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桜荘は暇で案外忙しい  作者: 寧(ネイ)
14/15

EP 6 後日

 肝試しから一夜明け、昨日と比べ少し曇り空の朝。

 強い日差しを抑えてくれる雲が夏にはありがたい。

 起床からの一連の流れは最早手馴れたものな美咲。

 それでも惰性で済ませずに確認作業はきっちりと済ませると、部屋を出て施錠を済ませ、事務所へ向かう。

「おはようございます。」

 元気に裏口を開けると、そこにはいつものメンバーが揃って挨拶を返した。

 その光景に美咲は自然と笑顔が(こぼ)れる。

「あら、美咲ちゃん。何だかご機嫌ね?」

 稲穂に指摘され、自分が微笑んでいる事に気付いた美咲は何となく照れくさく笑った。


 稲穂ルームで制服に着替えを済ませ事務所に出ると、

「あら、早速着てくれてるのね。うんうん、ぴったり似合ってるわぁ。」

 と稲穂が満面の笑みで頷く。

「はい、サイズもぴったりで涼しくて。ありがとうございます。」

 ハンディモップを手に持ちながら嬉しそうにくるりと一回転し、そのまま掃除に移った。

「それで、昨夜(ゆうべ)の肝試しはどうだったい?」

 櫻に問われると美咲の動きが止まる。

「えーっと…。」

 返答に困る美咲。

 だが櫻に対して嘘をつける訳もなく、唯一昨日の約束通りに小夜の事だけをボカして全てを話す事とした。

 当然櫻はその一部始終を見ていたのだが、それはあくまで客観視であり、それを美咲の口から言わせる事に意味がある。

 そうして美咲が昨夜の出来事を話していると、

「いや、お前さん。人の言葉で認識出来る程の読心術を…能力が成長したのか?」

 話を聞いて驚きを隠せない櫻。

「今も心を読めるかい?試しにあたしが今何を思っているか読んでみてくれ。」

 言われて美咲も櫻の前へ立つと、その目をじっと見つめる。

 しかし…。

「う~ん、解りません…ごめんなさい。」

 首を傾げ申し訳なく謝る。

「いや、謝る事じゃないがな。しかしそうか…何か条件があるのか、それともたまたま調子が良かったのか。まったく解らん事だらけだね。」

 顎に手を当て考え込む。

「そういえばあの功刀さんの超能力(ちから)って何なんですか?」

 不意に、そして今更に美咲に疑問が浮かんだ。

「海で百合香ちゃんが、功刀さんは余り能力(ちから)を使いたがらないって言ってたから、何なのか知らなかったんですけど。」

 韮山家に引き取られたという事で超能力者である事は解っていたものの、美咲は余り他人を詮索しない性格の為に無理に聞くような事は無かった。

 だが昨夜助けられたあの能力(ちから)は、いや、功刀の事は知っておくべきだという美咲の無意識から出た質問であった。

「あぁ、功刀の能力(ちから)は『発火能力』なんだ。」

「発火…?」

 美咲が首を傾げると

「発火とは、火を発生させるという意味です。」

 と大樹が口を挟み、そのまま言葉を続ける。

「発火能力…パイロキネシスとも呼ばれていて、功刀君の場合は自分の意識した所に火を発生させる事が出来るようだね。しかも話を聞くと複数個を、しかも場所問わずに操れるとは、才能を感じますねぇ。」

 大樹が嬉々として説明と分析を行うと

「だが功刀は余程の事が無ければ能力(ちから)は使わんよ。」

 と櫻が言葉を遮る。

「え?」

 美咲が思わず声を漏らすと、櫻は語り始めた。

「功刀はね、火事で家族を失ったんだ。真夜中で皆が寝静まっていた時間帯に、一気に燃え広まった炎に巻かれて両親と妹を亡くしたんだよ。功刀だけが助かったのが、本当に奇跡としか言えない火災だったらしい。」

「それはまさか…。」

 大樹が言葉に詰まる。

 しかしその言葉の先を察した櫻が話を続ける。

「いや、その火災自体は単なる火の不始末と現場検証で特定されている。」

 その言葉にホっと胸をなで下ろす一同。

「だが、その出来事を(さかい)に功刀に超能力が発現(はつげん)したようだ。火災の前か後かは判らない。そして功刀は、その発火能力(ちから)が火災を起こし、家族を奪ったのではないかと自分を責めた。」

「そんな…。」

 美咲は呟き、スカートを握り締めた。

「その後、功刀の身の回りで小火(ぼや)が多発するようになる。だがこれは幸か不幸か、はたまた天の采配とでも言うのか、どれも早期に発見され大事に至らずに済んだ。」

「何て事言うんです。不幸な訳ないじゃないですか。」

「あぁ、そうだね。すまんすまん。」

 稲穂に指摘され、迂闊な事を言ってしまったと反省する櫻。

 だがこの事の真相を、心を読める櫻は功刀と出会った時に知っていた。その当時の功刀は、家族を失ったのは自分のせいだと思い込み、自責の念から自らも焼け死に、家族の元へ行こうとしていたのだった。

 その痛々しい想いを読み取った時の事を思い出し、櫻の表情は悲しみを帯びた。

「それでね、小火(ぼや)多発の異常性からあたしの元に話が聞こえるようになって、あたしがちょっと出向いてカウンセリングのようなものをしながら話を着けて、韮山家に預ける事になった訳さ。」

 暗い気分を吹き飛ばすように話を締める。

「功刀君は櫻さんが連れて来て剛さんの所に引き取ってもらったという事しか知りませんでしたから、まさかそんな経緯(いきさつ)があったとは…。」

 興味本位で功刀の能力(ちから)の説明に浮かれていた大樹が肩を落とす。

「知らなかったんだから仕方無いだろう。それに功刀の過去に触れないように情報を出さなかったのはあたしだ、あんたらが気落ちする事じゃないさ。」

 腰に手を当て呆れ顔で皆を見回す。

「でも、そんな思い出したくない能力(ちから)を使ってまで昨日は助けてくれたんですね。」

 美咲が昨夜の功刀の姿を思い浮かべると

「あぁ。アイツは口の悪さや普段の態度から誤解されやすいが、ああ見えて百合香を大事にしているからね。大切な妹を護る為なら自分の心的外傷(トラウマ)なんていくらでも我慢出来る強さがあるさ。」

(まぁ昨夜の場合、美咲が居た事も原動力だろうけどねぇ。)

 美咲を見て思わず顔がニヤつく櫻。

 美咲は何かほんわかした感情が櫻から向けられているのは判ったものの、その意味する所は理解出来なかった。


「そうだねぇ。暗い話だけじゃ功刀のイメージが(しぶ)くなっちまう。ここはもう一つ、明るくなるエピソードも教えておこうかね。」

 人差し指を立てて櫻が提案すると、ぐるりと皆を見てから話し始めた。

「功刀の髪、一見すると黒髪だが太陽光に当たると薄らと赤みがあるのに気付いてたかい?」

 美咲に問い掛けるが、

「え?そうなんですか…?気付きませんでした。」

 少々驚いて答える。

「まぁそれくらい地味な赤みなんだがね。実はアイツ、髪を染めてるんだ。」

 そう言いながら櫻は自分の真っ白な髪に指を通して見せた。

「その染髪の切っ掛けになったのが、当時韮山家に引き取られて間も無く、塞ぎ込んでいた百合香なんだよ。」

「百合香ちゃんが…?」

「あぁ。その当時の百合香は、まだ家族を失ったショックから脱しきれていないうえに、その事に起因する自分の赤い髪にも物凄いコンプレックスを抱くようになっていてね。」

 美咲は以前櫻に聞いた、百合香の髪の色の話を思い出す。

「そんな百合香の心を開く為に功刀はね…何と髪を真っ赤に染めてしまったのさ。そして百合香に向かって『どうだ、俺の方が凄く赤いぞ。』と見せつけてやったらしい。」

 呆れ顔で『やれやれ』と首を振りながら

「その時には特に百合香に反応は無かったらしいがな。」

 と補足を入れた。

「だが次の日の朝、百合香が自分から功刀に近付いたらしい。きっと子供心に、自分の為に身を捧げた功刀に好感を抱いたのだろう。」

 今の百合香からは想像も出来ない話に美咲は聞き入るばかりだった。

「だがね、流石に真っ赤はやりすぎだった。そんな頭のまま学校に行ったもんだから生徒からは奇異の目で見られるわ教師からは怒られるわ、学校から家にお叱りの電話を受けては流石に剛達にも迷惑がかかった。それで仕方なく髪の色を戻す事になったんだが、最後の抵抗と百合香への想いで未だに校則違反にならない程度に染め続けているんだよ。」

 美咲から感心の溜息が漏れる。

「そんな馬鹿げた事を本気でやるヤツが(そば)に居て引っ張るもんだから、百合香も次第に自分の事だけで塞ぎ込むような事も無くなって性格も明るくなった。まぁ、ちょっと強引で雑な性格も影響されたようだがね。」

 普段美咲を引っ張りまわしている百合香の姿を思い浮かべ、感慨深げに語る。

 そんな話を聞くと、美咲は百合香が語っていた『功刀像』に合点(がてん)が行く。

(そっか、功刀さんが百合香ちゃんを大事に思うように、百合香ちゃんも功刀さんが好きなんだ。)

 血の繋がりが無いとはいえ、兄妹が互いに想い合う。普段は口喧嘩も良くするが、それはきっと気を許した仲だからなのだと、今まで功刀に抱いていた粗暴なイメージは、力強く頼もしい存在へと姿を変えたのだった。

「あれ?でもそんなに使いたくない能力(ちから)なのに、海で私の能力コピーに協力しようとしてくれましたよ?」

 美咲が唇に指を添えて首を傾げる。

「ほう?それじゃ功刀の能力は知ってたんじゃないのかい?」

 少々驚き気味に櫻が問うと

「いいえ。百合香ちゃんが手を繋ごうとしたら海に入って行っちゃったので、その時は結局判らなかったんです。」

 美咲がその時の事を説明すると周囲の一同は

「あぁ、それは多分…ねぇ?」

「何と言うか、猪突猛進の功刀君らしいですね。」

「若さ故の、ですね。」

 と思い思いに言葉を濁した。

 その意味を汲み取る事が出来ない美咲が再び首を傾げると、

「ま、その意味はいずれお前さんが成長する中で理解出来るかもしれんさ。」

 と言う櫻の一言で皆が頷いた。


 いつの間にか日差しを遮っていた雲は晴れ、夏の日差しが燦々(さんさん)と降り注ぐ。

「さ、それじゃ今日からまた仕事の始まりだ。(みんな)、しっかり頼むよ!」

 櫻が発破をかけると、皆の表情が明るくなる。

「「はい!」」

 一週間の休暇を経て、再びいつもの『桜荘』が戻って来た。

 暇を持て余しながらも忙しい日々がまた始まるのであった。

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