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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第一章 日本奪還作戦
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月の出

 

「これより日本奪還作戦第1段階、"根断ち"を決行する。各員、奮励努力せよ」

 ここに、日本の反抗が始まる。先頭に立つは白銀の機体、シュトラーフェ。後ろに控えるのは日本軍新型主力機"一式拡張戦術機 月光"である。その数200。シュトラーフェとは対照的に黒く染められたその機は、光を飲み込まんとするかのよう。

 背中に刻まれた弦月の紋が鈍く輝く。握られた三日月の様な高出力振動刃が強く光る。

 それらを操るは日本軍の精鋭遊撃部隊である第四戦術機師団。高速と個人の練度を以って戦場を駆け回る獅子となるこの部隊は、防衛には向かない。ここに、その真価がようやく発揮されるのである。


「作戦概要を再度説明する。この作戦の趣旨は敵軍の伸びきった補給線を叩くことにある。線上の制空権及び制海権を確保し、補給部隊は発見し次第撃滅せよ。以上」


 ――アヴァロニアは日本の北東半分を占領している。資源はあるものの、加工する技術を持ってきていなかった彼らは、どうしても補給に頼るしかなかった。

 太平洋の島嶼(とうしょ)、もしくは本土から物資を運ぶ事になる。海路であろうが空路であろうが、その距離は長く、時間もかかる。そこを襲い、輸送路を断つのだ。


「全機、発進」

 その通信と同時に、黒い機体の背に赤褐色の磁気揚力翼機構が展開され、一斉に浮かび上がり、空に黒を挿す。まだその機構が取る容積は大きく、地に大きな影を作る。そして、シュトラーフェはその様相を一つたりとも変える事なく飛び上がる。

 ――ゆっくりと高高度まで上がった彼らは、作戦空域へ向かう。



  * * *



 舳先(へさき)が波を砕き、ゆっくりと水を掻いて進む。今日の海は穏やかだった。

 だが、その甲板上は慌ただしい。つい先程、レーダーに反応があったのだ。反応地点へ護衛のMFSと戦闘機が向かっているが、どうなるかわからない。戦闘待機をしておくのは良い判断と言えるだろう。各員が配置についている。


 突如、白銀の機体が船団の目の前に現れた。全員が全員自らの目を疑う。

 それに続いて衝撃波が彼らを襲った。苦悶の声を上げる船員達。その衝撃波は、音の壁を超えた時に発生するものだ。

「投降せよ。私達は人殺しを望まない」

 透き通った女声が辺り一帯に響く。有無を言わさぬような強い口調。よく響く声。スピーカーから出ているとは思えなかった。

 だが、降伏を勧告するそれはむしろ彼らを逆撫でしてしまった。

「ふざけるな!猿に投降なんてするものか!」

 蓮二にはその声がはっきりと聞こえた。猿というのは、日本人の蔑称だった。

 悲しい。そう感じた。

 その内に、船団の各機関砲座から砲撃がシュトラーフェを襲い始める。即座に反応し、一発の被弾もなくそれらを回避した。

「残念です」

 蓮二はそう言い放ち、砲撃を避けるマニューバから一転。何かの構えを見せた。


 突貫。

 船団の間を縫うように通り抜けるシュトラーフェ。

 刹那、その左右にあった艦は縦に横に切断された。ゆっくりと沈んでいく。爆発するものもあれば、吹き飛ぶものも。響く悲鳴。迸る轟音。船団が全滅するまで、数分とかからなかった。




 一方それより幾らか西へ進んだ海上。至る所で起こる爆発の光が網膜を焼く。その光は漏れなくアヴァロニアの機体から発せられたものであった。MFSであろうが戦闘機であろうが、互いに拮抗した性能の中、その圧倒的技量で敵を墜としていく黒い影。遊特戦の猛者達だ。彼らは常軌を逸するマニューバと精密に練られた戦術で敵を翻弄していた。


「月光ならやれる。敵を倒せる」

 第四師団の中でも指折りの、エースと呼ばれる地位に大地は居た。他を圧倒する練習時間。それだけが大地をそこへ至らしめる理由だった。


 追いすがる敵機。

 空を蹴るように機を滑らせ、敵の追撃を逃れる。そして、同時にひねり込みと呼ばれるマニューバを使い敵MFSの裏を取る。

 素晴らしい運動性能だ。その分打たれ弱さは否めないが、当たらなければどうという事はないのだ。

 追い越しざまの一閃。敵は切断面に静電気を走らせながら爆炎に包まれる。

 次だ。

 敵はMFSと戦闘機の混成部隊だった。様々な速度で敵味方が戦場を駆け抜ける。




 いまだに戦闘機が使われるのにはもちろん理由がある。一つは、その生産・維持コストである。ある程度安くはなったが、拡張戦術機・MFSはその性能故に生産コストは高額になる。そう何機もぽんぽんと作れるわけではない。その点、戦闘機は比較的安価である。あくまで比較的ではあるが。

 また燃費効率や弾薬費も桁違いだ。さらに言えば最高速も戦闘機の方が優れているといえよう。いや、シュトラーフェが存在する今その理念は崩れているかもしれない。


 それでも戦場において拡張戦術機及びMFSが多用される理由。それはその名前の通り、適応力、拡張性、多岐に渡る使途である。

 全方位への攻撃、移動、防御ができ、陸上、空でも運用が可能。扱う武装、後付けパーツのバリエーション。人型であるが故の、人には出来ない規模の精密な作業など。数えればきりがない。

 シュトラーフェにおいてはその戦力故に戦術の域を超えているとも言える。単機で戦略的価値を持つのだ。




 月光は敵戦闘機と相見える。相手は速度に利し、こちらは適応力に利する。その結果は読者諸兄もお分かりであろう。

 拡張戦術機の複雑なマニューバを前に、戦闘機は追うことを許されない。逃げようとするところへ、放たれる対空ミサイル。それは違いなく敵機を追い回し、接近。近接信管による爆発によって仕留める。


 日本軍の無線に轟く凱歌。

 太平洋上の空戦の結果は、アヴァロニアの圧倒的敗北に終わった。

今回から登場します日本軍新型機の月光。個人的に黒い機体好きです。

名前は第二次大戦中に開発された夜間戦闘機から取りました。


これより日本奪還作戦が進められていきます!

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