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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第一章 日本奪還作戦
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抗い得ぬ戦い

 

 アヴァロニア軍の行動は速かった。地の利に勝る日本軍を相手にここまで追い詰めただけの事はある。

 彼らはパットンの宣言通り3時間で準備を整え出発し、夜明け前には福島基地に到着した。連絡が不可能だったため基地側で多少のごたつきはあったが無事移動は完了。


「司令、一つ気になることが」

 ある士官が廊下を歩くパットンに話しかけてきた。

「どうした」

「宇都宮の部隊からの通信の内容なんですが、以前軍学校を襲撃した際に我が軍の新型機を葬った機体に酷似したものが襲撃してきた、という情報がありました。念の為報告しておこうかと」

「わかった。よく伝えてくれた」

 パットンは模範的な敬礼を以ってそれに感謝した。士官も敬礼した後、どこかへ去っていく。

 宇都宮が(おと)された今、敵本隊がそこにいるのは確実と言える。さらに我が軍主力も福島まで南下している。大規模な戦闘になることが予想されていた。

「決戦か。また人命が失われるな……」

 憂鬱そうにパットンは呟いた。



  * * *



 日付が変わった段階で、ジャミングを一定間隔で切るようにした。これはレーダーによる索敵と部隊間の通信をするためである。特に重点を置くのが索敵だ。

 初期段階で前線を押し上げた今、予想されるのは敵主力部隊との相対。電撃的に占領したことで、敵将は幾らか焦りが出るだろう。そうでなくても日本に駐屯する主力部隊を前線へ導入するのは必然と言える。

 そう言った推測から、定期的に敵部隊の観測をしているのだ。

 ――夜明け前、それが見事に当たった。山脈に沿って南下し、福島へ向かう大部隊を補足したのだ。日本軍も宇都宮を占領したことで位置が敵方に知られているため、状況としてはこれで五分五分である。

 軍の面子としてシュトラーフェの圧倒的な戦力に頼りきりになるのは避けたい、という思惑もあった。彼らの中では、日本を解放するのはあくまでもシュトラーフェではなく日本軍なのだ。

 少なくともそれが軍首脳の考え方であった。

 だが西馬はそれを理解した上で、自分達の力を弁えていた。

「主力同士の決戦……聞こえは良いな」

 西馬は呟いた。参謀達の間はこれを決戦とする意見で占められていた。慢心が広がっているだろうか。つい最近まで追い詰められていたのに安易が過ぎる。

 無論、参謀の中にも決戦は避けるべきだという者もいた。失われる人命、資源は馬鹿にならない。それが見通せているものならそう考えるはずである。

「それで得をするのは軍需企業……かね……?」

 誰にも聞こえないほど小さな声でひとりごちた。



  * * *



 シュトラーフェと蓮二は相変わらず滞空している。定期的に降りて休んではいるが、それでも疲労は蓄積されていく。寝不足も相まって疲労の色が濃い。精神力でなんとか支えていた。

 コックピット内でだらりとしていると不意にシュトラーフェが話題をふってきた。

「日本軍は福島に陣取る敵主力と正面衝突する気らしい」

「馬鹿なことを考えるもんだ。それで被害を受けるのは兵とその家族だっていうのに」

 蓮二は目を閉じたままそう返した。疲労のせいで思考の体力も足りない。故に本心が出る。

「どうせその戦闘も俺達を前面に出して戦わせるんだろう。俺が何のために戦ってるのか知ってるのか」

「過去にその思想に沿った活動もしていないし、今日本軍に協力しているんだからしょうがない」

「確かにそうなんだけど……。そんな戦いになるなら参加したくない」

 蓮二のその様子にシュトラーフェはため息をつく。

「そんな事言ってられないと思うが……。甘いんじゃないかな」

 そう言って蓮二を見据える。よく見ると寝息を立てていた。それを見て、シュトラーフェは少しだけ微笑む。

「仕方ない。通信以外は私がやっておく」

 黙々と、蓮二を起こさないように作業を引き継いだ。



  * * *



 日が昇った。光は上空のシュトラーフェや外に駐機してある月光を強く輝かせる。

 両司令官の望まない形で日本史上稀に見る大規模な戦いへと時は流れていく。誰も止めることはできないだろう。

「守、私達勝てるのかな」

 結は自分の愛機の点検をしながら心細そうに呟く。

「さあ、わからない。でも負けそうだからって逃げるわけにもいかないよ」

 守も自機の調子を確かめながら答える。

 守は着々と戦果を上げていっているが、結は鳴かず飛ばずであった。それが彼女の心境に作用しているのかもしれない。


「そんなんでいいのか、お前ら」


 ――突然、格納庫内に声が響き渡った。聞き慣れた親しげな声。ここ最近聞いていなかった声。その主は、あの時突然姿を消した播磨蓮二だ。

 二人はしばらく何も言えなかった。ただひたすらに、また会えた喜びをかみしめていた。

「なかなか会いに来られなくて悪かったな」

「……ばか」

 結は頰を濡らしながら蓮二に飛びついた。

「また会えてよかった、蓮二」

 守も目を潤ませながらゆっくりと歩いてくる。がっちりと握手を交わした。

いよいよ大規模な戦いが始まりそうです。そしてようやく3人は再開するわけですが、何のために蓮二は会いに来たんでしょうね。

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