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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 36 一等は大抵旅行

 7月28日、天気は晴れ。気温は31度。

 真夏日の連続に街中を走る救急車は忙しそうだ。

 駅前のタクシープールの中央の植え込みにある大きな時計が十一時の鐘を鳴らす。御手洗陽はケバブの屋台でトルコ人店員と話していた。

「暑い日に肉ってのもいいですね」

「でしょー?スタミナつくよー」

「美味いなぁこれ。椛先輩に教えてあげよう」

「カノジョか?」

「先輩です。学校の」

「ホー、ところでキミは誰か待ってる?」

 トルコ人店員はまだ完璧に発音できない日本語で陽と楽しく会話をしている。そこへ駅とは反対の方向から涼しげな格好をした女性が来た。

「待たせちゃった?」

「いや、待った気はしない。桜もケバブ食べる?俺の残りでよければ。おいしいよ」

「あっ、いただきます」

「カノジョか?」

「クラブの友達です」

「ホー、ビジンさんだねー」

 陽の前でからかわれ、桜は顔を少し赤くしている。しかしケバブの味を気に入ったようで、最終的には店員のからかいも気にならなくなった。

「おいしかったです。こんどは先輩を連れて来ますね」

「待ってるよー」

 桜が陽を草風駅前に呼び出したのは、学校や小宮山家があり、普段彼女らが行動している駅の北側とは反対、南側にある商店街の福引チケットを近所の老夫婦から大量に貰ったので分担するとともに当たった景品を運んでもらうためである。

「二等の掃除機と三等の扇風機は私じゃあ運べそうにないから御手洗くんに手伝ってもらおうかと思ったんだ」

 白地に襟と袖口が紺色のブラウスに花柄のスカートという組み合わせの桜は陽が彼女に抱くイメージと相違が無いように考えて服を選んできたようで、実際に陽も一目で彼女だとわかった。そんな彼女の隣を歩く陽は、慣れている椿ではなくあまり二人きりにならない桜との会話はどうするべきか考えていて、昨日のように服を褒める余裕すらない。

「御手洗くんの私服、はじめて見たー」

「いつも学校だもんね。あまりこういう服装にはならないし」

「そうなの?」

「休日ってもだいたい部活で学校行くし、家にいるときはジャージだし」

「そっかぁ。じゃあレアだね」

「俺も桜の私服…は勉強会の日に見たな」

「憶えてるんだー」

「女子の家に行って勉強するなんて俺には縁の無い話だと思ってたからその反動で強く記憶に残ったみたい」

「縁の無い話、ねぇ…」

 桜はそれっきり続けず、別の話を始めた。南口に出るとすぐに商店街があり、福引のための特設テントが見えた。

「はい、十枚。当たったら好きなの貰っていっていいよ」

「おっ、それは嬉しい」

 陽は桜から引換券を受け取って受付に渡した。奥の掲示には五等から一等までの商品が書かれている。陽は旅行や掃除機、扇風機には興味がなく、四等のお菓子詰め合わせを狙うことにした。

《お菓子…お菓子…》

 レバーを握って念を送る。ゆっくりと回すと、黄色い玉が出た。

「四等、お菓子セットでーす」

「っしゃあ!」

 得点したときのような反応なので周囲が驚く。隣の桜は歓声に一等が当たったのかと思って振り向き、お菓子を手に喜ぶ陽を見た。

「御手洗くんでこれってことは、椛先輩なら狂喜乱舞するんだろうなぁ…」

「あはは、次の部活までとっておこうかな」

 その後は五等が連続し、大量のポケットティッシュが桜の鞄を満たす。いよいよ最後の一枚となり、受付に渡してくじを引く。陽が狙うのは四等、桜が狙うのは一等。仕事で毎日夕方過ぎまで働いている両親に羽を休めてもらおうとプレゼントしようと思ったのだ。

《来い…》

 念を受けて出た玉の色は、どちらも白。しかし不思議とがっかりしなかった。二人は顔を見合わせて、少し笑った。

「好きなの…っていってもポケットティッシュかお菓子セットしかないね」

「もちろんお菓子セットを貰うよ。でも今度の部活のときみんなで食べよう」

 その時、桜の腹が鳴った。陽は気づかないふりをして時計を見た。

「そろそろ十二時だし、俺お腹空いたし、どこかでご飯食べない?」

「それならわたしの家来る?また料理するよ」

「それはいい提案だけど、部長はいないの?」

「お姉ちゃんは閏先輩と日帰り旅行に行ったよ」

「会長と?…まあ、あの二人なら計画なしでも問題ないか。うん、じゃあご馳走になろうかな」

「うん!でも食材がないから買い物に付き合ってね」

 普段行かないスーパーに行く。小宮山家からはこちらのスーパーのほうが近く、よく来るという。

「何かリクエストはある?」

「うーん、爽やかなものがいいかな」

 具体的な料理名で返って来なかったが、桜は陽がどんなものを食べたいのかを予想して野菜売り場で立ち止まった。食材を列挙し終えた彼女は流れるように食材を買い物かごに入れ、陽に商品をじっくりと見させる間もなくレジへ急いだ。

「ゆっくり買い物していると余計なものを買っちゃうから、こうして思いついたものだけを買ってさっさと終わらせちゃうんだ」

「美味しそうなものとか半額のとかがあるとつい買っちゃうよね」

「それが無駄遣いの原因であって、この方法を始めてからちょっとお財布に余裕ができるようになった」

「俺も今度やってみよう。っても、買い物に行くのは部活中なんだけどね…」

 椿の命令で買い出しに行かされ、そのついでに椛の菓子を買ってしまう彼に、その方法を実践することはできるのだろうか…

書きためがたくさんあるので定期的にドバッと出します。

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