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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 34 和室部らしからぬ歌

 「まずコンセプトを決めよう。どんな曲にしたい?」

 椛主導で作曲が始まる。作詞班と作曲班とに分けることはせず、全員でアイディアを出して決めるのが和室部流だ。

 「和室部ですし、和っぽいかんじですかね?」

 「和と雨…なかなか難しいことを言うね」

 決して合わないわけではないが、イメージを広げるのが難しいし、歌詞をつけるときにも言葉に困りそうだ。

 「まあそのぶん独創性が高くなるからアリだけど」

 「いっそのことメロスピにしたらいい!」

 「メロスピ?」

 桜が首を傾げる。

 「メロディックスピードメタルだ!超かっけーぞ!」 

 メロディックスピードメタルは叙述的な歌詞をスピード感あふれるメロディに乗せて歌う音楽であり、ツーバス(ドラム)を殆どの時間踏んでいることやギターの速弾き、ハイトーンボイスが特徴だ。

 「誰がハイトーン出すんですか」

 「よし、ちょっとお前ら黙ってろ」

 椿が立ち上がって腹に手を当てた。彼女が口を開くと、耳を貫くような高音が部屋中に響き渡った。鳥肌を立たせていると、彼女は胸を張って自慢した。

 「最高でhihiAくらいか」

 「不可能ではなくなったね」

 「演奏は機械だな!」

 「ってかメロスピでいいんですか?」

 「私らの自由奔放さを表現するなら適してると言えよう。突然流れを変えてもいいんだぞ」

 「歌詞どうするんですか。自由奔放ってことを叙述的に表現するとなると…部長の話でも書きます?」

 「お前ら登場すんの?」

 「よからぬことを囁く悪魔とか、逆に天使とか、もしくは平民とかでMVには出られる」 

 「コスプレか…」

 メロスピの方向で固まったのでメロディを考える。といっても疾走感のあるテンポ、ピロピロいうギター、ツーバスは確定として、それをどこで使うということで輪郭は見えてくる。

 「イントロは重要だろ?びっくりするくらい壮大なイントロにしようぜ」

 「っていうと『いきなりギターがギューン!』って感じですか?」

 「それはお約束だな!四小節目の終わりあたりで『ボーン』だ!」

 よくライブでボーカルの『いくぞおおお!』に反応して爆発するアレのことである。

 「じゃあ最初ギターだけが演奏してて、ボーンでキーボードとベースとドラムが演奏開始ってなったら面白いかな」

 「いいですね。『始まったぞ!』って感じで」

 「Aメロに行くまではバスドラ踏みっぱなしで、Aでちょっと落ち着かせようか」

 「『デン、デデデン』の繰り返しだな」

 ……

 …

 「なんとなく曲にはなったな。主旋律がまだだが」

 改良を加え、ノイエのパソコンで暫定的なメロディを演奏してみる。イメージ通りの部分と、他の楽器と合わない部分とがあり、まだまだ完成には時間がかかりそうだ。当たり前のことだが、ド素人が一から作詞作曲編曲をしようとしているので、予備知識のある人よりも長い時間を必要とする。一週間そこらで終わる話ではない。椿はそのことをよく分かっていたようで、息抜きがてらにこう提案した。

 「ずっと曲作りのことばっかり考えてんのは疲れっから、ローテーションの一部ってことにしよーぜ?」

 このままでは夏休みの活動内容が軽音部のそれになりかねないので、夏休み中の完成ではなく、『いつかできたらいいね』を目指すということだ。この企画を始めたことをいささか後悔し始めていたメンバーはこれに即同意を示し、作曲作業は中断された。

 「頭使ったら疲れちったよ。フタバで甘いフラペチーノでも堪能しようや」

 フラペチーノとはフラッペとカプチーノからの造語であり、コーヒーとミルク、クリームなどを氷とともに攪拌したコーヒー飲料だというのが初期の定義であるが、果汁や果肉をコーヒーの代用とするものもあり、『カプチーノ』要素が0になってもそう呼ばれているので、もはや定義は曖昧である。ミルクやクリームが入っているので基本的には甘い。

 「駅前にありましたっけ」

 「三鷹方面の引っ込んだところにある。あそこだけ他店舗と比べて広いんだよな」

 「でも室内席はほぼ満席なんだよ」

 「夏休みとなるとさらに増えるか…時間を考える必要がありそうだね」

 彼女らは夕方、会社員達の仕事が終わって『アフターファイブ』の波がこのフタバ珈琲店に押し寄せる前、まるで仕事終わりのご褒美のような気分で店に入った。思っていたよりも空いていて、室内のソファ席が確保できた。真っ先に座った椿が王女様のような態度で脚を組む。となりの桜は侍従さんのようだ。

 「夏だしさぁ、いっそのこといっちばん暑いとこに行かねぇ?」

 「一番暑いとこ…デスヴァレーですか?」

 「日本でだよ。ほら、毎年やってんだろ、最高気温40度越えって。そこに行くんだよ」

 「俺たちは修行僧ですか。ってか修行僧でもそんなことしませんよ、たぶん」

 「遠い場所だと移動にお金がかかるけど…どのくらいなんだろう」

 「じゃあ範囲を設定しよう。どーせ40度越えるとこなんて複数あるだろーから、関東に限定だ。それなら1万もしないだろ」

 「関東で暑いところというと…館林と熊谷?」

 「ここもなかなか暑いと思うぞ」

 「40度を越えるのは今まで一回もなかったかな…」

 「まあ40度越えてなくても、アレだ。関東で一番暑いところってことにしよう」

 「わたし耐えられる気がしないよ…」

 「大丈夫だ。そーゆー場所にはちゃんと避暑地があるさ。ここほどコンクリートジャングルってわけじゃねーしな」

 「川の近くなら涼しいかもね。もしくは県とか国指定の森林公園に行けばいい」

 「群馬と埼玉…おいしい食べ物は…」

 椛がグルメサイトを開いて調べ始めた。彼女は検索結果で行くか行かないかを判断しそうだ。

 「ああ、でもそれじゃあ暑い場所に行く意味がないか…」

 「ま、とりあえずは山だ、山!」

 遠出をするのは八月の頭にあるフードフェスが最初ということに椿が決め、それまでは星乃ヶ丘特別区内で遊ぶことになった。


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