくれる。


「肉入ってるのに脂っぽさがなくて、これなら全部食べ切れそうだよ」


 脂っぽさを感じると今はちょっときついかなと思っていたのだが、それがまったくない。胸肉とか使っているからだろうか。


「脂分は極力避けた方がよいかと思いましたので、お肉を入れたスープを一度冷やして、固まった脂分を極力取り除いております」


 なんとまぁ。雑炊一つ作るのにそこまで手間を掛けているのか。

 ふと、メイドさんの隣に視線を向けると器の中から一口大の腿肉を掬い上げ美味しそうに頬張っていた。


「もしかして、みんな同じじゃなくて2種類作ってる?」


 行儀が悪いかなと思いつつ、隣の星華の器を覗き込んでみる。


 一口大、と言う程でもないが1cm角くらいの大根やニンジン、鶏肉が入っているのが確認できた。

 俺と星華と菜摘、それぞれに合わせて具材の大きさを変えてあるらしい。


「ベースになる雑炊を大きめのお鍋で作って、小鍋に取り分けたらあとは具材の切り方を変えるだけですから。大した手間ではありませんよ」


 メイドさんは何でもないように言うけれど、俺からしてみれば結構な手間だと思う。

 昼食を雑炊にしてくれたっていうだけでも俺に対して配慮してくれている筈なのに、そこからさらにひと手間も二手間もかけてくれている。

 有り難くて、涙が出てきそうだ。


 俺は残りの雑炊をメイドさんに感謝しつつ、可能な限りゆっくりと味わって完食した。


「少量でしたらおかわりもございますよ」


 お言葉に甘えて、もう半分だけお代わりさせてもらった。

 正直、腹八分にも満たない感じだったが、食べ過ぎて体調を崩すような真似はメイドさんに失礼だろうと思い自重した。

 そんな俺を後目に、美沙希さんと菜摘は大盛でお代わりを注文して平らげていた。



 この世界に来て三日目にして初めての食事。

 俺はこの日の事を絶対に忘れないだろう。



スープを凍らせて浮いた脂分を切り取る!

ミス〇ー味っ子を思い出したあなたは多分同年代。

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