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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 23 Way to holiday

 七月一日、陽は高校に入って初めての期末試験を迎えようとしていた。夏休みにも課題を出すのにそれとは別の課題をテスト日までに提出しろという教師陣の横暴に苦しんだ中学時代とは違い、高校の教師陣が口を揃えて言うのは、『ちゃんと勉強しろ』というアドバイスのみで、夏休みの課題もさほど多くないし、難易度も低い。

 「山積みのわら半紙...なし、分厚い問題集...なし、提出義務...なし!」

 彼が言うように、夏休みの課題は後期の評価に加点するためのものであり、追加点が必要ない者は提出しなくてもよい。大学の推薦入試を利用する者は内申点が高いことを売りにしなければならず、この課題の提出は必須といえるが、志の低い―言い方が悪いので『身の丈にあった大学を選びたい』と言い換える―陽のような人間にはこの任意提出という決まりごとは救いである。

 「しかしだ、しかしなんだよ御手洗君」

 椿が陽を苗字で呼ぶときは、決まって誰かの真似をしているときである。この独特の言い方は、陽が"会長"と呼んで慕っている星名閏のものだろうか。

 「はい?」

 陽は気の抜けた返事をした。廊下の暑さを逃れてここで涼んでいるせいか、身体が横になりたがっている。はっきりとした声を出すために余計な力は使いたくない。

 「私は去年地獄を見たよ」

 「去年は課題が絶対提出だったんですかー?」

 陽は完全に横になって椿のほうを見ずに言った。

 「いーや、そうじゃねーんだ」

 「じゃあなんで地獄なんですかー」

 知らなくてもよいので気の抜けた声で問う。すると椿は突然加速して寝そべる陽を揺すった。

 「お前、期末テストの難易度知らねーだろ!?」

 椿の目がかっと見開かれたので陽は冷や汗を垂らして起き上がった。

 「そりゃあ、未経験ですから」

 「そうだと思った!よし、そこの本棚にある青い背のファイルを見てみろ」

 陽が言われたとおりに桜の愛読書や自分が持ってきたライトノベルが並んでいる隣で地味な色で存在感を隠しているファイルを引き抜き、表紙を見た。

 「過去問集ですか」

 「そうだ。この部が始まってから部員が集めたものだ。運がいいことにお前が取ったのは一年生の夏前の問題だ」

 陽がファイルを卓袱台に置いてその中の一枚を広げた。しばらく黙って読むと、あることに気付いた。

 「あれ、簡単じゃないですか?」

 的が外れた陽があれほど必死に訴えた椿を見る。彼女はその反応を当然だと思ったようで、こう言った。

 「そうなんだ。ここの期末は敢えて簡単につくってあるんだ」

 「じゃあなんで地獄なんですか」

 違う口調で先ほどもした質問をする。

 「赤点は三十五点以下...そこは他校とさほど変わらん。しかしもしそれに満たなかったら...?」

 「どうなるんです?」

 「お前、中学の頃にバカみたいな量の課題が出なかったか?」

 「出ましたよ」

 「あれの比じゃないくらいの量の課題が出る。それは提出しなけりゃいけねーやつで、もし提出しないと赤評...最悪留年だ」

 「うへぇ...え、じゃあ部長は去年それをやったということですか?」

 「ああ。頭のいいうるうとその友人たちに金を渡してやってもらったさ」

 「部長が全部やったわけじゃないんですね...」

 「あんなのバカ真面目にやってたら夏が終わるぞ!」

 椿が注意喚起をしたのはそのことを陽に知らせたかったからだ。彼女は部長として、部員に赤点をとらせないように厳しく言いつけておかねばならなかったのだ。

 「私が夏休みを最大に楽しめるように...」

 物語をつけるほどに赤点の恐ろしさを強調したかった椿の気持ちを理解した陽は再び寝そべって言った。 

 「大丈夫です。俺はけっこう頭がいいほうなんで」

 「...そういやお前が天才だとかバカだとかっていう話は聞かねーな。桜なら聞いてっかな?」

 「他クラスに伝わるほど目立つ成績じゃありませんよ...一教科を除いて」

 「なんだその一教科って」

 「それは点が揃ってからのお楽しみってことで」

 「気になるがお前が期末に憂慮することがないというのであればよし」

 「ノイエは大丈夫なんですかね?読めないほどに難しい日本語は出ないと思いますけど...」

 「あいつは喋り方の改善に苦労してるだけで赤点を取るほどじゃねーよ。去年の最初の中間で現代文と古典の赤をもらったらしいが、それは許されたらしい」

 まだ日本語よりも英語を優先的に使っていた時期で、クラスメートの助けを借りていたノイエには『分かる範囲で答えよ』という問いが与えられ、赤点は適用しないという特例が認められた。そもそもこの学校には外国人用入試があり、彼女以外にもこの制度を使って入学した人はいる。テストに関しては専用の問題を作成するより、恩赦制度を設けるべきだという意見―これは試験時間を考慮している―が多数であり、今のようなしくみが出来上がった。ただし今の彼女はすっかり日本語を覚えて日常会話で問題なく使えるレベルに至っている、つまり日本語初級者という条件を満たさないため、他の生徒と同じ問題を解いている。

 「じゃあうちは全員大丈夫ですね」

 「桜と椛のことは訊かねーのかよ?」

 「あの二人は見た目からして大丈夫でしょう。もしあの二人のどちらかでもバカだという情報があったら情報源に殴りこみに行きますよ」

 「椛は勉強苦手だぞ。幸いなことに赤点はとってねーみたいだがな。こればっかりは神の力と言う外ない」

 「うーん、運動が得意な人はえてして勉強もできるって聞いたことがあるんですけどね...」

 「必ずしもトゥルーではないということだ」


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