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475.魔物討伐部隊員の功績譲り

・12月25日、書籍、魔導具師ダリヤ9巻・服飾師ルチア3巻(特装版・通常版)、ルチアコミックス3巻発売となりました。活動報告にご感想を頂く場を作りましたので、よろしければご利用ください。

・アニメのスタッフ様、メインキャスト様が公表となりました。

https://dahliya-anime.com/

・公式Xにて、4コマ『まどダリ』第2話更新です。

どうぞよろしくお願いします!

「やはりグラート隊長が筆頭だろうな。九頭大蛇(ヒュドラ)戦総括だ」

「あとはベルニージ様達へ褒賞でしょうね」


 魔物討伐部隊棟の待機室には、騎士服の隊員達が多く集まっている。

 本日、儀事召集がかかったためだ。

 九頭大蛇(ヒュドラ)戦による叙爵と褒賞についてだろう。


 ヴォルフがそう思うのには訳がある。

 昨夜、グイードから、三番目の兄のエルードが男爵に決まったと聞いた。

 九頭大蛇(ヒュドラ)と最初に戦い、その翼を落とした功績が認められたという。

 エルードは国境で男爵家を立て、冬には結婚するそうだ。

 ヴォルフとしてはとても誇らしく、うれしい知らせだった。


 もちろん、魔物討伐部隊員の叙爵、褒賞もとても喜ばしい。

 九頭大蛇(ヒュドラ)戦で指揮をとったグラート、先駆けをしたベルニージ達に褒賞、あとは、赤鎧スカーレットアーマーの年数を経ている先輩方が叙爵だろう――そう考えていると、隊長と副隊長がそろって入ってきた。

 あたりの話し声はぴたりと止まる。


「もう察しがついていると思うが、九頭大蛇(ヒュドラ)戦による叙爵、褒賞者の知らせだ。まずは叙爵――」


 グラートは言い終えると、視線の先を変えた。


「ユドラス・フェルローネ、男爵の任をていす」

「ありがたくお受け致します!」

「ギーシュ・ガディス、男爵の任をていす」

「喜んでお受け致します!」


 二人の先輩が、それぞれ笑顔で男爵を受けた。

 通常、赤鎧スカーレットアーマーを十年続ければ男爵だと言われている。

 ユドラスとギーシュは赤鎧スカーレットアーマーになって、それなりに年数を経ている。

 数年前倒しになってもおかしくはない。

 隊員達は皆、拍手で祝った。


「次に褒賞者だ。魔物討伐部隊を代表して私、そして先駆けを行った、ベルニージ・ドラーツィ、レオンツィオ・ランツァ、ゴッフレード・グッドウィンに、特級馬と馬具一式、報奨金とのことだ」

「おめでとうございます、グラート隊長」


 自身の褒賞発表も告げたグラートに、グリゼルダが祝いの言葉を告げる。

 総指揮を執ったグラートが評価されたのは隊全体が評価されたことでもある。

 それに、隊で最初に九頭大蛇(ヒュドラ)へ飛び込んでいったのはベルニージ達だ。


 誰一人、不満を浮かべる者はなく――

 いや、笑みを消し、真剣な表情かおとなったのは、隊長自身だった。

 彼は自分の横、副隊長に向き直る。


「グリゼルダ・ランツァ殿、功績譲りを申し上げる!」

「グラート、隊長……?」

「おかしくあるまい。九頭大蛇(ヒュドラ)戦は先にお前が指揮をっていたのだ。それに、次期隊長としては男爵より子爵になった方が何かと楽だぞ」

「いえ! 私は子爵になるには教育もなく、力不足です。功績を譲られるなら親族の方でしょう」


 慌てるグリゼルダだが、グラートは言葉を翻すことはない。


「子爵なら領地なしもあるだろう。強く勧められたなら管理人を立てることもできる。そのあたりは私の弟と義妹ぎまい達、甥と姪がいるので一切問題ない。何より、私が継ぐ者へ望んで譲りたいのだ」


 一族で支援すると言い切る隊長に対し、副隊長は一度だけうつむき――顔を上げ直した。


「ありがたく、お受取申し上げます」


 次期隊長のしっかりとした声に、再び拍手が上がった。

 その音が弱まったとき、隊員の間を進み出て来た騎士がいた。


「グラート隊長、続けてよろしいだろうか?」

「かまわんぞ、ゴッフレード」


 軽く片手を上げた騎士に対し、グラートがにやりと笑う。

 その様に不思議になっていると、ゴッフレードは自分の近くへと歩んで来た。


「このゴッフレード・グッドウィン、我が息子、ドリノ・バーティに功績譲りを致します!」

「はぁ?!」


 自分の隣のドリノが素っ頓狂な声を出す。

 しかし、それに構わず、ゴッフレードはグラートへ振り返る。


「褒賞はすべてお返ししますので、息子、ドリノに男爵位を早めて頂ければと」

「確かにうけたまわった」


 当然のように進む話に、ドリノが再び声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってください、ゴッフレード様! 俺なんかに功績譲りなんて――」

「なんかではなく、当たり前だろう。私がどう頑張っても、かわいい娘より早く逝くのだ。お前がファビオラを守らんでどうする? それに、隊員を続けるなら万が一も考えよ。男爵の恩給の有無は大きいぞ。あと、『父上』と呼べ」


 周囲の視線が二人へ向く。

 ドリノの妻、ファビオラの父となったゴッフレードだ。

 功績譲りはおかしくはない。


「ち、父上……ありがとうございますっ!」


 叫びのように答えるドリノの肩を、ゴッフレードがばんばんと叩き笑う。

 その姿は本当の親子のようでもあり、とても微笑ましい。

 隊員達に笑みが広がる中、空色の義手が上がった。


「レオンツィオ、何かあるか?」

「はい、私は馬も金貨も間に合っております。新しい馬に乗ったら愛馬がすねますし、報奨金より欲しいものがありまして――ちょっと口説きにいかせて頂きたく」

「いいだろう」


 レオンツィオの笑顔に対し、グラートは苦笑しつつうなずく。

 許可を得た隻眼せきがんの騎士は、そのまま歩みを進め、壁際に向かう。

 そこには、一際背が高い隊員が目を丸くして立っていた。


「ランドルフ・グッドウィン殿、功績譲りを申し上げたく! 我が子にも孫にも大盾使いはおりませんので、大盾使いの技術継承をお願いしたいのです」

「技術継承はありがたくお受け致します。しかし、自分は功績を譲られるにあたいする騎士ではありません」


 大盾使いの教えは受けるが、功績譲りは断る、ランドルフは目礼してそう答えた。

 大盾使いは数が少ない。技術の継承は大切なことだ。

 けれど親戚でもないのに功績譲りを受けるわけにはいかない、そう考えているのだろう。


 だが、レオンツィオはその片目のあおを、ランドルフへまっすぐ向け続ける。


「惚れ込んだ騎士に花束を返されても捨てるだけです。叶うなら、私に生き続ける楽しみをくださいませんか?」


 断られても、自分は褒賞を受け取らない――そう告げたレオンツィオに、ランドルフが口を固く引き結ぶ。

 しばしの沈黙の後、強い声が返された。


「光栄です。お受け致します、レオンツィオ・ランツァ殿」

「ありがとうございます。いやぁ、緊張しました!」


 緊張感のまるでない声に、周囲から笑いがあがった。

 と――気づけば、ヴォルフの正面に、白髪の老騎士が立っていた。


「儂は隊長へ先に言っていたのだが、殿しんがりになったな」

「ベルニージ様、何か?」


 言葉の意味を取りかねると、彼はいつもとまったく変わらぬ声で言った。


「ヴォルフ殿、儂から功績譲りをするので受けてくれ」

「え?」


 申し出に固まりかけ、必死に頭を回す。

 叙爵と功績譲りのため、赤鎧スカーレットアーマーで男爵にならぬのはヴォルフだけだ。

 それで気を使わせてしまったらしい。


 だが、自分がベルニージに功績譲りをされる理由はない。

 貴族に代価のない願いはないと聞く。

 まして、ドラーツィ家とスカルファロット家は貴族の派閥違い。

 気持ちはありがたいが、受けるわけにはいかないだろう。


「ベルニージ様、俺は――」


 答えかけたとき、彼は一歩距離をつめてきた。


「譲り先がそうないのだ。それに、儂はスカルファロット家の魔導具開発部門で世話になっておるから、ヴォルフ殿へ譲る理由はある。この先、この年寄りがいなくなっても、お前がいてくれれば、かわいい孫が守られる――そんな打算もあるぞ」


 そう言われてもうなずけない。

 自分へ功績譲りをしなくても、ヨナスがスカルファロット家で立場を悪くする事はけしてない。

 そもそも、彼の派閥違いなど誰も気にしていないのだ。


「ヴォルフ殿、魔物討伐部隊の今後のためにも願いたい。グラート隊長とて、あと何年できるかわからぬではないか。グリゼルダ副隊長はまだお若い。王城の予算取りなぞはいくさじゃぞ。男爵となれば少しは発言権がある。赤鎧スカーレットアーマー達が男爵となれば、より強かろう」


「ベルニージ様、数合わせのようにおっしゃらないでください。私の功績譲りの重みが減ってしまうではないですか!」

「それはすまなんだ」


 ゴッフレードが苦言をていし、ベルニージが謝る。

 それを前にし、ヴォルフは何と答えていいものか迷い――

 ベルニージがするりと耳元に口を寄せてきた。


「隊を退いたら、ロセッティ商会に入るのじゃろう? 王城の大会議にダリヤ先生一人では苦労なさる。先々、長く隣り合う者は爵位がある方が便利じゃぞ」

「……っ!」


 ささやきに慌てかける自分の前、老騎士は笑顔で姿勢を戻す。


「ということで――功績譲りを申し上げる、ヴォルフレード・スカルファロット殿」

「ありがたくお受け致します、ベルニージ・ドラーツィ様」


 ダリヤの名に、断る選択肢は消えていた。

 再び拍手が上がり、隊員達が明るい声で話し始める。


赤鎧スカーレットアーマーが全員男爵とは、じつにいいな。予算取りには全員で希望書を出してもらうか」

「俺はそういった書類が全然わからないんですが……」

「大丈夫です、最初は皆、素人ですから。書類の書き方と貴族向けの礼儀作法はそろってやりましょうか」


「副隊長、全部ゼロからなの、俺だけですよね?」

「頑張れ、ドリノ。ファビオラのためだ」

「頑張ります、父上……」


 明るい話し声が、耳を滑って遠くなる。

 ヴォルフは目を閉じるように伏せて考え出す。


 先々、長く隣り合う者――

 自分はダリヤに、そう望んでもいいのだろうか?


 友達の約束を交わした日から今日まで、友情と信頼と共に、どれほどのものをもらったかわからない。

 約束を反故にし、彼女を失うことが何より怖い。


 強くなりたい。

 彼女を何からも守れるほどに強く、この先もずっと共にあれるように強く――

 その隣を誰にも譲りたくはない。


 長く傷ついた少年の悪夢も、まどろみの甘やかな夢も終わり。

 青年は、夢を叶えるために目を開いた。

今年のお付き合いに感謝申し上げます!

来年もどうぞよろしくお願いします。

よい年末年始をおむかえください。

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― 新着の感想 ―
ヴォルフからダリヤへの関係はミドルもしくはローティーンのそれと言われていましたが  長く傷ついた少年の悪夢も、まどろみの甘やかな夢も終わり。 青年は、夢を叶えるために目を開いた。 ここに傷ついた子供…
何度も読み返してますがここ毎回モヤっとします。 ヒュドラの首を落としても叙爵対象にならず、実力はあるでしょうけど特に物凄い開発したとかではないオズが一人で2爵上がる不思議。ヒュドラの首より上のことやっ…
>yoshii24様 馬具等を譲り受けたのではなく『功績を譲り受けた』んです。 ゴッフレード様とレオンツィオ様は一度退役してからの復活組で、既に男爵位を持ってます。ベルニージ様は前侯爵で、現職では無い…
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