ショートEP 1:仕事に必要な物
普段の日々の中で起きた小さな変化の話。
チェリーを桜荘に迎えてから数日。花澤美咲は、春乃櫻との約束通りに、放課後は桜荘でのお茶汲み等の雑務をこなしていた。
「はい、コーヒーをどうぞ。」
「やぁ、どうもありがとう。」
笑顔で差し出されるコーヒーを、杉山大樹が笑顔で返し受け取る。
特に粗相も無く何でもそつなくこなす様に事務所の一同が微笑ましく眺めている中、その様子を少々不満げに見つめる人物が一人。田口稲穂だ。
「よしっ…!」
何やら決心がついたように声を上げるとスタスタと事務所を出て行ってしまった。
「?」
ここ何日か真剣な顔で考え込んでいる事が多かったように見受けられた稲穂の行動に、美咲が首を傾げる。
それから更に数日。
稲穂は特に事務所としての仕事が無い時には自室に篭っていた。
「稲穂さん、何か悩み事でもあるんでしょうか?」
美咲が心配そうに大樹に声をかける。
「いやぁ、稲穂さんは一人で悩みを抱え込むような人では無いよ。あれは多分…。」
何かを言いかけた時、勢いよく事務所の裏口が開き
「やっと出来たー!」
嬉しそうな声で稲穂が駆け込んできた。
「お?今回は結構かかったな?」
櫻が訳知り顔で聞くと
「はい、見てください!快心の出来ですよ!」
そう言って手に持った紙袋から取り出したのは、白黒のシックなエプロンドレスだ。決して派手では無いもののフリルを多少多めに配し、可愛らしさを重視したデザインである。
「え?これってもしかして…。」
美咲が何かを察したように声を漏らすと
「そう、美咲ちゃんの仕事着よ!仕事としての意識を持つなら制服は重要だと思うのよ!」
力説する稲穂。
「美咲ちゃんて普段から殆どワンピースじゃない?だからこういうの絶対に似合うと思ってたのよね~。」
「この間から悩んでいたのはひょっとしてこのデザインについてですか?」
松木幹雄が呆れ気味に聞くと、
「そうなの、美咲ちゃんに似合って、尚且つ事務所として浮かないデザインを模索していたら考えがまとまらなくなっちゃって~…。」
そう言いながら美咲の背中を押して『稲穂ルーム』へ連れ込んだ。
『稲穂ルーム』。稲穂が管理する一室であり、主な用途としては稲穂が瞬間移動してくる際の安全を確保する為に、稲穂が事務所に居る時以外は何人も立ち入りを禁じている部屋である。その為ロックも三重になっている程だ。
だがその中はと言うと、瞬間移動用スペースは確保してあるものの、その他は稲穂の趣味の為の場所となっていて、櫻や美咲に着せる為の様々な衣装や鏡台等が置かれている。
「さぁさぁ、早速着てみましょ。」
楽しそうに美咲の服を脱がせる稲穂。美咲もまだ少々恥ずかしさはあるものの、桜荘に来てから何度も稲穂の着せ替えに付き合っているので慣れたものとなっていた。
着替えを終えて事務室へ戻ると
「さ、お披露目~。」
稲穂に催促されて美咲は少々照れながら控えめに身体を翻し、くるりと一回転して見せると、スカートがふわりと舞う。
長い黒髪を大きめのリボンでポニーテールにし、仕事の邪魔にならない容姿ながらも華のある可愛らしい姿に皆が『おぉ』と声を漏らす。
「うん、凄く可愛らしいね。」
大樹が拍手をしながら素直な感想を述べると
「そうですね。派手過ぎないのが素材の良さを引き出すという好例と言えます。」
幹雄もうんうんと頷きながら同意する。
「それで、美咲はこの衣装…というか制服?は、着てみてどうだい?無理強いはしないんだから、その服で仕事をするのに抵抗があるならハッキリ言いなよ?」
櫻が心配そうに聞くが、
「いえ、こんな可愛い服を着れるのは嬉しいですし、それにサイズが私に本当に丁度良くて凄く動きやすいんです。これならお仕事もやり易いと思いますから大丈夫です。」
嬉しそうにそう言われては、それ以上言う事は無いと
「そうか。」
と一言、微笑んだ。が、
「あ、櫻さんの分も作ってあるので後で着てみてくださいね。」
稲穂の一言に笑みが苦笑いに変わった。
こうして美咲は事務所での仕事(と言う名のお手伝い)の際には、この制服を着用するようになったのだった。
小説を読まない人間なので、基本的な文法技法等を知らないままに独自の書き方をしているのですが、どうにも台本のような文章になってしまっているのが悩み所です。




