表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
33/39

Episode 35 御手洗十六歳

長らくお待たせしました。なんかいろいろやってたらすっかり3年も経ってしまいました。私も半分以上忘れてます。

 2088年7月27日。天気は快晴。現在の気温は33度。

 光台駅前の商店街のシャッターが一斉に開く午前十時、御手洗陽は光台駅北口の大きな欅の木を囲うベンチの一角に座っている。数分おきに携帯電話を開いては何かを確かめ、退屈そうに息を吐いている。彼は制服ではなく私服を着ている。白いYシャツに紺色のチノ・パンツという極めてシンプルな組み合わせの装いだが、これは彼の母に勧められてのことであった。休日を練習か対外試合で過ごしてきた彼にはジャージ以外の服装コレクションが少なく、和室部に入ってからも休日はほとんど学校で過ごしていたため、この時期になって急遽買い求めた上下を今日、初めて着ることになったのだ。

「はえーよ陽」

 駅から出てきたのはおなじみの小宮山椿。彼女は二年生で陽の先輩にあたる人だが、今日のコーディネートはそう思わせない意図があるのではと疑うほど子供向けだ。婉曲しないで言うのであれば、完全に小学生のそれである。ちなみに、薄手のTシャツと七部丈のデニムパンツだ。

「部長、待ちくたびれましたよ」

「違ぇだろ。そこは『俺も今来たところです』だろ?」

「この前は部長を立て…いや、なんでもありません。何も用件を聞かされずにここに来いと言われたので集合時間の十五分前に来ただけです」

「いーんだよ十時ピッタリでよー。まあこんな晴れた日にウダウダ文句を言ってても何も良くならねーし、行くぞ」

 椿は陽の背を叩いて立ち上がった彼の腕を掴んだ。刹那、陽の脳裏にかつての光景が蘇る。

「俺は黙ってついていけばいいんですね?」

「そーゆーことだ」

 椿がにっと笑った。陽は弱い力に引きずられるよりも隣で歩くことを好み、椿の左に並んだ。随分前に、歩行者は右側の歩道を歩くという奨励が出たので、それに従う。

「部長、その服かわいいですね。どこで買ったんです?」

「やまむら」

「ああ、あそこ種類多いですもんね。俺のこれもやまむらです」

 『ファッションやまむら』は全国二五〇店舗を超える服飾チェーン店であり、シンプルなものから派手なものまであらゆるニーズに応える品揃えが自慢で、小学生から高齢者まで老若男女問わず絶大な人気を誇る。ファッションに疎い陽のような人間にとっては救いであり、組み合わせのサンプルも充実している。

「Sだとでけーんだよなー。ダボいのが好きだけどSだと肩が落ちるんだよなー」

 彼女が着ているサイズは160だという。小学校高学年向けのデザインは低学年向けとは違って大人っぽさをテーマにしたものがあり、椿はそれを気に入っている。

「オフショルとか着たいですか?」(オフショル=肩の部分がないアウター)

「Uネックなら着てーな。アレさぁ、ブラ紐だと露骨に狙ってる感あるけど、こーゆーのだと自然なんだよなぁ。下と一体化してるのもあるらしいじゃん」

 そう言って椿はTシャツのネックを引っ張って下着を見せた。陽はそれをじっくりと見て真面目な答えを考えた。

「白Tに水色とか合いますよねー。俺、中学の体育祭の打ち上げで女子のそれ見てから好きになっちゃったんですよね。爽やかでいいと思います」

「ってかお前暑くねーの?長いの穿いて」

「ジャージならいいんですけど、私服に短パンはちょっと抵抗ありますね。スネ毛濃いので」

「私とのデートはジャージでもいいぞ?」

「デート感0になりますよ…どっちかっていうと兄妹?」

「姉弟だろ」

 ちっちゃいおねえちゃん、なにそれかわいい。

「で、今日は何するんですか?」

「デートだよ。私の行きたい場所にお前を連れて行く」

「えーっと、俺がいないとダメなんですか?」

「ばかもん、慣れない場所に一人で行くのは勇気が要るだろ!」

《慣れない場所…?》

 あれだけ学校で活発元気娘、社交性最高レベルをやっている彼女が一人で行くのを躊躇う場所とはどんな場所なのだろうか…と考えながら椿と歩いていると、駅前からはずれた住宅街のこぢんまりとした店に到着した。

「ここですか?」

「のどかに教えてもらったんだ。あいつも背が低いだろ?『きっと椿先輩にも似合いますよ』って言ってたから来ようと思ってたんだ」

「Petit Tailleur…”小さな仕立て屋さん”ですか」

 店に入ってみる。目に留まる服は確かに和が好みそうなものだ。しかし椿と和は決して性格が似ているわけではなく、彼女が気に入りそうかというと、そうではなさそうだ。

「すげえなこれ、メイドさんみてーじゃん」

「あっ、部長似合いそうかも!ちょっと待っててください…」

 陽は目の色を変えて服を選び始めた。傍から見るとロリータ系ファッションを物色している変態以外の何者でもないが、彼が変態呼ばわりされるのは今に始まったことではない。

「お、おい私こーゆーのは…」

「はい部長!これ着てみてください!あっ、店員さん!試着いいですか!?」

 陽が椿に着せたい服を持って店員を呼ぶ、事情を知らない店員は陽が試着をするのかと思い、大声を出して驚いた。そこへ椿が説明に入る。

「あ、ああ、そういうことでしたか…これは失礼。試着はそこのドレッシングブースでどうぞ」

「い、いやまだ着ると決めたわけじゃ…」

「絶対似合いますよ!ってか俺が買ってもいいです!ねえ店員さん、似合うよね!?」

 興奮気味に訊かれて店員は困惑しながらも店員らしさを見せ、椿に試着を促した。普段陽に強要している罰だと思い、しぶしぶ試着する椿。しかし途中で声が洩れる。

「これどーやって着るんだー?」

 店員がブースに入って椿を手伝う。ワンピースになっている服は腹の部分がひもで絞れるようになっていて、背中のジッパーを閉じて着るようになっていて…一人では着られそうにないものだ。これを好んで着る和は大変ではないかと思う椿だ。

「よし、着られたぞ」

 カーテンが開くと、ロリータファッションに身を包んだ椿が恥ずかしそうに腕を体の前で交差させる。陽はその手をとり、上下に揺すった。

「やべえ!超似合うわ!これ俺のツボだわ!」

 陽が正気を失ってしまったので椿は流されるがまま購入へと至った…支払ったのは陽だが。

「この店いいですね!冬服もここで買いましょう!」 

「ふぇぇ…」

 椿はすっかりいつもの威勢のよさを失って陽に手を引かれている。いつもの仕返しを思いついたからやってみたが、やりすぎたかと思った陽はこう言った。

「俺はネタで言ってるわけじゃありませんから。本当に似合ってましたし、ドキッとしました」

「…普段着るのは恥ずかしいぞ」

「じゃあアレです、俺の女装の時には合わせて着るってことで、部室に置いておきましょう!」 

「それなら…」

「じゃあそういうことで!ほら、次はどこに行くんですか!?」

 陽が椿のような態度で無理やり彼女を戻そうとする。それを見て普段自分が陽をどんな気分にさせていたかを思い知った椿はひとつ息を吐き、彼の手を引いた。

「よし!まだまだデートは続くぞ!次はメシだ!私がおごってやる!お前、今日誕生日だからな!」


時間に余裕のあるときに思いだしていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ