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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 9 健全とは

 「そうかそうか、陽はおっぱい星人だったのか...」

 「えっ!?」

 「お前はアレだな、物事に夢中になると周りのことを気にしなくなっちまうタイプなんだな」 

 椿が蔑むような目で陽を見ている。隣に座る桜も、不信感を露わにしている。椛とノイエはいつも通りだ。

 「ちょっと、根拠のない悪評を流布しないでくださいよ」

 「いいや、根拠ならあるぞ。お前は先週の金曜、ノイエと二人きりで部室にいた。私はお前が何をしたのか見ていたんだぞ?」

 「んなバカな!俺がトイレに行った時に人の気配はなかった...」

 「隣の部屋に人がいるかどうかお前はわかるのか?」

 「隣の部屋...?隣の部屋にいてどうやって俺の行動を監視するんですか」

 椿が部屋の角を指差した。そこには使われていない古いタンスがあり、その上に小さなカメラが乗っている。陽の全身に寒気が走った。

 「あああアレは俺じゃなくて、俺に似た誰か...そう、弟です!」

 「苦しい言い訳だな、お兄さんよぉ。ゲーム研究会と交渉して一台はこの部の監視用に使わせてもらってるんだ。見てみるか?お前ノイエのおっぱいばっかり見てたから」

 「御手洗くん...そういう人だったの?」

 「待ってよ桜!俺は別にやらしい気持ちでノイエと接してたわけじゃないんだ!身長の関係で、俺がまっすぐ前を向くとノイエの胸に目が行ってしまうんだよ!」

 厳密に言うと陽とノイエの身長の差は僅かであり、少し下を向かねば胸には当たらない。これも苦しい言い訳だったと看破された。

 「素直に吐け。私はお前が男だということもしっかり理解している。私がお前を連れ込んだのは、男特有の行動でこの部をより面白くできるかもしれないと思ったからだ」

 自分に役割があることを知ると、陽は自分のことを正直に椿たちに教えるほうが隠しているよりも良い影響を与えられると考え、互いの主張を否定し合うこの状況を破った。

 「...白状します。見てました」

 「よし、処刑だな」

 椿は素早く部屋の隅にある箒を手に取り、先端を陽に向けた。

 「ええ!?」

 「当たり前だろ。こんなヨコシマな思いを二度と抱かないようにしなければならん。これは部長としての責務だ」

 「待ってくれ」 

 椿を止めたのは被害者であるノイエだった。彼女は陽に近づき、彼の前髪をあげて遮るもののなくなった両目を覗き込んだ。

 「私が望むのはペナルティではない。トークだ」

 「どういうことさ?」

 椿が掲げていた箒を下ろしてノイエを見上げた。陽から離れたノイエは自分の座布団を卓袱台に近づけ、そこに座ってこう言った。

 「ヨウはこの部で一人だけ男だろう?ってことはまだ知らないことをいっぱい知ることができるということじゃないか」

 「お前は男がこういうことをするのが普通で、それを私たちが知らないだけだって言いたいのか?」

 ノイエが頷いた。陽は正座をしてその様子を見ている。彼が話に割り込むことはできそうにない。

 「私が見るにヨウは私たちの年齢の女に慣れていない。女の胸を見慣れていれば意識しすぎることはないだろうが、私がヘンに意識させてしまったのかもしれない」

 「まあ…私もじっくり見たいと思うだろーなぁ」

 男だけが大きな胸をじっと見たいと思っているわけではないようだ。ノイエは自分にも非があることを認め、正座を続けていた陽を楽にさせた。

 「仕方がないことだったんだ。レアなものを見る目でじろじろと見られるのは決して気分の良いことではないが、ヨウにとってはレアなものなのだから、そう見てしまうんだ。そうだろう?」

 「あ、はい…見慣れていないので…」

 小さく縮こまっている陽が小声で言うと、ノイエは椿のほうを向いて言った。

 「モテない男を赦してやろうよ。半年…一ヶ月もすれば、私たちに慣れるだろう」

 「お前がそーゆーなら赦そう。よかったな陽。だが戒めが必要だな。ノイエ、お前が考えろ」

 ノイエは自分の作業場からマシンパーツを取り出し、手早く組み上げて陽に差し出した。

 「興奮しなくなるまで毎日見続けるんだ」

 胸を模したマシンを見つめた陽は顔を少しだけ赤らめたが、徐々にそれがバカらしくなって素面に戻った。

 「触ってみてもいいぞ」

 再び陽が赤くなり、両手で包み込むようにマシンを触った。直後、残念そうな顔をした。

 「硬いがな。感触まで似せて作るにはマテリアルが足りない。大きな胸を見慣れてくれ」

 それから毎日陽は部室に来るたびに五分間マシンを見つめ、女性陣の胸を見ても『ああ、胸か』程度にしか思わないようになる訓練を受け、さらには興奮を鎮めるアロマを浴び、自分は女に飢えた男ではないと自己暗示をかけ、ようやくノイエの胸を凝視しないようになった。

 「よし、陽が慣れてきたらしいから健全に部活動を始められるぞ」

 陽は『これでよいのか?』と自問することすらできないように洗脳され、女性陣に対して失礼のない振る舞いを心掛ける紳士に変貌した。

 彼はYシャツの裾をズボンにしまっていても問題なく部活動に参加できるようになった。


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