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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第三章 Allies
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回天

 

 張り詰めた空気が司令部を満たす。

 いつになく緊張した幹部達。ただ、それは全員ではない。事の詳細を知っている者のみだ。知らない者は、その空気感から内心何が起きるのかわからない恐怖に苛まれつつ、通常の訓練や業務に励む。

 ――そして、足音が聞こえ始める。それも一つや二つではなく、大勢。

 それは廊下いっぱいに広がる集団から発せられたものだ。彼らの多くは室内用火器である軽機関銃を携行している。纏うのは物々しい雰囲気と、彼らが憲兵である事を示す白い手袋。

 時折通路で何名かが集団から離れていく。目的地が違うのであろう。

 そして、その集団の先頭に立つのは、鮫島である。


 本隊とも言うべき鮫島が従える彼らは、ある扉の前に来た。

 ノックはせずに、強気に扉を開く。

「一体なんの騒ぎですかな?司令」

 ――椅子に座っているわけではなく、窓から外の様子を見ている西馬が振り返り、来訪者に問う。

 そう、ここは西馬の執務室だ。

「略式軍事法廷が貴様を待っている」

 鮫島は開口一番にそう突きつけた。

「室長にはご同行願います」

 鮫島の傍に控えている憲兵が令状を出し、西馬へ向けた。

「罪状は国家反逆罪。具体的には、軍部上層部に背くような団体を組織したこと。青風会と言えばお分かりでしょう」

 軍部に背くことすなわち国家反逆というのはいささか疑問が残るものである。国家とは民であって軍ではないはずだ。

 西馬は再認識した。

 ――腐っている、と。

「認めますね?」

 鋭い口調で脅すように、責め立てるように憲兵の一人は問う。脅迫などしていては憲兵などあったものではない。

 西馬は鮫島らに対して正面を向き、何歩か前へと進んだ。数人が軽機関銃を西馬へ向ける。だが、彼は怯まない。

「……認めなかったら、どうなるのかね?」

 ぼそっと呟いたそれは、やたらに部屋へ響いた。

「はあ?」

 全く予想していなかった答えに憲兵は間の抜けたような声を出した。

 次の瞬間。


 壁が割れた。


 西馬の背後にあったガラス窓や壁が崩れた。空いた穴から風が吹き荒れる。西馬の着ていた軍服の襟や袖が鮫島が立つ方へと靡く。

 その風をもたらした黒い影。

 月光である。その手には、どこから仕入れてきたのか、対人用の機関砲が握られている。

 それを、鮫島らに向け構えた。

「一体どうなるんだろうかね」

 そう言った西馬は、着ていた上着を脱ぎ、自らの机の上に投げた。その胸に付いている様々な勲章。その勲章と逆の位置に付いている"室長"の文字。その肩章が示す階級は、大将。

 自分が軍で得た全てを今、西馬は投げ捨てたのだ。

 そして、穿たれた風穴で待つ月光へと、身軽になった体を進める。

 去り際に、一言放った。

「"権力だけじゃ、何も守れねえよ"……って、な」

 いつかの蓮二の捨て台詞を引用して、月光の手に飛び乗った。年の割に身軽である。


 ゆっくりと上空へ登っていくと、周囲から月光が集まってきた。青風会の全員が集まったのである。

 彼等はどこへ行くというのだろうか。



  * * *



「来客です。播磨さんに会いたいと」

 休憩中の蓮二に、歩いてきた草鹿がそう伝えた。

「はあ、わかりました」

 誰なのか、という質問はなんとなしに飲み込み、大人しく従う。

「誰なのかしら?」

 せっかく蓮二が堪えた疑問を結が口に出してしまった。

「……それは後で播磨さんに聞いてください。私では判断しかねます」

 草鹿はなぜか答えなかった。

「では、付いてきてください」

 そう言って踵を返した。疑問を覚えながらも蓮二は後に続いた。




「こちらです」

 蓮二が案内されたのは、応接室。中で来客が待っているという。

 一応ノックをし、扉を押し開ける。

 中で待っていたのは、東洋人風の若い男だった。だが、日本人ではない。身長高く細身で、長い髪を後ろでまとめている。蓮二が入ってくると同時に、その閉じていた切れ長の目を開いた。

「貴殿がハリマ氏ですね。お初にお目にかかります、(スォ) 有人(ヨウレン)と申します」

 そう言って浅く一礼をした。

「ご丁寧にどうも、播磨です」

 蓮二も返す。すると、索は穏やかに笑った。

「して、どういったご用件で?」

 蓮二は単刀直入に訊いた。

「その前に、我々の立場を説明させていただきたいのですが」

「構いません」

「ありがとうございます」

 咳払いを一つ。

「私が漢民族であり、国家公務員でありながらも中華王朝人民国の臣民ではない、と言えば幾らかは推し量れるかと」

 漢民族とは、遥か昔からユーラシアの東端に住んでいた民族である。すなわち中国人と言っても差し支えない。

 国に仕えていながら、国民ではない。それで思い当たるのはただ一つの出来事だ。


 ――二十年ほど前、分裂し内戦状態だったその国は、拮抗していた数年間を鼻で笑うかの様に、たった一週間で統一された。勝ったのは漢王朝一派。彼らによって国は作り直され、今に至る。

 しかし、アヴァロニアと内通していたという噂が建国初期から流れており、国内でも水面下で不満が溜まっていると聞く。

 そして、その戦いで負けたのが、革命軍と謳われていた民主中華連合。

 これらの要素から推測されうる可能性は一つ。索が連合の人間であるということだ。


「つまりは、レジスタンスということですか」

「ご明察」

 索は満足げな表情だ。

「今すぐにとは言いませんが、我々と協力関係を結んで頂きたいのです。我々の目標は、中国を民主的な平和国家へと作り変えることです」

 真剣な声音でそう蓮二に訴えかける。

「今の我が国は腐っています。既得権益にまみれ、汚職、賄賂、重い税、民衆への弾圧……」

 ぐっと唇を噛み締める。

「ハリマ氏の目的は戦争をなくすことだと聞き及びました。我々もお手伝いします。その代わりに、力を貸していただきたいのです」

 力の入った、強い言葉だった。

新章でございます。

中途半端な気もしますがここが一番切れが良いのです。

……西馬さんマジかっこいいっす。

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