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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 31-32 ひなた爆誕

 椿は自分の制服を鞄から取り出し陽にあてがったがサイズが合わないことに気付き、急いでどこかへ向かって走った。しばらくして戻ってくると、その手には大きいサイズの女子の制服があった。

 「うるうから借りてきた!」

 「会長から!?」

 「お前なら着てもいいだってよ。よかったな、生徒会長公認だ」

 「ちょちょちょっと待ってくださいよ俺まだやるって言ってな…」

 「おらおら脱げ脱げ!ベルトを外せ!」

 「やめてぇ!」

 椿が夢中で陽のズボンを脱がせようとしてくるので陽が抵抗していると、その様子が一人の目にとまった。

 「えっ…」

 この部で唯一(?)の常識人・桜だ。彼女は二人がイケナイ行動をしようとしているのかと勘違いを起こし、無言でドアを閉じた。

 「待て待て待て!桜!違うんだ!」

 「何を勘違いしてんのか知らんけど私らがやりてーのはそーゆーことじゃねえ!」

 釈明を聞こうと桜が戻ってきた。

 「女装…お姉ちゃん、御手洗くんの嫌がることしちゃダメって前に言ったでしょ」

 「いやマジでこいつ似合いそうなんだもん。そんなに男前な顔してねーし、濃いわけでもねーじゃん」

 「コンプレックスを…」

 「…」

 桜が無言で見つめてくる。陽は恐ろしい予感がしていた。

 「…桜さん?」

 「似合いそうかも…見てみたいかも!」

 「よっしゃお前も脱がせ!」 

 「キャアアア!」

 陽の抵抗むなしく、彼は閏のスカートを穿かせられてしまった。このままではただの変態なので、メイクを施す。椿はメイクをしないが、桜はナチュラルメイクをしているので、用具を持ってきている。

 「男にしちゃあ肌が綺麗だな」

 「吹き出物とかあったら止めたんだけどねー」

 「肌を掻き毟れ!!」

 吹き出物をつくることは女装することよりも後悔しそうなので止めるべきだ。

 「かんせーい」

 「いやまだだ、髪が男っぽい」

 「ウィッグかぁ。どこかにあるかなぁ」

 その時、部室の扉が開いた。

 「すまん椿、外に出ることになったからスカート返してくれないか」

 「うるうか。ちょっと待ってろ」

 閏は見慣れない女生徒(?)に首を傾げる。

 「椿、いつの間に新メンバーを?」

 《バレてない!?》

 「ああ、夏休みだからな。多いほうが楽しいだろーと思って入れたんだ」

 「ふーん」

 気付いていないようなのでこのまま続行する。

 「なあうるう、こいつに似合いそうなウィッグねーか?家族に散髪頼んだら切られすぎちったみてーなんだ」

 「ああ、用意してるよ」

 最大の謎だが、閏は懐からウィッグを取り出して美少女(?)の頭に被せた。女装が完了すると、正面から見ていた桜が目を見開いた。

 「うわわ、すっごくかわいい!」

 「…そうですか?」

 ハスキーな声の美少女が照れくさそうに顔を赤らめる。閏は目的を見失って携帯電話のカメラ機能で彼女(彼)を撮影し始めた。

 「いやぁ…椿、キミにはスカウトマンの才能があるね」

 「まあ私だからな。美少女のコネくらいあるさ」

 「何を言ってるんだか…」 

 「すごい、ちゃんとツッコんだ!うちのいおりんと交換しない!?」

 「それはできんな。この美少女は和室部から出ると死ぬ」

 正体がばれたら社会的に死ぬかもしれない。

 「まあいいや。撮影が終わったところでスカートを返してくれ…ところで私のスカートは?」

 椿は桜と相談事をした。

 「ああ、たしか陽の女装に使おうと思って奴が来るまで倉庫部屋に置いてあるはずだ。案内すっから取りに行こうぜ」

 椿がそう言って閏を部室から出している隙に、桜がジャージに着替えて陽の(閏の)スカートを自分のと交換した。

 「あれおっかしーな。部室に置き忘れたかな」

 「どうしたんだ椿。記憶喪失か?」

 「ああやっぱり部室にあったよ。ほら」

 「ああ、ありがとう…」

 閏は最後まで美少女の正体に気付かなかった。彼女が部屋を去ると三人は安堵し、まだ来ていない椛とノイエを騙す作戦を続行した。

 「さっきみたいに脱がなきゃならなくなることはもうねーだろーけど、スカートだからなんかの拍子にパンツが見えることってあるよな」

 「対策しなきゃね」

 「えっ、どうやって…」

 流石に女性ものの下着を穿くことにはどれだけ拘束されて無力化されても拒否を示したい。

 「桜、お前はどんなことがあってもあの二人を部室に入れるな。私がコンビニで買って来るから、それまでは頼むぞ」

 「うん…わかった」

 椿が友人の自転車を勝手に借りて(施錠されていなかった)コンビニへ急いだ。しかし彼女は道中で二人とすれ違ってしまい、作戦の失敗を予感した。

 「寝坊して急いで支度したのに電車が遅延なんてついてないね」

 「ああ。駅に着く前に気付いていれば歩いて来ていたのに」

 「私は無理かな…自転車でも三十分はかかる距離だもん」

 「そこはポテチパワーじゃないのか?」

 窓際の陽とドア前の桜に緊張が走る。二人が桜になぜそこにいるのか尋ねると、彼女はうまい返しを咄嗟に思いついて言った。

 「いまエアコンのメンテナンスの業者さんがいらしていて、終わるまで邪魔にならないようにここで待っているんですよー。私は立ち会わなきゃいけないのでここにいますけど、先輩たちは倉庫部屋なり生徒会室なりで涼むといいってお姉ちゃん言ってましたー」

 「ヨウは?来てるんだろ?」

 「御手洗くんはいまお姉ちゃんと買い出しに行ってますー」

 椛とノイエが涼を求めて生徒会室に向かうと、桜は任務完了のメッセージを椿の携帯電話に送信した。買い出しに行ったと言ったので、ついでにポテトチップスも買ってくるように追加して。

 「桜ぁ、俺いつまでこうしてりゃいいのー?」

 ひなたモードがドア前の桜に言う。桜は毅然とした態度で彼の言動を改めさせた。

 「だめ!ちゃんと女の子っぽくしないと!」

 「えぇ…もしかして俺、今日ずっとこの格好なの…?」

 桜が笑顔で頷く。普段は柔和な桜だが、今日だけは彼を助けてくれそうにない。しばらくそのままじっとしていると、彼はもぞもぞし始めた。

 「桜ぁ、俺トイレ行きたいんだけどー」

 「我慢して!」

 「無理」

 「じゃあ女装したままトイレ行って。1階の女子がいる部活ここしかないからたぶん大丈夫!」

 「マジかー」

 「今の御手洗くんなら女の子にしか見えないから大丈夫!」

 男とバレた瞬間に彼は社会的に抹殺されるだろうが、窓の向こうへ放っていたり、漏らしたりするよりはマシな判断だと思った。

 「おじゃましまーす…」

 幸いに女子トイレには誰もいなかった。一番奥の個室に入って用を足すと、何事もなかったように戻ってきた。

 「うん、どう見ても女の子だ」

 「怖かった…」

 それと時を同じくして椿が戻ってきた。陽は彼女に戻ってきて欲しくはなかったが、もうどうすることもできない。

 「さすがにパンツまで脱がすわけにはいかねーから、お前が中で着替えてくれ」

 「マジでこれ穿くんですか…?」

 「なんだ、もっと可愛いのがよかったんか?」

 「そうじゃなくて…あーもうヤケクソだ」

 陽は部室の中で下着を替え、気分も女の子になりきることにした。さっきの拒絶したい云々はどうした。

 「終わりましたです部長!」

 椿と桜がドアを開けて入ってくる。陽は女の子座りで座布団に座る。男子は骨格の都合でこれをできない人がいるが、骨の稼動域が広い陽はどうにかできた。

 「ちょっとめくってみろ」

 「はい部長!こうですかぁ?」

 「その喋り方はキ…いや、ごめんなひなた」

 「お姉ちゃん、ひなたちゃんをいじめたらわたしが許さないよ!」

 「お、おう…二人を呼ぶか」

 メッセージを受け取った椛とノイエが部室に戻ってくる。

 「もう昼だぞ…ん、誰だその子は」

 「新メンバー?」

 二人とも見慣れない女子をじっと見つめている。椿が軽い紹介をすると、それに偽りがあることを知らずに受け入れた。

 「ポテチ買ってきたぞ。今日は新入りの歓迎会だな!」

 「わぁ、嬉しいです!」

 椛とノイエは陽が戻ってこないことに言及しないまま新メンバーのひなたと過ごした。

 ……ネタバラシ後。

 「…女社会の厳しさはわからなかったなぁ」


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