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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第一章 日本奪還作戦
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誇示

 

 シュトラーフェはジャミングを続けていた。

「さて、そろそろ定刻だ。大出力ジャミングを終了する」

「わかった。……電波妨害装置停止、しばらくは使用不能だ」

「わかってる。そろそろ日本軍司令部から通信が入るはずだけど、どうかな」



  * * *



 統合作戦室、西馬である。

 無線封止が解除された結果一度に通信が集まり、情報過多となっていた。それらを集積、分類していく彼ら情報員を気の毒に思う。

「現状作戦は予定通り!変更点なし!損害も軽微!」

 しばらくしてまとめ終わったのか、傍で机を囲んでいたうちの一人から声が上がる。

「よし、このまま進めるぞ。シュトラーフェに通信を入れろ。第二師団はシュトラーフェを前面に押したてて敵主要拠点を攻撃、制圧する!」

 西馬は上がる調子に体を任せ、声を張り上げる。興奮するのも当然だろう。史上初めてアヴァロニア軍を押し返したのだ。それも圧倒的に、である。

 作戦は次段階。全ての敵の前線基地を制圧した今、敵の体勢は大きく崩れている。これを逃さない手はない。

 シュトラーフェの圧倒的な力を以って中央突破をかける。そして再びジャミングをかける。その範囲はどうしても円になるため、突出した場所で行えば効果的に使えるのだ。


 シュトラーフェが高空からゆっくりと舞い降りてくる。

 ――夕焼けに染まるその姿は神の遣いの如し。



  * * *



「出撃準備完了しました」

「こちらシュトラーフェ、同じくいつでもいけます」

 統合作戦室に二つの声が響く。それを瞑目して聞き、ゆっくりと口を開く西馬。

「第17任務部隊、出撃!」

 基地のハッチが開かれ、中から月光が飛び出していく。

 今は夜。そこに浮かんでいるであろう月は霞に包まれ、ここからは見えない。だが、基地の小さな明かりに照らされた月光の背中に浮かび上がる弦月。

 それらを上空から見下ろすは、白銀のシュトラーフェ。一瞬身を沈ませたかと思うと、目にも留まらぬ速さで敵地の方向へ疾駆した。後に残るのは音の壁を破壊した時に起こる衝撃波。

 西馬は半ば呆れ顔だ。

「さっさと終わらせよう。先に行って全部片付ける」

「強気なんだな。負ける道理はないが」

 シュトラーフェはどこか誇らしげであった。



  * * *



 音を後方へ置いていきながらシュトラーフェは敵基地へと驀進(ばくしん)する。高度をある程度保ってはいるのだが、それでも地面では砂煙が上がるほどだ。

「見えた」

 突如、廃墟のビル群を縦に穿つように造られた構造物が見えてくる。それが何なのかは、壁に描かれた旗を見れば一目瞭然。

 アヴァロニアの主要拠点だ。




「ミサイルが飛来しています!速度1000ノット以上!……いや、これは、MFS!?」

「そんな速度で飛ぶMFSがあってたまるか!」

 アヴァロニア軍基地内は慌ただしかった。それもそのはずである。考えられない速度でMFSが飛んできているのだ。彼らの理解の範疇を超えていた。

 だがレーダーはそれが嘘ではないことを雄弁に語っている。

「クソッ、突っ込んで来る気か!残存機体を全て出せ!」

 基地司令の下した命が意味をなさない事は自明である。




 一層速度を増すシュトラーフェ。それを囲うように、青い半透明の幕が現れた。頭から突っ込むシュトラーフェに合わせ、先端を尖らせている。

 ――そして、衝突。

 凄まじい轟音を響かせ、建物に風穴を開けた。

 巣を壊された蟻のようにMFSがわらわらと出てくる。蓮二はそれを意に介さない。一瞬でそれらに距離を詰めると、切り捨て、弾き飛ばし、突き伏せる。その白銀のボディが(すす)でだんだんと黒ずむ。

 そのままの勢いで周囲を無力化していった。



  * * *



 燃え盛る火。

 立ち込める硝煙の香。

 散乱する瓦礫。

 生き物が焼け焦げる臭い。

 ――その中で何事もなかったかのように立つシュトラーフェ。

 蓮二はひとつ疑問を抱いていた。

 戦争を無くすことを願う自分がなぜこんなことをしているのか。

 日本を取り戻すまで協力する、と約束したことを後悔した。過去の事はどうしようもない、と割り切る蓮二。

 その程度で自分の中の葛藤を止めることが出来るだろうか。出来るはずはないのだ。

 蓮二はシュトラーフェとともにしばらくそこに立ち尽くしていた。

 完全に戦闘が収束してから到着した第17任務部隊の部隊長は、その光景を目にした。帰投したのちにこう語っている。

「敵基地が壊滅している中で無傷で立っているそれは異様だった。恐怖すら感じたさ。……死神……。そうだな、安い言葉だがそんなところだ」



  * * *



 日本方面軍総司令であるダグラス・パットンは、ジャミングが消えた途端次々と入ってくる情報に戦慄していた。

 千葉基地が陥落、埼玉基地も制圧され、長野基地は破壊されていた。前線と通信ができなくなっている間に何があったというのか。

「なんだ、何が起こっている。いったいどうしたというんだ!」

 パットンは喚く。嘆く。だが、誰も答えない。いや、答えられないのだ。

 司令部を置く青森基地は前線から遥か後方である。ひとまずここは安全ではあった。

「Shit!南に展開している部隊を全て福島基地に集めさせろ!以南は切り捨てる!」

「了解!」

 一斉にモニターへ向き直り各地へ連絡を急ぐ兵達。その背中を見つつ、パットンは思索を巡らせていた。

 今更起きてしまったことについてとやかく言っている余裕はない。これからのことを考えねばならないのだ。


 まずは今になってジャミングが止まった理由はなんなのか。作戦終了、作戦の転換、電波妨害装置の異常、あえて我々に通信させるため。この中のいずれかだろう。まず今後の対処において楽観的な推測は消す。そうすると残るのは作戦転換、もしくは我々に通信をさせるためである。

 後者の場合、日本軍のメリットはほぼ無いと考えていいだろう。威圧なのかどうかわからないが被害状況を確認させるなんて考えであったら愚かにも程がある。となると、作戦転換の筋が濃厚だろう。なんにせよ部隊を一度集めるのが得策であるとパットンは考えた。


 だが、現実はこれ以上の思考の猶予を与えなかった。

「また通信が途絶しました!ジャミングかと思われます!」

 何も返さなかったが、パットンは内心で毒づいた。それもそのはずだ。現在何もできていないのだから。

 そもそも飛行可能なMFSが出てきた時点で前進基地というものは無くすべきだったのだ。進軍速度が上がると、前線に近い基地ほど攻撃を受けやすくなる。

 前進基地の存続を決めたのはパットンではなく本国の金食い虫共である。生粋の軍人である彼はそう言った貴族や皇族の社会を嫌っていた。

 今となってはどうしようもない。

「遮断前の緊急要請を受理しました。宇都宮基地が襲撃されたようです」

 状況はとても悪かった。パットンは重々しく次の指示を出す。

「……主力を出す。福島基地を他部隊との会合点とする。出撃は3時間後。準備を始めろ」

 先程までモニターに向かっていた兵達が立ち上がり動き出した。

シュトラーフェの大暴れ。こういうところは書いててとても楽しいです。

ようやく主力を投入するアヴァロニア。彼らはどう戦うのか。

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