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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第一章 日本奪還作戦
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反撃の狼煙

 

 無論補給路を断っただけでは、日本奪還作戦は終わらない。補給を止めても、アヴァロニア側には備蓄弾薬が山ほどあるはずである。量の問題ではなく、有限だと思わせることが重要なのだ。

 洋上には拡張戦術機を搭載できる、日本唯一の潜水空母が展開し、抑えた補給路のみならず日本近海の監視にあたっている。あとはじわじわと前線を上げていくのだ。

 ――だが、言うは易し行うは(かた)しである。

 初戦こそ第四師団とシュトラーフェの活躍で圧倒できた。だが、それには奇襲という要素も加わってくる。二度目はない。

 さらに言えば侵攻の要となるのは第一、第二、第三師団であり、どうしても能力面は第四師団に劣る。その上シュトラーフェは一方面しか支援出来ない、となると状況は思わしくない。


 そこへ一石を投じるシュトラーフェの武装。

 大出力のエリアジャミングだ。

 これで敵方は通信とレーダーの使用が不可能となる。無論味方もそうなるが、あらかじめ作戦の詳細を詰めておけばそれに則って行動するだけだ。


 まず、ジャミングの効果中に前線付近の監視網の要点及び通信拠点を急襲し、破壊する。なおこの任務には拡張戦術機よりも戦闘爆撃機が適任である。速度が重要なのだ。


 5機を一編隊とした99式戦闘攻撃機 屠龍(とりゅう)が多方面に展開。高速を生かし、敵施設を奇襲。

 多少の被害が出るが、それに勝る戦果が得られる。ただ、無線封止状態のため帰投するまでその成否が知られることはない。そしてこの作戦においては、吉報をただ待っているわけにはいかなかった。

 作戦成功を前提とし、拡張戦術機を進軍させる。目標は敵拠点の制圧。レーダー監視網が破壊された上、通信機器も使い物にならなくなり狼狽するアヴァロニア軍拠点へ波状攻撃がなされる。



  * * *



 シュトラーフェは日本上空で滞空していた。エリアジャミングを持続するためだ。コックピット内では相変わらず小さな立体像のシュトラーフェがいる。どことなく退屈そうに、やるせなそうにしていた。

「なあ、シュトラーフェは疲れないのか?」

「特にそう言ったものはないな。強いて言えばお腹が空くような感覚だ」

 なるほど、と蓮二は変に納得した気分になった。

「それより、ずっとこんなことをしていて良いのだろうか。他にやる事はないのか」

「有効な使われ方だと思うけどなあ。今のところここまで大規模なのはシュトラーフェしかできないわけだし」

 現在彼女は日本における戦線一帯がすっぽり入るほどの円の範囲でジャミングを行なっている。尋常な出力ではない。

 一方彼女の像は不満そうに体をゆらゆらとさせている。

「まあ蓮二がそう言うなら……」

 渋々ながらも納得してくれたようだ。

「ところで、アヴァロニア側に対シュトラーフェ用の兵器も戦術もない感じだな。あの時わざわざ一機墜としたから情報はそこそこあるはずなのに」

 蓮二はそう呟いた。シュトラーフェに出会った時、軍学校を襲ったアヴァロニア機を一機墜としている。

 これまで何の妨害も受けていない。流石に甘いのではないだろうか。

「墜としたって言っても限界の5割くらいしか出していなかったから。あの時の見積もりで私のスペックを予測しているなら戦わなくて正解だと思うな」

「確かにその通りかもしれないな」

 ――結局これ以降もジャミング中のシュトラーフェが敵と接触する事はない。



  * * *



 結と守の二人の初陣は日本奪還作戦となった。第三戦術機師団は今まで通り南側を任されている。

 二人は、西馬の計らいで同じ小隊となっていた。戦術機師団では、三機を一小隊としている。二人を率いる小隊長は、経験豊富な先任士官だった。

「今頃、蓮二はあっちの方にいるんだよね」

 結はその紅い瞳を湛えた目を伏せてそう言う。彼女の機体が向くのは北、シュトラーフェが滞空しているであろう空域だ。だが、地下のここから空は見えない。

「そうだな。俺たちを置いてジャミング中だな」

 守は呆れたような、拗ねたような。そんな心持ちだった。

 ――小隊チャンネルで二人は会話をしている。広域ジャミング中でも至近距離ならば通信は可能であった。

「一気に遠い人になっちゃった感じがする」

 結は寂しかった。最近まで苦楽を共にしてきた仲間が、突然自分の手の届かないところへ行ってしまったのだから。

「お前らそれくらいにしておけ。もう直ぐ秒読みだ。時刻合わせはしてあるな?」

 小隊長が二人を引き締めるように声をかける。

「してあります!」

「大丈夫です!」

 二人とも元気な返事をする。

「よろしい。では通信を切るぞ」

 ここからは完全に個の戦いとなる。失敗は許されない。


 秒読み開始。

 ――5

 ――4

 ――3

 ――2

 ――1


 0。

 数えると同時に先頭にいた機体が人で言う足裏に付けられたホイールを鳴らし、地上へと駆け上がる。隊列を維持しつつ、それに追従する第12任務部隊。彼らの目標は敵拠点の制圧だ。

 銃弾が飛び交い、爆炎と煙が辺りを覆い、轟音が跋扈(ばっこ)する戦場が彼らを待っている。

遂にアヴァロニアと日本の正面衝突です。血湧き肉躍る、と言うやつですね。

今の所出番がないシュトラーフェですが、後々ちゃんとその性能を遺憾なく発揮しますのでしばしお待ちを。

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