Episode 5 椿と陽
窓を開けると春の風が入ってきて心地よい。
今はどうしてか部室に椿と陽しかいない。二人きりとなると陽は相手が話を切り出すのを待つしかない。何も遠慮をする必要はないのだが、どうしても自分の話が面白いかどうかを精査してから話してしまう悪い癖がある。ぺら、という本をめくる音と風に揺れる植物の音だけが耳に入る。
「...部長」
「なんだ?」
「和室部って何をする部活なんですか?」
「んー、決まってるわけじゃないんだよな」
椿は本を読みながらそう答えた。どうやら話を広げるのは陽の役目らしい。
「春休みは何をやってたんですか?」
「うーん、なんだっけ」
本を読むことに集中したいのか、椿の返答ははっきりしていない。陽はこれ以上話すべきか、黙って本を読むべきか迷った。
「俺にだけ秘密はずるいですよ」
「お前、今日はよく喋るじゃないか」
「折角二人なんですから、話したいんですよ」
陽の積極性に気付いた椿はそれを利用することにした。本を閉じると、すっくと立ち上がって書棚に戻した。
「よし、お前のその意欲を買って話をしてやろう!」
「おっ、お願いします」
「春休みはただ、ここでぐうたらしていただけだ!」
無計画であったことを知り、陽は度肝を抜かれた。現時点での和室部の活動は、『部室を借りて好き勝手に過ごす』というもので、帰宅部と比べて活動場所以外の内容の違いがない。
「なんで和室部っていうんですか?和室で活動する部だからですか?」
「ああそうだ。もともとここは茶道部の部室だったらしいが、三代目の部長が廃部を免れるために活動内容を茶道に限らず、みんなで集まって遊ぶというのに変えると同時に和室だから和室部に変えたらしい」
「ルーツは茶道部なんですね。ちなみに部長以外の人は知っているんですか?」
「おのおの先輩から聞いているだろう。ちなみに今は茶道はやってないぞ」
「見りゃわかります...でもなんだろう、部って感じがしませんね」
部室とは活動するための用具があるという認識があり、活動内容の決められていない和室部の部室は家に近い。
「お前、何か考えがあるのか?」
「ええ。せっかく集まっているんだし、みんなでできる遊びがあればいいな、って思ったんです」
「うむ、それは私も時たま思う。だからリバーシとかトランプとかたまーにやるんだけどさ、人数が少なかったせいか続かないんだよね」
「俺が加わったらどうでしょう?」
「ちったぁ面白くなるかもな。試しにやってみるか」
「はい!」
陽は改革への第一歩を踏み出した。