Episode 28 計画を立てよう!
「ノイエは今日の部活中はその格好な!」
「かまわないが...ヨウ、レアなものを見るような目で見つめるな」
「思ったより似合うんだもん。いいねぇ、浴衣も楽しみになってきたよ」
「そうだよ、計画を立てなきゃって言ってんだ!」
椿が役目を思い出し、『夏休みにやること』と大きくホワイトボードに記した。
「陽とはさっき話したけど、山に行くというのがひとつ案として出た」
箇条書きの点を打ち、その隣に文字を書く。その大きさから察するに、彼女は多数の案を求めている。
「食事会をするというのも出たよね」
「食事会ですって!?」
やはり椛が食いついた。試験勉強のために陽が小宮山家に来たときにその話があった(Epi.24参照)。あの時点で三人が賛成票を投じており、椛が賛成しないはずがないので、ノイエに最終決定が託された。国連の常任理事国の拒否権のように、誰か一人でも反対があれば否決されるのは、『全員で楽しむ』という和室部の理念に基づいている。
「私も賛成だ」
「まだ採決はしなくてよかったけど可決ってことで」
点を赤い線で囲む。会場については後ほど。
「陽...は最後でいいとして、桜、他にねーか?」
「ありがちなところだと海?」
「海と...まあ踏んどくべきだよな。来年どーなるかわかんねーし」
受験のことを示唆したので陽は少し悲しくなった。
「椛は?」
「こんなの見つけた」
鞄からチラシを取り出して卓袱台に広げた。そこには『飯能フードフェスタ』とあり、埼玉県飯能市を中心とした地域で人気を誇る店がとっておきのメニューを屋台で売り、客は投票用紙に気に入った店とメニュー名を書いて投票し、それを集計して最も人気だったメニューを表彰すると概要が示されている。飯能は西部のほとんどが山であり水が豊かで、農作が盛んに行われている。食に関しては大いに期待できそうだ。
「でもなんで飯能?」
「自然を感じながら食べるのはいいこと」
「ああ、あそこ広い公園ありますね、天覧山の近くの」
陽は山ボーイなので初心者に優しい天覧山(195m)によく行く。駅から麓までの道中に、中央公園という広い公園があり、頻繁にイベントが開かれているのを知っているのだ。
「メシに関してならそんなに時間がかからねーだろうしいいんじゃね?」
「そんなに遠くありませんしね。ここからだと二時間くらいです」
「よし、候補に入れよう。ノイエは何かねーの?」
「個人的にはロボット博に行きたい」
「なんだそれ?プラモデルのでけー版でも展示するの?」
「工場で使われてるハイテクな精密機械とか、ウェルフェアロボットとかが見られるんだ」
ウェルフェアロボットとは福祉のためのロボットであり、介護用ロボットがそれに該当する。
「一応候補に入れよう。あとでウェブ見て決めるぞ。陽、お前の番だぞ」
「みんなで夏祭りに行きたいです」
「ああ、そうだそうだ。だがお前は『ノイエの浴衣姿が見たいです』だろ?」
「みんなのが見たいです」
「ふん、お前も和室部式の返しができるようになってきたな」
以前の彼であれば『それがメインじゃないですよ?』とか『違いますよ、花火とか見たいでしょ?』と返していただろう。
これで一巡した。これまでに出た提案はどれも実現可能であり、どれも面白そうだ。これにあといくつかの案を追加したところで、椿からこう呟きがあった。
「まぁ、計画なんざ狂うことがよくあるもんだ。そん時そん時で決めてもいいわな」
「計画を立てようって言ったのは部長ですよ」
言っている事には頷けるが、提案者が計画立案を終了したがるというのには頷けない陽がそう言う。
「私ゃ案が出て、ざっくりとした日程が決まればいいと思ったんだよ」
「それじゃあズレが生じますよ。この日に行くだろうと思って空けておいた日に行かなくなったら困りますよ」
「うーん、お前は正しいことを言っている…が、計画を立ててそれが崩れるのは悲しいだろう?雨で中止なんかがその最たる例だ」
小学生のときに友達と自分の家で遊ぶ約束をしていたのに雨のせいで友達が来られなくなり、約束が果たされなかったときのことを思い出した。
「じゃあ近いものと、開催期間があるものを先に決めましょう」
「よし!」
椿も納得したようなので、七月にやりたいものと開催期間が決まっているフードフェスタとロボット博と夏祭りの日程を決めることになった。
「七月じゃねーとできねーものってなんかある?」
「候補の中ではないんじゃない?」
「ASAPなものだな!?」
As Soon As Possibleの略で、口語的な英語のメールのやりとりではよく使うらしい。意味は『できるだけ早く』。
「夏休みのはじめのほうを楽しむ企画…?」
桜が曖昧なことを言ったので、それについて深く考えることになった。形のあるもので、目に見えるものではない『夏休みのはじめのほうの雰囲気』というのは、まだまだ休日があるという余裕や、まだイベントがいろいろ残っている高揚感などがそうであろう。しかしそれを『楽しむ』とは、あくまでも確認して満足するだけに終わり、個人内で終始できるものである。結局分からず終いで、無駄にしがちな日々を無駄にしないように毎日遊ぼうね、ということでまとまった。
「ということで夏休み初日から夏っぽいことをしよう。ネタは各自用意してくること」
「夏っぽいこと…かき氷!」
水を凍らせてシロップをかけるだけのものなので腹にたまらないが、椛のモードは変わっていた。
「いいなそれ。アレか、かき氷マシン買ってきてここで食うか?」
「自動のは高いんで手動のにしましょう…」
「お前ゴリゴリ係な」
陽は多額の出費をして落ち込む未来を回避することに成功した。
「じゃあさっそく買いに行こう!ホームセンターに売ってるよな?」




