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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 18 シュート・シャワー

 梅雨といえばその文字にある通り、雨の季節である。雨といえば小雨大雨様々あるが、梅雨の雨は大雨を想像する、と陽が語った。

 「でもよ、雨上がりの日光に照らされるアジサイの写真とか絵とかいっぱいあるだろ」

 「確かにそうですけど...昔六月にすごい雷雨があって、それがちょっとしたトラウマなんですよ」

 「お前でも雷怖かった時期があるんだな」

 「今でも怖いですよ。停電って意味ですけど」

 「停電かよ...」

 「部長は雷、平気ですか?」

 「まあな。原理を知ってからは」

 陽が外を見て、椿もそれに合わせて外を見た。大雨が降っていて、遠くで雷鳴がする。外には雨宿りをしたり、傘を忘れて駆けている人が見える。

 「家遠いんすよねぇ...六時までに止まないかな」

 「うちは近いが、野郎を泊めることはできないな」

 「そうですよね...」

 「九時くらいまでならいてもいいけどな」

 「...考えておきますね」

 しかし陽の願いとは裏腹に雷雨の勢いは強くなって音や振動で二人を苦しめる。桜たちが三人で連れ添って来たのは、一人だと怖いからだろう。

 「すごいことになってるね、外」

 「この建物、浸水しないよね」

 「心許ないな...」

 「陽、いざとなったらなみのりだ」

 「俺、地面格闘なんで」

 「マジかよ...じゃあその怪力で底上げ板持ってきてくれよな」

 「それならお任せください」

 窓がガタガタと音をたてて揺れ、バチバチと雨粒が打ち付ける。ここにいることを危険だと思うくらいの激しさに、部活の中断を検討せざるを得ない。

 「マジで危なくなってきたな」

 「どうします?今日の部活は帰宅ってことにしますか?」

 部活をしたい陽は無理矢理に帰宅を部活の一部にしようとした。その発想に感銘を受けた椿は陽の提案を却下し、代替案を提示し、部長権限で可決した。

 「私の家で遊ぼう!陽だけなら気が引けるが、椛とルルエもいればいいだろう!」

 「遊びの手段ならいっぱいあるよ~」

 「お邪魔しますね」

 片づけを終えて部室を出た五人は傘をさして歩き出した。陽は奇数人だと誰か一人が隣に人がいない状態になると心配したが、隣にいても声が聞こえないくらいの雨だったのと歩道が狭いのとで縦一列になったので一人にならずに済んだ。

 「とうちゃ~く」

 「立派な邸宅ですこと」

 「そうか?まあ他の家よりは広いかもしれんな。まあ入れよ」

 「私たちは着替えさせてもらうね」

 リビングのソファに腰を下ろし、桜が淹れてくれた麦茶を飲んで一息つく。

 「どうする?プレスタでもいいし、成人ゲームでもいいぞ」

 「あっ、これ気になってたやつ...」

 陽が棚にあったゲームソフトを手に取ってパッケージを見る。大人気アクションゲームのリメイクで、操作性が向上しているとか新しいステージが楽しいとかいうレビューをネットで見かけたのでやってみたいと思っていたのだ。

 「対戦か共闘じゃなくていいのかよ?」

 「最大四人ですから...まあでも共闘のほうがいいか。じゃあワールドフットボーラーズしかなくないっすか?」

 「ああ、それ父さんのだわ。私はやったことねぇな」

 「御手洗くんはやったことあるの?」

 「昔やってたけど今は別のサッカーゲームをやってる。お父さんは一人でやってるの?」

 「なんかオンライン対戦してるらしいぞ」

 陽は面白いことを思いついた。

 「自分の好きなものに興味を持ってもらえると嬉しくなるものです。普段一人でインターネットの向こうの相手と対戦してるお父さんに、『今日は私と対戦しようよ』なんて言ったら絶頂ものですよ」

 「そうなの?」

 「お前の言いたいことがわかったぞ。私が父さんをボコボコにできるくらい強くなって驚かせてやろうということだな?」

 陽が頷くと、面白そうなことに乗っかる主義の椿がコントローラーを持ってゲームを開始した。コントローラーが二つあったので桜がもう一つを持った。姉妹で協力して大きな相手を撃破しようというのだ。

 「で、どうすればいいんだ?」

 画面には試合前のセレモニーの様子が映されており、操作方法すら知らない二人に試合をしろと言っている。チュートリアルはなく、やって覚えろという態度だ。

 「ああ、本体のアカウントがお父さんのじゃないから最初からになってるんだ」

 「これ最初なのかよ?操作方法の説明をだな...」

 「不親切ですけど、やってれば慣れるし負けても何も問題ないので」

 陽がコントローラーの設定をして二人で一つのチームを操作するようにした。

 「よ、よぉし」

 椿のパスを受けた桜が選手を操作してゴールへと運ぶ。コンピュータのレベルは最低に設定されているようで、少し斜めにスティックを傾けるだけで相手選手を躱すことができる。

 「あっさりドリブル突破したが」

 「正面衝突すると奪われます。相手のレベル上げると鬼のように奪いに来ますよ」

 「そうなのか...よし、ゴール見えてきた」

 「〇でシュート...えい!」

 スティックで方向を指定しないままシュートを打ったのでボールはゴールとは違う方向へ飛んで行ってしまった。

 「あれ?」

 「スティックで方向指定しないと正面に蹴るよ」

 「そうなんだ~」

 「後半私たちがやっていいか?」

 「もちろん!」

 前半をスコアレスで終えたが、基本の操作を覚えた小宮山姉妹。後半は椛とノイエがコントローラーを握り、勝利を目指す。二人は待ち時間にマニュアルを見て操作方法を覚えていたので最初からそれなりの動きができる。

 「はい!」

 「はい!」

 「シュートっ!」

 力加減が難しく、ボタンを押しすぎると威力が強くなるが精度が落ちる。一対一で『ゴールにパスをする』という表現のシュートが適した状況で〇を長押ししたため、キーパーの後ろにボールが行ったが枠に当たってゴールならず。悔しがったノイエは相手にスライディングタックルをかまし、イエローカードを貰った。ただし相手のレベルが低いためフリーキックは入らず、ロングパスを繋いで再びゴール前に侵入することに成功した。

 「ここでパス!」

 「うおっ」

 キーパーの意表を突く横パスを出す判断をしたノイエは椛までもを騙していた。椛が操作する選手はパスを受け、シュートをせずにスティックの傾きに従ってドリブルし、無人のゴールに入った。

 『ゴ~ル!待望の先制点は後半に生まれました!』

 「よっしゃぁ~!」

 「シュート打てなかった」

 豪快なシュートではなくドリブルでゴールする光景はなかなかにシュールであり、観戦者たちも失笑した。意図した形ではなかったものの一点を獲った和室部軍団はそのまま勝利し、ようやくメニュー画面に至ることができた。

 「ああ、これが本来のメニューなのね」

 「そうです。この『キックオフ』ってところからさっきみたいな試合ができます」

 「じゃあ今度は対戦してみる?」

 「いいよ。さっきのチームでやるの?」

 「いや、選べるから好きなの選びな」

 チーム選択画面では世界中の様々なチームを選ぶことができるが、女性陣が知っているチームはごく僅かだ。

 「ああ、ここはこの前テレビに出てたね」

 「あ、日本のチームもあるんだ」

 「この星と数字は強さだな」

 「そう。当たり前だけど数値がでかいほど選手の動きが機敏で操作しやすくなるし、右スティックをガチャガチャやって発動するスキルがより高度になる」

 同じくらいの強さのチームをそれぞれが選んで試合を始め、互いに一歩も譲らぬ展開でPK戦にもつれこみ、集中が切れた椿が五本目を外して決着がついた。椛対ノイエはというと、互いに攻撃を重視して守備を疎かにしたことで打ち合いとなり、5-4で椛が勝利した。これは椛のほうが実力が上だったというよりも順番と時間の都合でそうなったと言える。

 八時くらいまで戦っていた四人は中級レベルの敵を撃破できるくらいに上達し、スキルもいくつか使えるようになっていた。陽はまだ父親に挑むのは早いとしたが、家に帰って風呂上がりに通知を見て驚愕した。

 『勝ったぜ。』

 写真には敗北して悔しがる小宮山父とピースサインの椿と桜が映っており、その奥の画面には1-0と表示されている。

 『マジかよ』と返すと、『知らない人とじゃなくて友達とやってたらしい。どっちも初心者』と返ってきた。よくよく考えたら小宮山姉妹を満足に養うためには懸命に働かなければならず、ゲームに長い時間を使う余裕はない。ともあれ、親子で楽しい時間を過ごせたようでなによりだ。

 「...小宮山パパ、マジでビール腹なんだなぁ」

 社会の辛さ(?)を少し知った陽であった。


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