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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 41 山ガール(ボーイもいるよ!) 

 7月2日、飯能市。食後の休憩を終えた和室部一行は公園を後にし、天覧山を目指した。公園から山道入り口まではさほど距離が離れておらず、すぐに舗装されたコンクリートの山道にさしかかった。

「けっこう急じゃね?」

「そうですか?他の山よりなだらかだと思いますよ」

「他の山もっと急なの!?」

 登ってみるとわかるが、主に脹脛に負担がかかっている。陽はペースをいつもより遅めにしてメンバーの様子を見ながら先頭を行く。

「すぐに中腹に着くんで、そこでちょっと休憩しましょう」

「本当に初心者向けなのかよー?」

「ええ。初心者向けです。もっと楽な山はいっぱいありますが」

「けっこう脚にくるね」

「いい運動になる」

 中腹に到着し、東屋のベンチに腰を下ろす。ビニルのケースの中にノートとペンが入っていて、陽はそこに何かを書き込んだ。

「それは何だ?」

「登山者のコミュニケーション用のノート。いつ登ったとか、どこから来たとか、登ってみた感想とかを書くんだよ」

「絵が描いてあるが?」

「ずっと前に放送されていたアニメの絵だね。ここが聖地だったんだ」

「私たちと同じような格好をしているな」

「登山がテーマのアニメだからね」

 ノートを見ていると、白髪の男性がこちらへ歩いてきた。

「こんにちは」

「こんにちは。ちょっとそのノートいいかい」

 陽がノートを渡すと、男性は滑らかな曲線と力強い直線を使って絵を描いた。

「おお…」

 思わず声が出た。男性はさっき陽たちが見たような絵を一ページに残し、笑顔を見せて上へ登っていった。

「あの人、たぶん七十代だろう。それより前のアニメだけど、親の影響かな」

「すごかったねー。おじいちゃんが可愛い絵を描くって想像できないよ」

「やるな、私も何か描くか」

 椿がペンを持ってノートに向き合う。

「桜、お前反対側に座ってろ。リュック抱えて」

「はーい」

 椿は山登りに来た少女という題で桜を参考にしながら絵を描いた。あの男性が描いたような萌えを極めたものではないが、それなりに可愛い絵だ。

「うーん、まだまだ練習が必要だということだ」

 椿がリュックを背負って上へと歩き出したので、陽たちも水分補給を終えてからそれに続いた。後半は舗装されていない道で、仲間の手を借りながらゆっくりと頂上を目指す。途中、分岐している道があり、左側の道には地蔵がたくさん並んでいるという看板があったので、そちらに進む。

「もうすぐ頂上です」

 その声に背中を押されて足を速める。丸太組みの足場を踏み越えると、岩の足場に変わり、頂上が見えた。

「ついたー!」

 頂上は展望台のようになっていて、この場所から何が見渡せるかが書かれたガイドがあった。それによると、富士山が見えるらしい。しかし生憎の曇りであり、今日はそれが叶わなかった。それでも街を眺めると、言葉にしにくい達成感に包まれた。

「もっと高いところだともっと感動できますよ」

「そうか…じゃあ次は少し高いところに登ろう」

「ロープウェイあるところでお願い」

「食事処があるところで」 

「お土産屋も欲しいな」

 条件付きだが、みんなが山に興味を持ってくれたことは陽にとって大きな喜びだった。来た道を戻って降りた後は、そのまま駅で電車に乗り、星乃ヶ丘へと帰った。車中では疲れた椿と桜が眠り、陽は吊革につかまってその様子を見守った。

「まだ夏休みは始まったばかりです。まだまだ楽しめます」

「次は何をするんだ?」

「ロボット博は十日からだっけ」

「そうです。三日から九日をどう過ごすか、これが大事です」

 四十日前後の夏休みのうちに、一日でもつまらない日はあってはならないというのが陽のこの夏に向けた意気込みだ。それの達成のためには、和室部のメンバーの協力が不可欠なのだという。

「間違いなく今までで一番楽しい夏休みです。この勢いのまま終わりまでいきたいんですよ」

「そうだな。私もそう思う」

「うん。折角一日まるごと使えるんだもん」

 今までにない高揚感がある。それは眠っている二人も同じはずだ。

 一つイベントを終えた和室部だが、まだまだイベントは残っている。それがどんなイベントであれ、和室部のメンバーなら楽しめる。

 

「そういえば」

 陽が唐突に椿に向かって言った。彼女は『桜が読んでいたから』という理由で読んでいるファッション雑誌から目を離し、気の抜けた返事をした。

「会長との旅行、どうでしたか?」

「ああ、いろんな意味でヤバかったぞ」

「すげえ気になります。詳しく。一日目から」 

 星名閏と小宮山椿のクレイジー女子旅・一日目。

「そもそもどこに行ったんです?」

「宇宙」

「は?」

 陽が眉をハの字にした。椿にからかわれていると思ったからだ。そろそろ反撃に出たいと思っており、椿を威圧する。しかし椿は至って普通の調子でもう一度言うのだった。

「いやいや、確かに宇宙に行く技術は確立されました。けどあれすっごく高額ですよ?ウン百万とかするんですよ?」

「タダだったぞ?」

 陽が口を大きく開けて呆けた。しかしその顔を見ても椿は調子を変えずに話を続けた。

「お前、何で宇宙人部って名前だと思ってんだ?宇宙人がいる部だからだぞ?天文部とはちげーんだぞ?」

「いやいやいや、確かにこっちが宇宙にいけるならむこうもこっちに来られるかもしれませんよ。でもおかしいでしょ。宇宙人って銀色の全身タイツで、血は青いって聞きますよ。そんな生物、宇宙人部にいないでしょ?」

「あー、お前はテレビの報道がすべてだと思っているつまらない奴か。そーゆー奴だとは思わなかったぞ。もっと自由に考えていいんだよ。和室部としての自覚を持てよ」

「えぇ…?俺はどうやって会長が宇宙人だということを確かめられるんですか?」

「直接訊けばいいじゃん。あいつ優しいから教えてくれるぞ?」

 というわけで、陽は宇宙人部の部室(生徒会室)へ向かった。


次のエピソードはうるうちゃんがメインでネタバレ的なアレでちょっとマズいのでうるう星の投稿が終わったらにします。あしからず。

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