484.二人の魔剣構想~迷走中
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・赤羽にな先生『魔導具師ダリヤはうつむかない~王立高等学院編~』1巻、5月17発売です。
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氷の大剣が却下された後、ヴォルフの目に入ったのはスケッチブックの新しいページだ。
刃の一部に緑が入った長剣は、風魔法が付与されるのかもしれない。
紙面を見ていくと、刃の中央に緑の溝があり、柄に風の魔石が二つ並んで入るらしいことが読み取れた。
強めの風魔法が発動するのだろうか、そう思ったとき、ダリヤが説明を始める。
「通常の長剣を加工して、風魔法が通るライン――この溝部分に風が通るようにして、攻撃で必要なときに魔力を通せないかと思って。これは溝に沿ってまっすぐ進むから、他の人への心配は少ないと思うけれど……」
氷の大剣の話から、他隊員への被害を気にしているのだろう。
だが、一方向へ進むのであれば問題はないはずだ。
「これなら安全だと思う。途中まで刺して稼働させてもいいし、届かないところからの威嚇にも使えそうだ」
「でも風の魔石では使いきりになってしまうから、素材で風魔法を付けた方がいいかも。候補としては緑馬、攻撃力を考えたら天狼が付与できれば理想ね」
「いや、危ない素材はやめよう。君に怪我をしてほしくないよ」
「大丈夫よ、ヴォルフ。緑馬で試作がうまくいったら、コルンさんに相談するから」
コルンバーノは、スカルファロット家の魔導具部門の長だ。
魔導具師としての腕は確かで、魔力も高い。
その上、武具について詳しく、ヴォルフの魔剣についても話は通している。
相談にはまちがいなく最適な相手なのだが、少しばかり気にかかる。
「コルンバーノとは、話しやすい?」
「ええ、相談のできる先輩、っていう感じ。オズヴァルド先生やウロス様より年代が近いせいかしら」
ダリヤに屈託のない表情で答えられ、納得したふりで表情筋を固めてしまった。
そんな自分の隣、彼女は再びスケッチブックのページをめくる。
「風の溝剣は候補の一つにして、次ね」
めくられた先、赤茶の短剣が目に入る。
その刃にはみっしりと魔導回路が描かれていた。
「これは、土魔法の付いた剣?」
柄に土の魔石を入れると図解され、時間差で発動する旨が横に記されていた。
「ええ。攻撃力があまりないけれど、投げて使えないかと思ったの。魔物が向かって来たときに土を隆起させて、足止めに」
「なるほど……」
投擲した先で土魔法を発動、魔物を足止めする短剣だった。
的確な場所に投げれば、いい時間稼ぎにもなりそうだ。
ただ、これに関しては隊で適任がいる。
「とてもいいと思うんだけど、投擲できる距離の場合、土魔法の使える魔導師か、隊員が足止めでこういう隆起を出すから……」
「それじゃあ、かぶってしまうわね」
ダリヤは納得したようにうなずいた。
実際、魔導師やベルニージのような土魔法持ちは、魔物の足止めに魔法を使うことが多い。
飛行系や飛距離のある魔物には使えないが、接近戦の際には有効だ。
彼女に他の戦闘向け土魔法を尋ねられたので、近くに土を落として注意をそらす、戦闘中の目潰し、防御の土壁についてなどを説明していく。
ダリヤは一つずつメモを取っていた。
「じゃ、これは無しね」
少し早口でページをめくろうとした彼女を、ヴォルフはつい止めてしまう。
「ダリヤ、これはこれでいい。俺なら先駆けのときに投げて、便利に使えると思うから」
「先駆けで――それなら、これを疾風の魔剣のときのように改良してもらって、弓騎士の皆様に矢として使ってもらう方がいいんじゃないかしら? 先駆けの前に」
「それはいいね。矢だったら、魔物に刺さったとき、土魔法で攻撃なんかもできるかもしれない」
勢い込んで言いながら気づいたのは、細い指に重ねたままの己の手。
ダリヤがページをめくるのを止めてそのまま――失礼にも程がある。
ヴォルフは全力で表情筋を固め、そっと手を戻した。
もっとも、ダリヤは土魔法の展開について考え込んでおり、気づいていないようだが。
「矢の形式にする案をヨナス先生の方に出してみるわ。弓と矢は武器特性が強いそうだから、詳しい方に見てもらう方がいいと思うし。これも仮仕様書にしないと……」
そう言った彼女の指先、インクがわずかに爪を染めていた。
ここまで一体どれだけ考え、どれほどの量を書いたのか――
じっと緑の目を見つめれば、覚えのある揺れが見えた。
「ダリヤ――もしかして、あせってない?」
「え……」
一瞬、意外そうな表情が浮かび、それがバツの悪そうなものに変わっていく。
彼女自身が気づいていなかったのかもしれない。
自分が魔剣を強く望みすぎ、彼女に無理をさせたのだろう。
そう反省しつつ、先に口を開く。
「俺は、ダリヤに作ってもらった黒風の魔剣も本当にありがたいんだ。次の魔剣はそう急がなくてもいいから、ゆっくり考えていかない?」
けれど、自分を見返す彼女の表情は、硬質なものに変わった。
「あせってるわけではなくて――できるだけ早く、使える魔剣が欲しいと思って」
「黒風の魔剣は充分に使えてるよ」
「もっと強い魔剣があれば、ヴォルフが怪我もせず、討伐も安全に終わるかもしれないもの……」
小さいけれど強いその声に、胸の奥が騒ぐ。
それは友である自分への心配と願いで、それ以上ではない。
わかっていても一言一句、記憶に深く刻んだ。
「ありがとう、ダリヤ」
ヴォルフが礼を述べると、緑の目が不思議そうに見返してきた。
隣の肩はこんなにも細いのに、守ろうと伸ばしてくる手は鋼よりも強い。
言いたいことは山ほどあるのに、自分がその隣に立つには、まだ、何もかもが足りない。
いつもの口調で、いつものように――
ヴォルフは懸命に心がけながら、ダリヤへ笑みを向ける。
「今度、隊長に頼んで灰手を見せてもらわない? 詳しい説明もしてもらえると思う」
「そうね。一度お願いしてみようかしら……」
目の前の彼女は、すでに魔導具師の表情だった。




