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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 30 Let’s 夏休み

 授業がなくても学校に来る生徒は多い。この学校の部活動加入率は複数の部に入っている(兼部)のを考えず、入っているか否かで測定すると91%で、スポーツ推薦入試をしていない学校としては高い値である。歴史は今年で十二年目と浅いが、比較的広いグラウンドを持っているおかげで運動部を中心に新入生の部活動への加入が促されたことが理由に挙げられる。陽が朝の十時に校門をくぐると、右手にあるハンドボールコートでハンドボール部が、奥のトラックでは陸上部が、フィールドではサッカー部が練習をしているのが見えた。教科棟からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。陽が向かう左手の部室棟からは活動の音は聞こえてこないが、部室の前に行くとプログラマー同好会の打鍵音がかすかに聞こえる。

 「あー、やっぱり一番じゃなかったか」

 椿がノースリーブのシャツを着て涼んでいた。電気はついていたし、窓も閉まっているので誰かがいると思い、こういう時はやる気のある部長だろうと予想していた。

 「ふん、夏休み初日に部長が遅れをとることは許されん」

 「そういうルールなんですか?先代部長もそうだったとか?」

 「夏休み中はそうすることにした。私が一番じゃなかったら罰ゲームをする」

 「追い込んじゃっていいんですか?」

 「お前が受けるんだぞ?」

 「俺ですか!?それって俺に一番で来るなって言ってるようなもんですよ」

 椿は頬を膨らませて腕を組んだ。

 「ふん!お前が早すぎるせいで部長としてのプライドが傷ついた!まったく、かわいい後輩だから可愛がってやっていたのに…部長を立てることはしてくれねーな!」

 部活動が好きだからという理由だけで早く来ていた陽はそう言われて自分が部長の面目のことはまったく考えていなかったことに気付いて反省した。

 「すみません、部長を待たせたら悪いかと思いまして」

 「本心は?」

 椿は陽の嘘を見抜いていた。彼はどうも気を遣って棘のない言い方をする傾向があるので、本音で付き合いたい椿には不都合なのだ。

 「部長をフルタイムでエンジョイしたいです」

 陽が先に来ていれば椿が部室に入ってから部活動が終わるまで彼女と一緒にいられるが、椿が先に来ていると彼女が部室に入ってから陽が来るまでの時間、彼は椿と一緒にいられない。部長大好きな陽の素直な思いだ。

 「私なしでは生きられなくなったな。我が部は蟻地獄なのだよ。お前は見事に蟻になったわけだ」

 「大丈夫ですかね?ロリコンって罵られませんかね?」

 「誰がロリだこの野郎」

 椿のことをロリだというのであればそれは『俗に言うロリ』であり、学術的な解釈の『ロリ』ではないのだが、小学生でも身長150cm前後の女子はいるので、どっちの解釈にも触れる。

 「平気ですよね?俺ちゃんと桜のことも好きって公言しておけば」

 「ロリコンとは言われねーだろーけど変態とは言われるだろーな」

 「この年齢の男子は女好きばっかりですよ。もう女だったらいいや、みたいな人ばっかりです。部長のクラスの男子もきっとそう思ってます」

 「おいやめろ、仲のいい男子のことを変態扱いしちまいそーだ」

 椿は快活なので男子とも仲がよい。陽のように女っ気のない男子にも容赦なくちょっかいを出すので、照れられる:迷惑がられる=9:1くらいの対応をされる。そんな男子陣との仲が悪くなれば、彼女の居心地は極めて悪くなるだろう。

 「でも助かってると思ってるでしょうね。自分なんかと卑屈になってる奴が女子に話しかけられて喜ばないはずがありませんもん。聞いてみればいいですよ、オタク男子なんかは素直に教えてくれますよ」

 「なんか色目使って男を従えてるようで印象が悪いような…」

 「女子からはそう思われるかもしれませんけど、所詮は嫉妬です。イケメンにそれをしなければ大丈夫です」

 「お前それネットの情報だろ。いいか陽、女社会ってのはお前が思ってるよりも恐ろしいものなんだぜ…?」

 「女になってみなきゃわかんないってやつですかね」

 この台詞が椿の『お楽しみセンサー』を反応させてしまったようで、彼女は右の拳を左の手のひらに乗せた。

 「よし!今日はお前が女装する日だ!まだ他の奴らが来てないし、新メンバーってことにしよう!面白くなってきたぞ!」

 陽は激しく後悔した。


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