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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 40 飯ガール(ボーイもいるよ!)

 星乃鉄道・小手橋駅。ここからは埼玉方面に向かう線に乗り換えができる。IC乗車券に千円をチャージし、改札を抜ける。星玉線に初めて乗る女性陣のために、陽が案内役を買って出た。ここから所沢駅まで行き、そこで飯能行きに乗る。陽は久々の飯能に気分を高揚させ、女性陣は彼がいることに安心してついてきている。

「今日は涼しくていいですね」

「そうだな。この気温ならぶっ倒れなくて済みそうだ」

「お姉ちゃん、気をつけてよ?そういう人に限って真っ先に倒れちゃうんだから」

 桜が鞄から水筒を取り出して椿に渡した。中には麦茶が入っている。見ればノイエも椛もペットボトル飲料を鞄のホルダーに入れており、水分補給の重要性がわかってないのは椿だけだということが分かってしまう。

「モミジ、今から食べていてオーケーなのか?」

「大丈夫。向こう着いた頃にはお腹減ってるはずだから」

「アンリミテッドだな…」

「ノイエは食べるほうだっけ?」

「人並以上には食べるぞ。身体が大きいからな」

 ところがどっこい、身体の大きさと胃袋の大きさは必ず対応しているというわけではなく、身長140cmくらいの女性が、わんこそばを百杯以上食べたことがあるらしい。ノイエと椛が同じ食べ物でフードファイトしたら、きっと椛が勝つだろう。

「お前、陽さぁ、私がいない時こいつらと何してたの?」

「桜からは聞いているでしょう。ノイエとは神社に、椛先輩とは食べ放題の店に行きました」

「お前、大変だったろ」

 椿が彼を労うような調子でそう言ったので、陽はきょとんとして首を傾げた。

「大変?…そうでもなかったような」

「椛と食べ放題行ったんだろ?よくお前生きてたな」

「そりゃあ生きてますよ。椛先輩と大食い勝負しているわけじゃありませんから」

「お前が入部する前にぐるぐる寿司行ったんよ。すごかったぜ、積みあがった皿で顔が見えなくなるんだもん」

「四十皿くらいいってたかなー?」

「大げさだよ。三十三皿だよ」

「俺の倍以上食べたんですね…」

「私の奢りってことになってたから大変だったぜ。桜が少食でよかったよ」

「結局何皿だったんだっけ?」

「私十、桜七、ノイエ十八、椛三十三で六十八皿だな。ぐるぐる寿司で万札出すとは思わなかったわ」

「すげえな…」

 今日のフードフェスに出店する店は三十、各店舗の出せるメニューの上限数は三つ。つまり最大九十品目があり、一人ですべて食べるのは到底無理な話である。そこで和室部は作戦を立てた。

「ちょっとずつなら私らもそこまで腹が膨れないし、すぐ食べ終わる。五等分して食べよう」

「序盤はそれでいいでしょう。途中で俺たちが満腹になったら、ノイエと椛先輩に任せます」

「わかった」

「オーケー」

 所沢駅で乗り換え、飯能行きの快速急行で飯能に到着すると、陽が山登りに来るときよりも人気が多いことに気付いた。

「けっこう来てますね」

「この辺りは美味しいものが多いって聞くからね」

 中央公園は駅からやや遠くにあり、そこまでは人の列に混じって話をしながら歩く。公園周辺の道はイベントのために一部通行制限がかかっており、公園の外にまで店が並んでいる。

「いざ来てみるとすごい数だな」

「そりゃあ人も来るわ」

「あっ、あそこで投票用紙が貰えるみたい」

 投票用紙を受け取り、最初の店で三種のメニューを買った。

「さっそく優勝候補ですよ」

「やきそばだぞ?」

「B級グルメ選手権では上位常連ですよ」

「いただきます!」

 会場の外郭に沿って店が並んでおり、公園の中央にはレジャーシートの上に長机が置かれている食事・休憩スペースになっている。歩きながら食べるのは下品だし、食べ物がこぼれてしまったら残念なので一つ借りた。

「うまい」

「うん」

「こっちのお好み焼きもなかなか」

「イカ焼きも美味しいよ」

 この調子で数軒巡って気付いたのは、まずい飯を出している店がないということだ。口に合わないメニューがなく、優勝を選ぶのが難しくなりそうな予感がした。

「腹がそろそろ止めろって言ってます」

「はいじゃあ陽、休憩…あ、次パフェだぞ!甘味処だぞ!」

 腹をさすって前かがみになっていた陽が姿勢を正し、甘味処の店員に元気よく注文した。

「昔の桜を思い出すぜ」

「わたし、こんなんだったっけ?」

「都合の悪いことは忘れちまうもんなんだな。お前はよく泣いてたが甘いものを見せると泣き止むんで食いつくんだよ。私はよく憶えてる」

「そうだったんだー。甘いものは確かに好きだけど、そこまでだったとは」

「ちょっと見てみたいですね。写真ありませんか?」

「おいロリコン。パフェ食いすぎてんじゃねーよ。それお前の金な」

「性的な目では見てませんよ。俺の金っていうのは構いません」

 小麦粉、白米、小麦粉、スイーツ、小麦粉、白米、お茶…という圧倒的主食に凡人の腹はすっかり満たされたが、ノイエと椛はまだまだという表情をしている。現在二十一軒目。何も考えずに店の番号順に巡っていたことを少し後悔したので、凡人たちには先に甘味処や茶屋に行ってもらうことにした。もちろん、ノイエと椛は後で一人分を食べる。

「制覇だー!」

 椿は最後のメニューを食べ終え、後ろに倒れながら叫んだ。腹を膨らませた三人は食後の休憩をとることにしたが、ノイエと椛は食べ足りないものをもう一度買いに行った。どれも文句なしに美味いメニューで、今日に限っては胃袋の大きい二人が羨ましくなった。

「お前何て書くよ?」

 投票用紙に書く店とメニューの名前を決めねばならない。九十品目のうち六十品目くらいはどんな味だったか忘れてしまっているが、各屋台で配布しているメニューを紹介する小冊子を見て味を思い出した。

「ああ、美味かったのはここのパフェだ。こっちと混同してた」

「最初のヤキソバでいいや。一番腹減ってる時に食ったもんが一番うめーんだよ」

「優勝したところって表彰されるだけだっけ?飯能市内に出店とかないの?」

「それは店が決めることだ。出店したら客は来るだろうけどな」

「草風のあたりに出店してくれませんかね…」

 星乃ヶ丘高の生徒が殺到していそうで怖い。

 優勝は、一風変わった味付けが特徴の飯能スタミナ丼だった。


当時、所沢や飯能にはよく行っていました。所沢は寄っただけだけど

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